運命って信じる?

川木

運命の人

「運命って、信じるタイプ?」

「え? ああ、まあ、あるんじゃない?」


 澤田朱美さんが柔らかい微笑みでそう聞いてきたので、私は驚きながらも曖昧にそう頷いた。

 澤田さんとは今日、ついさっき出会ったばかりだ。それも、大学の図書館で本をとろうとして手が重なる、と言うベタすぎるものだった。

 学科が違うけど同じ一年で同じ基礎授業を受けていた澤田さんと本をシェアする為、こうして自習室にやってきて一緒に勉強をしている。課題でこの本を読んでまとめてこいというものだったので。


 澤田さんがめちゃくちゃ友好的でぐいぐいくるので何故かそんなことになった。別に私も人見知りするとかでもないけど、積極的に交友関係をひろげていくタイプでもないのでこうして出会ったその日に一緒に勉強して連絡先も交換するのはだいぶ珍しい展開だ。


 そんな流れで勉強が一息ついたところだ。雑談としてなのだろうけど、運命を信じるかなんて唐突な質問だ。なので驚きと共にあいまいな返事になってしまった。


「そう? よかった。……あのさ、真面目な話、してもいい?」

「え? う、うん。いいよ」


 何を言われるのかわからないけど、そもそもさっきまでも勉強して真面目な話をしていたので了承する。澤田さんはさっきから見せてくれていた柔和な微笑みを消した。

 そしてどこか緊張したような固い顔になって周りを見てから、机の上に身を乗り出す様にして顔を寄せてきた。それにつられるように私も少し緊張してこの自習室に他に人がいないことを確認してから澤田さんの顔を見返す。


「その……私、渡邉さんに一目ぼれしたみたいなんだ。私たち、運命の相手だと思う。付き合ってほしい」

「……」


 思わずもう一度周りを見渡す。どっきりではなさそうだ。いやだって、運命を信じるかっていう質問は私が運命の人って言う伏線だったのか。


「急なことだってわかってる。出会ったばかりだし、ここから仲良くなってから言うべきだったかもしれない。でもそれで手遅れになるよりは、今言うべきだと思ったんだ。まだ渡邉さんにとって私が運命の人ってぴんときてないかもしれないけど、絶対、私が運命の人だって、恋人になってよかったって思わせて見せるから」


 澤田さんは机の上の私の手をとってぎゅっと握ってそう必死に言いつのってきた。ちょっと可愛くてきゅんとした。


 明け透けに言えば私は大学生になったんだしそろそろ恋人がほしいなとは思っていた。今まで特別な恋愛感情を抱いたことはなかったけど、むさくるしい男性よりは可愛い女の子が好きなので、そっちがいいかなとぼんやり考えていた。

 澤田さんは女の子だし顔も結構いいけど、可愛い系と言うより格好いい系だ。髪も短いし服もパンツスタイルで女子高だと王子様になれそうな感じ。


「……いいよ。私はまだ澤田さんのことを運命の人だと思ってないけど、それでもいいなら恋人になろっか」


 だから少し悩んだけど、私を好きになる女の子がこんなにタイミングよく現れたのだ。まだ全然お互いのことはわからないけど、少なくとも澤田さんは清潔感もあるしキスくらいなら想像しても全然嫌悪感もない。とりあえず恋人になるのに抵抗はないし、いいか。


「えっ、ほ、本当にいいの?」

「こんな嘘言わないよ。よろしくね、朱美ちゃん。私のことも好きに呼んでね」

「っ、あ、ありがとう。絶対、後悔させないよ、麻紀子」


 そう言って朱美ちゃんは嬉しそうに私の手を握ったまま自分の胸に引き寄せてはにかんだ。

 私のことがすごい好きなのは伝わってきて、可愛い。きっとそのうち、私も朱美ちゃんを運命の人と思うんだろうな。そう前向きに思えた。









 運命の人だ。と思った。本当だ。きっと麻紀子は私の運命の人だ。それはきっと本当だ。

 高校の時、好きだった先輩に学生時代の遊びだったとフラれてから、恋をするのが恐くなった。もう二度と恋なんてしないとまで思った。だと言うのに、大学生になってすぐに出会った麻紀子に私は一目ぼれをした。

 同じ本を手に取って、驚いたその顔を見た瞬間、私の心臓は高鳴った。そんなはずないと思いながら、少しでも麻紀子に近づきたい一心で話しかけ、順番に本を読んで一緒に勉強した。

 ほんの少しの時間だ。二時間もない。その時間で、もうすっかり、自分をごまかせないくらい好きだと自覚してしまった。


 いてもたってもいられなくて、今度こそ、この人を逃したらもう二度と恋なんてできないと思って、私はその場で交際を申し込んだ。情けないくらい懇願するような告白に、麻紀子は頷いてくれた。

 それで本当に、麻紀子にとっても私は運命の人なんだって浮かれた。


 でも、そうじゃない。一緒に過ごしていればわかってしまう。彼女は可愛いものが好きだ。彼女の身の回り全部彼女の思う可愛いものであふれていて、いつも可愛いものを見ていて、彼女がふと目をやるのもいつも、可愛い女の子だ。私とは、似ても似つかない。

 私は背も高いしどちらかと言えば男顔で髪も短い。服装の趣味もあって、男に間違われるのしょっちゅうだ。自分でも、そんな自分が気に入っていてそうしている。だけど麻紀子の趣味とは何もかも違う。

 きっと私があんまり情けない告白をするから、優しい麻紀子は同情して頷いてくれただけなのだ。


 付き合って一か月もすればそれがわかったけど、だけど、それでも別れることなんてできるはずがなかった。一か月も麻紀子と付き合って、最初よりもっと彼女を好きになってしまった。

 麻紀子の運命の人は私じゃないかもしれない。それでも、私の運命の人は麻紀子なのだ。それはもう変えられない。


 だったら、私がやることは決まっている。私が麻紀子の運命の人じゃないとしても、運命の人と同じくらい私を好きになってもらって、運命の人だって勘違いするくらい幸せにするんだ。それが運命の人だからって口説いた私の責任だ。

 嘘でも、一生貫いて、麻紀子の中で本当にすればいい。


 とはいえ、私がこれから麻紀子のタイプになるよう可愛くなるつもりはない。可愛いものは似合わないとまでは言わないけど、麻紀子が求めるレベルにはならないだろう。それに麻紀子は好きだけど私自身の振る舞いとしては趣味じゃない。無理に自分を曲げて好きになってもらうなんて無理があるし、仮になってもらえたとしてそれじゃあ長く続くものじゃないだろう。

 だから麻紀子には格好いい私のよさをわかってもらうんだ。格好良さなら、もっと上を目指せる自信がある。頑張って低レベルの可愛いになるのではなく、高レベルの格好いいになって、可愛いのが好きな麻紀子でも私を好きになってしまうくらい、もっともっと頑張る。


 それが私にできることだ。


「え? 私の家?」

「うん。いいでしょ? 一人暮らしなんでしょ?」

「そうだけど……面白いものは何もないよ?」


 そう思って頑張っているのだけど、さすがにそう簡単に魅力的になれるものでもない。まだまだこれからと言うところだ。

 梅雨入りしてここ数日雨が続いている。次のデートについて決めようとしたところ、麻紀子から私の家に来たいと言い出した。


「お家デートっていうのもよくない? 映画でも見ればいいし。あ、嫌ならもちろんいいけど」

「嫌なわけないよ。麻紀子ならいつでも大歓迎。じゃあ、次回は私の家で」

「うん」


 了承すると麻紀子は嬉しそうに頷いた。とても可愛い。いつでもは言い過ぎだけど、実際拒否する理由はない。

 とはいえ、まだデートでも二人っきりになったことはない。正直かなり緊張してしまう。


 週末のデートまで招いても恥ずかしくないよう部屋を綺麗にしたり簡単に模様替えまでしたりして、万全の準備をして臨んだ。


「お待たせー、ごめんね、わざわざ迎えにきてもらって」

「麻紀子を一人で歩かせるわけないでしょ? 荷物持つよ」

「ありがとう。カッコいいね」


 笑いながら褒めてもらえたのでウインクをして応える。今のは我ながらかなりスマートなエスコートなのではないだろうか。


 一足飛びに格好良くなることはできない。できることから少しずつこうして格好いいふるまいをするよう心掛けていれば、いずれ意識しなくてもそうできるようになれるだろう。

 とはいえ、今は私が意識して努力しているけど外から見れば無意識かどうかまではわからないものだ。これだけで惚れてもらえるとは思わないけど、少しずつ麻紀子にカッコいい、カッコいい女もいい。と思ってもらえるようになっていっている、はずだ。


 少なくとも麻紀子はこの一か月、別れを言い出すこともないかった。そして今現在初対面から仲良くなれているだけじゃなくて、恋人としての距離感で接してくれているように感じている。

 デートの予定を立てるのも麻紀子も積極的だし、手ごたえはある、はずだ。


「へー、いい部屋だね」

「ありがとう。そう思ってもらえたならよかったよ。座って」


 部屋に招く。私の部屋に麻紀子がいる。覚悟していたけど自覚すると緊張してしまう。

 風呂トイレ別にはこだわったけれど、さすがにワンルームだ。当然ベッドもある。その前にあるクッションに座ってもらいできるだけ意識しないようにする。

 座ってもらい、お茶とつまめるお茶菓子を用意してクッションの前のローテーブルにのせ、さっさとテレビをつける。


「何にする?」

「うーん、ちょっと見せてもらっていい?」

「もちろん。私は特に見たいものはないから任せるよ」

「おっけー」


 サブスクの画面にしてからリモコンを渡す。普段はあまり映画は見ないけれど、新作で気になっていたものがはいったりしたら見ているので、特別思いつくものはない。なので麻紀子にお任せだ。


「苦手なジャンルとかはない? ホラーとか」

「ないけど、ホラーが好きなの?」

「ううん。見たことない。だからちょっと興味がなくはないけど。でも今日はせっかくのお家デートだし、恋愛ものにしよっか」

「うん、そうだね」


 お家デートって言うワード気に入ってるのかな。可愛い。


 比較的最近はいった恋愛映画で私もタイトルは知っているものになった。私はあまり恋愛映画は見ないので初見だ。

 ラブコメもので思ったよりコメディもので楽しめた。ラストはキスシーンで〆というベタなものだけど青春映画らしい爽やかさで、健全なカップルである我々が見ても気まずくないベストチョイスだった。


「面白かったー。どうだった?」

「私も面白かったよ。ナイスチョイス。恋愛映画は普段見ないけど、たまにはいいね」

「だよね。爽やかで、告白シーンもよかったよね」


 感想を言い合う。お互い評論しあうほど映画にこだわりがあるわけではないけど、やっぱり楽しんですぐにその感想を言い合うのは楽しい。

 同じところが楽しかったと言うのも共感して気分があがるし、思いもしない意見もそう言う見方もあったかと面白い。


「さて、そろそろお昼だし、用意するね」

「ほんとに任せていいの? 全然手伝うよ?」

「ここは任せてくれると嬉しいな」

「じゃ、お願いします」

「うん、任された」


 それなりに感想会を楽しんでいい時間になったので、そう宣言して立ち上がる。


 昼食は事前に私が手料理をふるまうと宣言しておいた。気持ち的にはサプライズにしたいくらいだけど、どうせ目の前でつくるのだし、気を使って何か買ってきてもらったりしたら申し訳ないので。

 下手なサプライズは外れた時に格好悪く見えてしまう。そうならないよう、素直に話しておくのがよし。と言う判断だ。


 とはいえ、それほど凝ったものができるわけでもないし、昼食に大仰なものが出てきても引かれてしまうだろう。

 日頃より家事をしていてそれなりになれているアピールと考えているので、ここは無難にパスタだ。見栄えがするし二人とも好きなカルボナーラ。

 なお作ったことがなかったのですでに一度練習済みだ。それに紙パックのコーンスープを合わせてセットっぽくした。


「んー、美味しいっ。朱美ちゃん、料理上手なんだね」

「まあそれなりに、ね。だから一緒に住んでも料理を任せてくれても大丈夫だよ」

「えー、私だってちょっとくらいは料理できるからね」

「え? そ、そっかー」

「ふふ、そうだよ。でもほんとに美味しいよ、ありがとね」


 待って? 今恰好つけて流し目で口説いたつもりなんだけど、さらっと将来一緒に住む設定を肯定されてしまった。これは麻紀子も同棲を視野に入れてくれているってこと!? それとも単に言葉だけの意味? わ、わからない。

 わからないけど私の方が照れてしまってスルー気味な返事になってしまった。幸い気分を悪くするでもなく笑ってくれたけど。


 思わぬ不意打ちに、これ以上のことはできないまま昼食を終えてしまった。麻紀子は時々こういうところがある。そのせいで私は麻紀子の前に限ってなかなか格好つけきれていない気がする。いや、麻紀子のせいにするわけじゃないけど。


 昼食を終えたので、次の映画だ。用意をしてまた隣に座る。気持ちを切り替えて映画に集中することにする。

 あまり麻紀子を口説くのに気を取られすぎて映画をおろそかにしても、麻紀子からしたが感じが悪いだろう。一緒に見るなら見終わってからの感想の言い合いも大事だしね。


「これは知ってる?」

「ん? いや、見たことないし知らないよ」

「そっか、じゃあこれにするね」


 二本目も麻紀子が選んでくれた。どうやら気になっていたのがあったらしい。よかった。

 聞いたことがない映画だったけど、見た感じ何年か前のものっぽい。さっきがオーソドックスなものだったので違う雰囲気のものか、はたまた同じ系統なものか。


 わくわくしながら待つ。まずはオープニング。どこか深刻そうな雰囲気の女性が二人いる。事件が始まりそうな意味深な会話をしてから、映画のタイトルが表示される。

 恋愛ものではなかったのかな? と思っていると、不意に左手をつかまれた。一瞬ぎょっとして振り向く。


 当たり前だけど私の手を掴んだのは隣にいた麻紀子で、こっちを見ていた麻紀子と目が合ってにっこりと微笑まれた。手を見る。私の手の甲に重ねるようにして掴まれている。

 もう一度麻紀子の笑顔を見て、それからようやく現実を理解する。どきどきと否応なく胸がときめいてくる。


「え、ど、どどうしたの?」


 馬鹿みたいに動揺してしまった。自分で発言してから恥ずかしくってときめきとは別に赤くなるのを自覚する。さすがに動揺しすぎだし格好悪すぎるでしょ。


「ふふ、映画デートなんだから、定番じゃない? 嫌?」

「嫌じゃない。その、急だったから驚いて」

「じゃ、手、繋いでくれる?」

「う、うん……」


 だけどそんな私に麻紀子はお姉さんみたいに余裕気に微笑んでそう優しくリードしてくれた。ドキドキしながらそっと手をひっくり返す。

 とはいえ、乙女な反応をしてしまったので、ここは思い切って力強くしっかり握ってちょっとはやりかえそう。そう心に決めながら麻紀子の手を握ろうとして。


「ひゃっ」

「んふふ」


 私が握るより先に、麻紀子は私の指の間に突っ込むようにして恋人つなぎをしてきた。その勢いに思わず変な声がでてしまった。

 私は手が大きい方で、麻紀子は私より一回りも小さい手をしている。なのにぐっと指の間にはいられると密着度も高くて、覆いかぶされているような感覚になる。


「麻紀子……な、なんだか、今日は積極的だね」

「こういう私は、好みじゃない? もっと大人しくて清楚な感じがいい?」


 ドキドキするのをごまかすために口を開いたのに、顔を覗き込むようにしてされた質問に、ごまかせないくらいときめいてしまう。


 この一か月の間、基本的にずっと健全にしてきた。手だってつないでいない。だって麻紀子にその気がないのに、無理に恋人らしい振る舞いを強要したって嫌われてしまったら最悪だから。

 この一か月、麻紀子と仲良くなれているのはわかっていたけど、もしかして麻紀子じゃちゃんと恋人として距離をつめていたと考えてくれていたのか?


 そ、その発想はなかった。というか全然心の準備してなかった。


 お、落ち着け。これは、いいことだ。と言うかめちゃくちゃ嬉しい。少なくとも麻紀子は私と友達よりもう一歩先のスキンシップをしてもいいと思ってくれてるんだ。

 だから、ちゃんと答えないと! 麻紀子から歩み寄ってくれたのに私から日和るわけにはいかない! 麻紀子の勇気を無駄にしたくない!


「そんなことない。ごめん、びっくりして、勘違いさせちゃって。私はどんな麻紀子でも好きだよ。最初よりずっと、どんどん麻紀子のこと好きになってるくらいだよ」

「んふ、えへへ。ありがと。嬉しい」


 ぎゅっと麻紀子の手を握り返し、さらに右手で麻紀子の手を包むようにして真剣に思いを伝えると、麻紀子はぽっと頬をそめて愛らしく微笑んだ。

 その微笑みの可憐さに見とれてしまう。なんて可愛いんだろう。可愛すぎる。こんなに可愛い子が私の恋人で手までつなげちゃうなんて。好きすぎる! 絶対、絶対麻紀子を惚れさせるんだ!


 麻紀子の可愛さに惚れ直してしまい、見とれながらこれで満足せずもっともっと麻紀子と仲良くなって惚れさせて本当の恋人になるんだ! と気合を入れたその瞬間。


「ん」

「ん!?」


 見つめあっていた可愛い麻紀子の顔が飛び込むようにドアップになった。それに反応する間もなく、気が付いたら私の視界は麻紀子で埋まり、唇が柔らかいものに触れていた。


「んふふ。朱美ちゃんは本当に、可愛いねぇ」


 キスをしたのだ、と理解する前に顔が離れる。そして瞬きの風圧を感じるような至近距離で、麻紀子は囁くようなとろける声でそう言った。

 かーっと、遅れて体温があがる。どっどっど、と心臓が痛いくらいに動いている。


「きっ、き、きす……」

「うん。しちゃった。朱美ちゃんがあんまり可愛いから」


 可愛い! 恥ずかしそうにはにかむ麻紀子は可愛いし、キスが嫌だったわけじゃない。健全に、とは思っていたけど、いつだってしたかったし、自重していただけでできるものなら今日家で二人きりなんてもしかしてできないかなってちらっとも考えなかったと言えば嘘になる。

 でも、でも!! おかしくない!!!?


 だって、え、可愛いって? なに、可愛いからキスされた?

 そりゃあ、私だって女だし、可愛いって思われて嫌なわけじゃない。他ならぬ麻紀子にそう思われるのは嬉しい。うん、間違いない。できるなら可愛いで惚れてもらったって全然いい。麻紀子を捕まえられるなら、運命の人でいられるなら、その方法はなんだっていい。

 でもそれは無理だろうから、カッコいいに振り切ろうとしたのに! 格好つけて、格好よく見えるよう頑張ってたのに! なのに、あんなに格好つけた結果可愛いと思われてたって!

 それは、それはちょっと違うのでは? 普通に、普通にめちゃくちゃ恥ずかしくなってきてしまう。だって今日だっていっぱい格好つけてたのに。さっきもできるだけ情けなく見えないよう頑張ったのに。それも可愛いと思われてたなんて。

 ふ、複雑!!!! 嫌じゃないけど、可愛いが駄目じゃないけど! ものすごく複雑なんですけど!?









 私の恋人が可愛すぎる。前の私は浅はかだった。本当の可愛さと言うものを何もわかってなかった。見た目にとらわれていた。

 朱美ちゃんは中身が可愛い。見た目スマートな王子様で本人もちょっと格好つけたところがあるけど、それ以上に乙女な心を持っていて、純粋でピュアですごく可愛い。


 私のことが好きって朱美ちゃんの全身が語っている。目が、言葉が、私のことが好きで、好きになれってめちゃくちゃ言ってくる。

 正直に言ってこんなに可愛い女の子見たことない。


 こんなに情熱的で一生懸命で健気で可愛い女の子が、まっすぐ私を見つめてくるのだ。

 これで好きにならない方がおかしい。二週間も経つ頃には正直に言って、なるほど、これが運命の相手か。と理解していた。

 可愛い。運命の恋人をこんなにすんなりゲットできるとか、私の人生恵まれすぎじゃない? 最高すぎる。


 そうして恋人になってハッピーな生活を送っているのだけど、今日のデートは私としては気合を入れている。


 そう、今日は恋人になってから初めて二人きりのデートなのだ。朱美ちゃんが運命の人と自覚してから、健全すぎるデートにちょっとだけ、ちょっとだけね。もどかしさを感じていた。

 甘い言葉を吐いてくれはするし、私の一挙手一投足にときめいてくれているし、空気にデートの甘さがあるのは間違いない。だけど手もつながないし、距離感が友達と全然変わらない。

 異性とならともかく、女友達と言うのは手が触れ合うくらいの距離は珍しくない。少なくとも他の友人にデートを見られても、デートとわかることは絶対にない。そんな距離感だ。

 もどかしいでしょ、そりゃ。大学生活なんて言う最後のモラトリアム、残された人生の余暇タイム中に運命の人と出会って恋人になっているのに、もったいないでしょ。


 はっきり言うと、もっといちゃいちゃしたいでしょ! 恋人にしかできないこといっぱいしたいでしょ!


 と言うわけだ。


 なので今日、進展してしまおうと思ってた。もちろん一足飛びにいくつもりはないし、朱美ちゃんの心の準備もいるだろうけど、いけそうならキスはするつもりだ。無理でも手をつないでハグは最低でもしたい。


 そう言う心づもりで気合を入れていたのだけど、そうとは言っても、まさか手をつないだ勢いでそのまましてしまうとは。


「ごめんね。いきなりしちゃって」

「あ、謝らなくても、大丈夫だけど」


 あー、可愛すぎる。急にキスしたのに顔真っ赤にしてぷるぷる震えてるの可愛すぎる。


 いやほんと、私もここまで急にするつもりはなくて、まず手をつないで十分にムードを高めてから映画の中のキスシーンに合わせてキスをするつもりだった。

 そのためにわざわざ調べて、この女吸血鬼が女学院に侵入して女学生を次から次に手籠めにしていくキスシーンがめちゃくちゃ多い映画を選んだのに、始まって十分であるキスシーンより先にキスしてしまった。


「ほんと? ありがとう。じゃあ、もう一回するね」


 でも仕方ないよね、だってこんなに可愛い顔されて、我慢できるわけないもん。


「う、うん……あの、麻紀子……一個だけ、聞いてもいい?」

「なぁに?」


 もう映画なんて視界にはいらないくらい顔を寄せると、朱美ちゃんは真っ赤なままそう尋ねてきた。

 それは朝会った時の凛々しい感じとは程遠い愛らしさで、そのギャップでより一層朱美ちゃんの可愛さが際立って私のときめきは加速してしまう。

 はー、たまらない。もうこのまま、キスまでと言わず朱美ちゃんが嫌って言うまでいちゃいちゃしてしまおっかな?


「私、麻紀子の運命の人になれたかな?」

「えー? ふふふ、何言ってるの?」


 促すと恐る恐るされた質問に思わず笑ってしまう。だってそんなの、朱美ちゃんが私に教えてくれたことなのに。

 どうしてか急に自信をなくしてしまった可愛い明美ちゃんに、私は耳元に顔を寄せて、優しく答えてあげることにした。


「最初から、私の運命の人は朱美ちゃんだったよ」


 この後、可愛い朱美ちゃんの可愛いところをいっぱい楽しんだ。


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運命って信じる? 川木 @kspan

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