人が神と呼ぶモノ

白川津 中々

◾️

性器や性行為、または淫らな描写を伴う表現の一才を禁ずる。



公式に改訂された法案にはそう記載されていた。

20XX年。青少年健全化法案の制定により動画や画像をはじめ、漫画表現さえエロスの描写が原則禁止となる。多くのクリエーターが反対を表明し「表現の自由を守れ」と一致団結するも願い叶わず。悪法もまた法なりの精神により法律遵守を余儀なくされた。商業18禁誌はフェチズムへ舵を取るも「ケモの耳や尻尾は性器か否か」「いやいや脇は性器じゃないだろう何言ってんだ」「どう考えても車のマフラーは性器だろ」と頓狂な議論が交わされ多くが廃刊。多数の社会不適合者が野に放たれた結果地下で闇同人がやり取りされるようになる。これまでグレーだった部分が違法となった事で表現はエスカレートしていき、エロスはついに人の手に余る神魔の陵域へ到達。偶像化が進み邪教が誕生した。

政府はこの状況を危惧し大々的な討伐活動を実施。実力行使にプロパガンダ活動などあの手この手を弄するも雨後のタケノコがごとくチャカポコ信者が湧き出てくる為イタチごっことなる。二次元的エロスの目視を禁じられた若者が異教に身を染めるのは無理からぬ事。血気盛んな童貞の数だけ精力もとい勢力が増していくのであった。


かくして日本はエロス崇拝教と政府との内戦に突入。国内初の宗教戦争の始まりである。終戦の目処は立たず、貧苦に喘ぐ若者達は娯楽目的による性交で憂さを晴らす。一方で、エロス崇拝者はもはやなにがなんだかよく分からない肉塊に高揚し礼拝を続ける。


両者の間にできた溝は、広く、深くなり続けるばかり。交わらざる人同士となってしまった者達に残された道は征服か死のどちらかしかない。


世はまさに、性器末であった。

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