第4話:一人の知恵より十人の知恵でしょ。

壮介そうすけの魂を雛の体に入れた死神の善次郎、一安心してとっくにあの世に帰って

しまっていた。

なんて無責任な男、いや死神。


「なに?あなた男でしょ?・・・なんで女の私の体に入ってきてるの?・・・

もう信じられない」


「それは俺のセリフなんだけど・・・」


「どう言うことよ、分かるように説明して?」


雛にそう言われて壮介は母親が病院へ運ばれたところからはじまって母親の

死に耐えられず自分も死んじゃったこと、その後死神が現れて、あんたの

魂はもう自分の体には戻れないから現世で彷徨うか、はたまた誰かに憑依するか

どっちか選べって言われて、やむなく誰かの体に入ることにして、ふと気持ちよくなって目が覚めたら誰かの体の中に入ってたって、そこまでを雛に説明した。


「待ってよ・・・なに?・・・その死神の指示で私の体に入って来たの?」


「いやこの病院内で亡くなった人がいて、その人の体なら入れるって死神が

言ったから・・・」


「そか・・・私、死んでると思われたんだ」


「どうやらそうみたいだね・・・君には君自身の魂が存在してるみたいだもんね」

「ちょっとした間違いってやつ?」


「ちょっとした間違いじゃないでしょ?私は嫌だよ、これって人格がふたつ

あるってことでしょ、それも普通の二重人格と違って、ふたつの魂が同時に

目覚めてるってことじゃない・・・そんなの迷惑だよ・・・」


「俺だって女の体になんか入りたくなかったよ」

「出られるもんなら今すぐ出たいけど、死神が帰っちゃったから聞けないし・・・

どうやったら出られるのかも分かんないよ」


「だけど、あなたが私の体の中に入った時のショックで私、仮死状態から蘇っ

ちゃったみたい・・・」

「あなたがもし私の体に入って来なかったら私はあのまま死んだと思われて

火葬場で焼かれてたんだよね・・・わ〜こわ〜」

「それに不思議だけど、病気のせいで気力も体力も失せてたけど・・・今は

すごく気持ちがスッキリしてるし体自体も力がみなぎってる気がする」


「そりゃ魂がふたつも体に入ってるんだから、その影響は多大なるもんなんじゃ

ないの?」

「メリットのほうが多いんだよ、きっと・・・よかったじゃん仮死状態から

復活したんだし体も元気になったんだから」


「よくない・・・別々の意識がふたつもあるんだよ、ややこしくない?」


「こうなったら仲良くやるしかないかな?」

「思考がふたつあったら協力しあえるし・・・一人の知恵より二人の知恵って

言うじゃん 」


「それを言うなら一人の知恵より十人の知恵でしょ」


「うんまあ、そうとも言う・・・」

「たとえばバイクで言うなら単気筒から二気筒になったってことだろ?」

「原チャの50ccが100ccになったってことなんだから、もう30キロで走らなくて

いいし二段階右折もしなくていいんだよ、タンデムだってできるし・・・」


「なにノ〜天気なこと言ってるの?たとえがマニアックすぎるよ」


「あのさ、出て行きたいけど無理そうだから君の体に同棲させてもらっていい?」

「なんかさ、俺まだ死ぬ予定じゃなかったんだって・・・そう言うやつの魂って

この世を永遠に彷徨うんだって・・・そう言うの嫌だからさ・・・ね、いいよね」


「それを言うなら同居でしょ?・・・しょうがないわね」


「お〜だけど俺は男なのに・・・今日から女でもあるんだよな?・・・おおおおお」

「まじでか?」

「それってつまり・・・」


「ヤな感じ・・・なにかとってもイヤなこと考えてない?」


「いや、だからこれからは新しい自分のこともっと知っておかなきゃって思って」

「まずはいろいろ確かめてみたいと・・・」


「いろいろって?確かめるって?・・・・絶対変なこと考えてるでしょ?」


「その変なことってなに?」


「変なことは変なことだよ、スケベ男子が思いつきそうな変態なこと」


「スケベ男子は合ってる・・・まあ・・・変態も・・・」

「変なこと無理して考えてなくても、いずれ風呂に入るだろ?・・・そしたらさ」


「やめて・・・それだけはやめて、お願いだから」


「だってさ、一生目をつぶっては、ふたりとも生きていけないじゃん」


「遅かれ早かれ俺に見られるんだから覚悟決めたほうがいいって」


「お願い・・・死んで?」


「一度死んでるんだって・・・また死ねって言うの?・・・魂になってから

俺、君のこと気にいっちゃったから、死んで魂になってもまた君に入っちゃうよ」


つづく。







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