第4話
数日経ったある日。
「今日から新しい生徒が増えるよ! みんな、良かったね。先生嬉しいよ」
一色先生が手を叩き喜んでいる。俺は教卓の横に立っていた。
「じゃあ、自己紹介しましょうか」
五人の視線を感じる。好奇の目、興味がなさそうな目、嬉しそうな目、品定めするような目、そして清十郎の優しい目。
「立花蓮太郎だ。よろしく頼む」
一色先生と数人の生徒は拍手をした。
「立花くんは、最近妖怪が見えるようになったようです。まだ一部しか見えていないようだけど、それでも大切な人材だし、これからもっと見えるようになるかもしれない。一部の妖怪だけだとしても、その妖怪を中心に退治してくれるだけでも僕は嬉しいよ。皆、仲良くしてくださいね」
「……一部しか見えねーの?」
その声は、初めてこの学校に来た時にも聞いた声だ。机に足を乗せている茶髪の男。不機嫌そうだ。すかさず一色先生がこう言った。
「そ、それでも大事な人材です! 妖怪自体見える人がほとんどいないんだ。君にはもっと危機感を持って欲しいな……」
「ちぇ。そうかよ」
そう言って窓を見た。もう俺に興味はないようだ。
「景くんは立花くんと同じ一年生です。根はいい子だから、すぐ仲良くなれると思うので安心してください」
「はぁ……」
景と呼ばれた男とは仲良くできる自信がない。そんなことを思っていると、青い髪を首元まで伸ばした青い目の男が俺に優しく手を差し伸べた。
「僕は
優しく微笑むその顔は、誰が見ても美しいと言うだろう。
「ありがとう。よろしく頼む」
俺は差し伸べられた手を取った。その手は冷たく、生気を感じられなかった。近くで見ると、透き通っている青い瞳の奥は笑っていない。
『蓮太郎くん』
男女の揃った声が聞こえてきた。
「私は姉の
「俺は弟の
『二年生の双子だよ』
乱という金髪を胸元まで伸ばした女は右手、静という金髪の男は左手を出した。
「よ、よろしく頼む……」
その手の甲には菊の紋が刻まれていた。手を握ると、皮膚の厚さが感じられる。一見すると分からないが、相当鍛えられている。
「
俺に興味をなくしたはずの男は、机に足を乗せて外を見ながらぶっきらぼうに呟いた。
「よろしく頼む」
そして清十郎が俺の前に来た。
「もう知ってるけど改めて、瓦清十郎だよ。蓮太郎と同じ学校に通えると思ってなかったから、凄く嬉しい。これからよろしくね!」
「あぁ。改めてよろしく」
すると一色先生が手を叩く。
「これで、ここにいる生徒全員の自己紹介が終わりましたね。僕は怪払学校で教員をしている一色です。立花くん。君を立派な怪払師にします。これから頑張りましょう」
「ここにいる生徒全員ってことは、他にも生徒がいるのか?」
「はい。そうです。今ここにいない生徒は大人の怪払師と一緒に遠征して、妖怪退治に専念しています。より上の怪払師、極怪払師を目指しているんです。たまにこの学校に戻ってくるから、その時に紹介しますね」
より上の怪払師である極怪払師……。皆、それを目指しているのだろうか。
一色先生は片手を頭の後ろに持っていき、照れるようにこう言った。
「ちなみに、僕はこう見えても極怪払師なんです。えへへ」
「そうなのか」
「あ、あれ⁈ 興味ない⁈ け、結構凄いんだけどなぁ……。あはは……」
一色先生は、眼鏡を押上げながら悲しそうに笑った。
「一色先生。蓮太郎はまだ極怪払師の凄さなんて知らないですよ」
清十郎が苦笑いしながら言った。そんなに凄いのだろうか。
「まず、俺は怪払師の全容を知らない」
「そ、そうですよね! えっと。じゃあ百聞は一見にしかずということで、実際の妖怪退治を見てみましょう」
「……まぁ、確かにそれが早い」
「ということで、今から妖怪退治に行きましょう。ちょうど依頼が来ていたんです。えっと、そうだな……。景くん、清十郎くん、僕、立花くんで依頼先へ向かいましょう。依頼内容は人攫い。五歳の子供が一昨日から行方不明になっているようです。景くんと清十郎くんの力があれば難なくこなせる依頼でしょう」
人攫い。これも妖怪の仕業なのか。
「僕は立花くんから離れないようにするから、安心してください」
清十郎が俺の肩に手を置く。
「一色先生のそばにいれば安全だよ。僕が保証する。……先生。人攫いということは隠し神ですか?」
「は、はい。そうです。最近人攫いの話は聞かないし、そんなに大きい隠し神ではないと思うから立花くんを連れて行っても大丈夫だと思います。景くんも着いてきてもらって大丈夫ですか?」
「……別にいいぜ」
不満そうだが景の返答を聞き、一色先生は少しほっとしているようだ。
「乱さん、静くん、綴くんは自主練をして待っていてください」
三人は、はいと返事をして頷いた。
「それじゃあ、行きましょうか。二人も準備が整ったら門に来てください」
「わかりました。先生」
清十郎が返事をすると、乱さん、静さん、綴さんを残して景と共に教室を出た。俺はどうすればよいのかと思っていると、一色先生に肩を押された。
「立花くんは僕に着いてきてください。二人の準備が整うまで門のそばで待ちましょう」
「あぁ」
「立花くん。初めは怖いと思うけど、僕がついているから心配しないでくださいね」
一色先生は笑顔でそう言った。
「分かった」
その時の俺は、妖怪がどれ程おぞましいものか知らなかった。
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