第5話
一色先生と共に校門で二人を待っていると、清十郎と景がやってきた。清十郎は大きな銃を二丁担いでいる。景は弓を背負い、腰には弓矢が幾本も収められていた。
「銃と弓か……」
「蓮太郎は僕が銃を持ってるの初めて見るよね。ふふっ。驚いた?」
「あぁ。当たり前だ」
これを使って妖怪を退治するのか。思っているより本格的だ。
「それでは、行きましょうか」
一色先生がそう言い、俺たちは妖怪がいるという場所へ向かった。
舗装されていない道々を進み、しばらくすると目的地へたどり着いた。そこは人気のない廃れた村だった。
「こんな場所があったのか……」
「妖怪の気配が近づいています。皆さん、気を引き締めてください」
そう言うと、一色先生は俺のそばに近づいた。一見頼りないが大丈夫なのだろうか。
清十郎は背中から銃を一丁取り出し、準備体制に入った。景はつまらなさそうにどこかよそ見をしている。
皆の様子を見ながら歩いていたが、次の一歩を踏み込んだ時感じた。
「いる」
妖気というのだろうか。強い不思議な感覚に陥った。俺と同様に気配を感じ取ったのか、三人が気を張っている様子が見て取れる。
「あの家屋ですね。きっと僕らの気配を感じ取って家屋から出てきます」
一色先生がそう言うと同時に、家屋の扉が開いた。出てきたのは禍々しい姿の妖怪。逆立った白い髪、ボロく汚れた着物、人間ではありえないほどの大きな目玉に大きな口。そして、人の五倍大きな体。
「なんだ……こいつは……」
俺は呆気に取られていた。家屋の中をよく見ると、隅で男児が泣き崩れていた。あれが攫われたという子供だろう。
動けなかった。これは恐怖だ。今まで感じたことのないほどの恐怖。一歩を踏み出せなかった。俺が恐怖で動けないでいると、一色先生は俺の肩に手を置いた。
「大丈夫。彼らが殺ってくれるよ。あっという間に終わります」
その顔は笑顔だった。
隠し神がこちらに向かって走り出す。巨大な体からは想像できない速さだ。一色先生は俺を持ち上げ横に跳躍した。清十郎と景も跳躍し距離をとった。
「彼らは遠距離型だ。距離を置いて戦える」
清十郎と景は隠し神を挟むように、別々の家屋の上で構えている。隠し神はどちらを狙うか一瞬迷った。その瞬間に銃声が響く。隠し神は銃弾を避けるように後ろへ跳躍した。
「ちっ。掠った」
清十郎が舌打ちをすると、隠し神は清十郎の方へ拳を振りかざしながら走る。そして拳を清十郎へ向け勢いよく振り下ろした。だが、清十郎は跳躍し拳を避けた。先程まで立っていた家屋は破壊され、力強さを物語っている。清十郎は銃を乱射しながら距離をとる。隠し神は瞬時に避け続けるが、脚や腕に数発当たっていた。当たった傷口から紫の液体が出ている。銃弾の痛みからか一瞬怯んだ。
「二十一メートル三十二センチ、マイナス四十五度」
景は神経を集中させ弓を引き、呟いた。
「ここだ」
勢いよく放たれた弓矢は、隠し神の脳天を射抜いた。
「景くんやる〜」
清十郎がそう言うと隠し神は膝から崩れ落ち、呻きながら紫の液体を撒き散らした。
「清十郎くんが注意を引いて景くんが仕留める。うん。上出来だね」
一色先生がにこやかにそう言うと、隠し神は液体と共に蒸発した。
「おい、清十郎。手抜いただろ」
不満そうな顔で景が言った。すると清十郎は耳飾りを揺らし、笑いながらこう言う。
「え〜。そんなことないよ! 本当は僕が仕留めて、蓮太郎にかっこいいところ見せるつもりだったんだけどな」
二人が言い合いをしていると、一色先生がこう言った。
「立花くん。これが妖怪退治です。立花くんにはこれからこの妖怪退治をするために、たくさん訓練をしてもらいます。それが、この世界の役に立つんです。すごく怖いと思います。それでも、僕たち怪払師のおかげで救われる命があるんです。さぁ、子どもを救出しますよ」
そう言うと家屋の中に入り、泣きじゃくる男児を抱き上げた。
「怖かったよね。でももう大丈夫。すぐお母さんの元へ帰れるよ」
一色先生が優しく頭を撫でると、男児は泣きやみ頷いた。
こうして妖怪退治の見学が終わった。俺はこれからこれをやるのか、怖い。というのが正直な感想だ。でもやると決めた。もう、後戻りしない。
「一色先生、清十郎、景。改めてよろしく頼む」
次の更新予定
奇奇怪怪、サクラ。 あまいろ廉 @amairo_ren
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