「歌会」へ向かう日のこと

大田康湖

「歌会」へ向かう日のこと

 私が1990年代から長年聞いているアニソンラジオ番組『青春ラジメニア』は、ラジオ関西という神戸のAMラジオ局が放送している番組だ。東側に指向性のある電波だったため、関東地方でも深夜ならなんとか電波をキャッチすることができた。

 こうした聴取エリア外のリスナーの交流のため、有志が作ったサークルが「エリア外リスナー交流会」である。公民館などでゲームや座談会をしたり、展覧会などのイベントに行く、カラオケの後に忘年会を行う等、一月に一回定例会を行うペースで活動を続けてきた。


 「エリア外リスナー交流会」結成から30年以上経ち、コロナ禍も経て定例会はほぼなくなったが、それでも年一回の開催ペースを守って続いているのが「歌会」である。公共施設の視聴覚室を貸し切り、サークルメンバーが自分の歌いたい曲をリクエストして準備した映像と共に歌う会である。サークルのサイトでの案内や『青春ラジメニア』の放送内でも宣伝ハガキが読まれるので、エリア内のリスナーも来て交流するイベントとなっている。

 ただ歌うだけではなく、ミニゲームや座談会も行う。映像に歌詞を付けるための準備、イベントのアイデア出し、当日の役割分担を決めるため、打ち合わせにも数ヶ月をかけていたが、現在ではほぼZOOMで行われるようになった。それでも主催者のこだわりで、開催前に一度は顔合わせをすることになっている。


 2024年9月16日の朝、都内の会場で行われる「歌会」に行くため、私は横浜駅にやってきた。いつもだと事前に案内の手紙が届くのだが、今年は主催が多忙なのかメールしか届いていない。ひとまずメールをスマホに転送しておいたはずだが、スマホを見ても入っていない。とりあえず会場は毎年使っている公共施設なので、私は電車に乗って最寄り駅に向かうことにした。


 横浜駅西口に着くと、花やお供え物がある一角が目に付いた。先日、駅ビルから飛び降りた人が巻き込まれた歩行者と共に亡くなるという傷ましい出来事が起きたが、ここが現場だったようだ。本当に人ごとではなく、心が締め付けられるように感じた。


 それはともかく、会場の設営準備があるので急いで行かなくてはならない。私は気を取り直して電車に乗り、会場の最寄り駅に向かった。

 一年ぶりに来た最寄り駅は大きな駅そば屋ができていたり、いつもお昼を買っていたコンビニの入っていたビルが解体中だったりと色々変わっていた。

 (今日は先にお昼買っといて良かった)と思いながら、私は公共施設に到着した。会場の視聴覚室ではもう設営が始まっている時間だ。どうもいつもと雰囲気が違い、視聴覚室の中からは生楽器の演奏が聞こえてくる。恐る恐るドアを開けると、黒のドレス姿の女性が顔を出した。ここでようやく私はサークルのサイトをスマホで確認する。やはり私は一週間早く来てしまったのだ。


 というわけで、私は重い荷物を背負って帰宅したのだった。帰宅してから(折角外出したのなら、在庫がないダビング用のブルーレイディスクを買っとけば良かった)と思ったが、後の祭りである。


 翌週主催から無事手紙が届き、改めて会場に向かった私は、無事歌会を楽しむことができた。これから何年続けられるか分からないが、定期的に会う友人がいるのは幸せなことである。


おわり

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