3.般若の船/楠木夢路(紹介No. 14)
今回は、男の友情を描く時代小説『般若の船』(楠木夢路さん作)を紹介します。このコラムの最後、------の後はネタバレになりますので、作品を読んでいない方は飛ばしていただけると幸いです。
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紹介No. 14
URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093083056233556
話数:21(2024/9/9現在)
文字数:23,596文字(2024/9/9現在)
投稿状態:完結済
セルフレイティング:残酷描写有り
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以前に本エッセイで水城洋臣さん作の歴史小説『ただ鴛鴦を羨みて』(紹介No. 6)を紹介しました。その作品に出会ったきっかけが、碧月 葉さんの主催された自主企画『【書架】少し大人な“ヒストリカルロマンス”』(2024/10/1~10/31)でした。今回紹介する『般若の船』も、碧月 葉さんが今年8月に主催された別の自主企画『【書架】“友情・人情”が詰まった「歴史・時代」小説』で知りました。奇しくも同じ方の自主企画で紹介作品2作に出会えたことで、趣味の合うテーマの作品との出会いに自主企画を活用できることを実感しました。
自主企画主催者:碧月 葉さん
『【書架】“友情・人情”が詰まった「歴史・時代」小説』(2024/8/1~8/31)
https://kakuyomu.jp/user_events/16818093082084458099
昨日(2024年10月29日)の私の近況ノートでもご報告している通り、『般若の船』は、水無月氷泉さんの『隔週カクヨム~考えるな、クリックだ』20241001号の剣豪小説特集に私の書いたアピールポイントと共に追加掲載されています。過去の特集にも随時掲載を受け付けているそうですので、特集のテーマに合う作品を見つけたら、もしくは自分の作品がテーマに合っていると思えば、『隔週カクヨム』に推薦できます。ただし他薦の場合は、事前に作者さんに承諾を得るようにし、水無月 氷泉さんから作者さんに連絡しなければならない労力をかけないようにしましょう。
水無月氷泉さん作『隔週カクヨム~考えるな、クリックだ』20241001号「日本刀が唸る!剣豪が活躍する時代小説」 https://kakuyomu.jp/works/16816927863355398339/episodes/16818093085918554421
私の近況ノート「【作品紹介】『隔週カクヨム』に私の推薦作品が掲載されました」(2024/10/29)
https://kakuyomu.jp/users/Tazu_Apple/news/16818093087627864899
私が『般若の船』のレビューを投稿したら、楠木夢路さんは近況ノートやXで皆さんにお知らせしたり、上記の近況ノートのこともXに投稿したりしてくださって、とても嬉しかったです。
楠木夢路さんの近況ノート「「般若の船」にレビュー頂きました!」(2024/10/24)
https://kakuyomu.jp/users/yumeji_k/news/16818093087295149124
それでは恒例の粗筋です。
【粗筋】
源之進は道場の剣術指南役だが、巷で噂になっている辻斬りの被害に遭ってしまった。勝手に友人顔してくるお節介男遠野が心配顔してやって来て、彼の調子に狂わされた源之進は、何だかんだ言って結局謎の辻斬りを一緒に追うことになってしまった。源之進は無神経な遠野の押しの強さに辟易しながらも、彼と協力して犯人像に近づいていく。それにつれて最初は友情と言えるか微妙な関係だった2人の間柄は変化していく。
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本作にはあやかしの出てくる『夜叉神峠』という後日譚があります。時系列的には『夜叉神峠』は『般若の船』の後の話なのですが、楠木夢路さんは先に執筆したそうです。結末に縛られていたのに、『般若の船』のように素晴らしい作品を書ける楠木夢路さんの筆力に感嘆しました。それもそのはず、楠木夢路さんは日本作家クラブ発行の『文芸』や『文芸中部』に作品を掲載したり、文学フリマにも出店したりしてプロ作家を目指しているそうです。
『夜叉神峠』には『般若の船』のとある重要な登場人物のその後が描かれているので、『般若の船』を読んだのなら、『夜叉神峠』も必読だと個人的に思っています。
『夜叉神峠』
https://kakuyomu.jp/works/16818093079714364246
昨今のWeb小説の傾向と異なり、楠木夢路さんは空行を入れずに書いています。でも会話文以外の地の文は1文ごとに改行されており、1話当たりの文字数も平均1100文字強なので、空行の多いWeb小説に慣れている読者にも読みやすいように工夫されています。
『般若の船』は、辻斬りや剣術道場のような剣豪小説の要素を取り入れながらも、主題は剣豪ではありません。主人公源之進は道場の剣術指南役であり、剣豪と言えるでしょうが、それよりも重要なテーマなのが彼と友人達の正義と友情です。現代的な言い方で言えば、男同士の熱い友情を描く江戸時代のブロマンスです。最後まで読むと、彼らの熱い友情のその後も読んでみたいなと思わせられること、私同様に必至でしょう。
源之進を辻斬り探しに駆り立てていく遠野は、無神経で人の気持ちの機微が分からず、謎の辻斬り犯人を追うのも正義感からなのか野次馬根性からなのか、途中までは分からない有様ですが、何故か憎めない魅力的なキャラです。それに対して源之進は、正統派ヒーローのような位置付けで誰もが愛するキャラですが、ひたすら強くてかっこいいだけの一面的なヒーローではありません。辻斬りの被害に遭ってしまったり、遠野の強い押しに負けて辻斬りの犯人を一緒に探す羽目に陥ってしまったりして少し弱い面も見せる、リアルな人物像です。
『般若の船』と『夜叉神峠』が魅力的な時代小説なので、楠木夢路さんは時代小説だけカクヨムで投稿しているかと思えば、そうではなく、現代ドラマや詩・童話・その他ジャンルでも作品を書かれており、多彩な才能を持ってらっしゃいます。計9作投稿されていますが、各ジャンル最新の作品のみ、ここに挙げます。
現代ドラマ『そして桜の樹の下で眠る』
https://kakuyomu.jp/works/16818093081725362176
童話『きつねのコン太と雪だるま』
https://kakuyomu.jp/works/16818093081489466935
『般若の船』への私のレビューはこちら:
https://kakuyomu.jp/works/16818093083056233556/reviews/16818093087288101361
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↓まだ読んでいない方はネタバレがあるので、飛ばして下さい↓
粗筋には出しませんでしたが、源之進の竹馬の友格三郎は普通に仲のよい友人という感じで、遠野との人間関係に対して対照的でした。いい意味で普通の感覚を持つ格三郎が源之進と遠野の間を無意識にとりもつことで2人の友人関係が確立したように思えました。最終話のその様子がとてもよく、3人のその後が想像できそうでした。いずれ3人のその後のお話も読みたいなと思いました。
辻斬りになった犯人の背景が涙ぐましく、ついそれに同情しそうになりましたが、彼が理不尽に奪った命を考えれば同情できません。冷静に考えられる遠野の見識がさすがと唸らせられました。さりとて格三郎の言う事も一理あるなと思ったのですが、一見無神経で押しが強い遠野にもそうならざるを得なかった理由があり、彼のキャラをますます魅力的に見せていました。
実は私は『夜叉神峠』を先に読んでいたのですが、『般若の船』を完読したのがそれから少し時間が経っていたので、記憶力が悪い私には『夜叉神峠』であんな結末になった登場人物と『般若の船』の悪役が結びつかず、モヤモヤしていました。その後、楠木夢路さんの2024年10月24日の近況ノートで捕物については『夜叉神峠』を読むべきと知り、それを再読してすっきりしました。それから『般若の船』の紹介文をよく見たら、ちゃんと『夜叉神峠』と合わせて読むようにお勧めされていて反省しました。
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