19 清少納言、ビンゴをする
ゴリ山田がぼやいた。
「同人誌即売会、やべえところだな……」
「ビッグサイトの本物のコミケはもっとやばいよ。こんなの規模の小さいほうだよ。ぼくは評論島を回るのが好きでね」
西園寺の教養ありますセリフを適当にスルーし、それぞれ適当に過ごすことになった。
ゴリ山田はオリジナルの画集を頒布している人のところを見に行き、西園寺はゴツいカメラを取り出してコスプレイヤーの人たちに声をかけ始めた。政子ちゃんはなにやら仄暗い印象のあたりで同人誌を買い漁っている。
情報過多でグッタリの清少納言があまりに役に立たないので、僕一人でお金の管理をし、正の字を書き続けた。あっという間に20部はけてしまった。
なんと清少納言の本が出るというのでそれ目当てに九州から新幹線を乗り継いできた、という猛者までいた。清少納言はやはり、歴史に燦然とその名を輝かせる随筆家なのだなあ、と思った。
売り物がぜんぶはけてしまったので、こわごわ母さんに頼まれたミッションをこなす。ドールさんとかいうリアルで案外背丈のあるやつを展示しているサークルは、ゴスロリ向けのアクセサリーやネイルチップを置いているところで、暗黒の女王感漂うきれいな女の子のドールさんを展示していた。
これこれこういうわけでして、と説明すると快く撮影許可が出た。バストアップをスマホで撮る。
「お母様がドール沼にドボンするの、楽しみにしてます」
「ありがとうございました」
やはりドールは沼らしい。別の、ドール服を置いているサークルには、きれいな顔の男の子、お兄さん? が展示されており、こちらも撮影許可が出た。
「お母様がドール沼にズッポリしたらぜひ弊ディーラーの服買いに来てくださいってお伝えください」
そういって名刺を渡された。頭を下げる。どうやらドール服などを扱う人たちは、サークルでなくディーラーと言うらしかった。
それにしてもけっこうな戦果だ。2体もドールさんの写真を撮ることができた。でも我が家にあのリアルで大きいお人形さんがいるというのはなかなかぞっとしない。せめてリカちゃんとかにしてほしい。大人向けに関節の動かせるリカちゃんも出たらしいし……。
売り物ははけてしまったのだが、サークル参加も一般参加も最後のビンゴ大会で使うビンゴカードを渡されているので帰れない。広く場所をとってビンゴ大会の景品が並んでいる。コスプレ衣装やアニメのポスター、フィギュア、キャラクターのぬいぐるみ、目玉景品としてドールさんもいる。ただし中古の改造済みのもののようだ。かわいいけどでっかくてちょっと怖い。
そろそろお昼だ。サークルスペース内での飲食は禁止なので、清少納言はそっとサークルスペースを出てロビーでカロリーメイトをポリポリ食べている。
清少納言が戻ってきたので入れ替わりにロビーに出ると、ゴリ山田が疲れた顔でおにぎりをもぐもぐしていた。
「疲れたねえ……」
「本はぜんぶはけたわけだし、ビンゴの景品も特に欲しいものもないし帰ろうかな……あ、父さんがリハビリに揚げた揚げ餃子あるぞ。生姜味だから臭くない」
なんと、山田惣菜店に復活の気配。
カロリーメイトだけでは成長期に必要な栄養はとれないので、ありがたく揚げ餃子を口に入れる。う、うまぁっ。絶妙な味つけに絶妙な揚げ具合。やはりゴリ山田のところの小父さんはすごい。
西園寺はカメラのデータを見てニコニコしている。
「コスプレ撮ってたの?」
「ああ。カメラは教養だよ。でもやっぱり田舎の同人誌即売会だね、イケメンキャラか美少女キャラしかいない」
「え、コスプレってそういうものじゃないの?」
「本物のコミケのコスプレはすごいよ、無機物からおじいさんから軍服から自由自在に、なりたい自分に大変身してる。個人的に傑作だと思ったのは笑点のメンバーがカラー着物で勢揃いしてるやつ。もうずいぶん前だけど」
そういうものなのか。見せてもらうとわりとクオリティの高いコスプレの写真がいっぱいある。
データを見せてもらっていたら、かつて父さんが「これは傑作だぞ、ただ推しむらくは作家さんが亡くなって永遠に未完なことだ……ボクに続きを書かせてもらえないかなあ」と熱く語っていた本である「トリニティ・ブラッド」のコスプレの人がいた。すさまじいクオリティの衣装だ。あとでその写真が欲しい、と言うと西園寺はいいよ、と案外優しく言ってくれた。
ビンゴ大会が始まった。
なんという引きの強さなのか、清少納言が一番乗りで、改造ドールさんを連れ帰ってきた。僕はわりと終盤まで残り、アニメのポケモンのポスターを手に入れた。サトシの目が黒一色なのをみるとずいぶん古いようだが状態はいい。ゴリ山田は先に帰ってしまった。西園寺はなにやらガレージキットとかいう未組み立てのフィギュアをとり、政子ちゃんは古同人誌をドッサリ手に入れていた。
とにかく全員たいへん満足した。先に帰ったゴリ山田も手に入れた画集を気に入っているらしいし、まあ不満な点はないだろう。
みんなで解散して家に帰ることにした。母さんが迎えにきて、清少納言の持っている棺桶みたいなドールさんの箱に目を白黒させている。ビンゴで当てたのだと言うと母さんは「恐ろしい子……!」とよろめいた。
帰ってきて、清少納言はさっそくXでエゴサを始めた。しかしどうもモニョり顔であった。
次の更新予定
清少納言、令和に立つ 金澤流都 @kanezya
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