盗まれたプラネタリウム
ろくろわ
不器用な星達
「だから、どうして私が
私の説明を待たずに、
事の始まりは三十分前、私が顧問をしている料理部で、プラネタリウムを見ながら秋菓子を食べる『月見と団子』の企画で作ったプラネタリウムの内、美鈴の作った物だけが無くなった事から始まる。
料理部員は先程声を荒げていた夏菜。そして今回プラネタリウムが無くなった美鈴。他に
手作りのプラネタリウムは、丸い瓶の中に星となる穴を空けた銀紙を入れ、下から光源で照らすと言うシンプルなもので、それを料理部の女子五人で作ったのだった。だがその中の一つが無くなり、そして私のもとに連絡がきたのだった。
「ねぇ先生!どうして私が盗んだって言うの?」
「そうね、一つずつ答えていきましょうか。まず私が『プラネタリウムには名前が無いが、誰が作った物か分かるのか』と聞いた時に皆は何て答えた?」
「星や月になる穴の空け方が違うから分かると答えました」
「他には?」
「特に美鈴と夏菜ちゃんのは、本物の夜空みたいに上手だったから分かるって答えました」
夏菜は顔を伏せている。
「そうね。私も見たけど、美鈴さん夏菜さんのプラネタリウムは、確かに冬の星座がキチンと作られていたわね。反対に二人以外のプラネタリウムは星っぽく適当な穴を空けて作っていた感じだったね。それと完成したプラネタリウムの話をした時、二人だけが冬の星座を模して作ったって言ってたし、星も正式な名前で答えていたわね」
「だから何だって言うのよ!」
夏菜は少し苛立っていた。
「そんなに正確なプラネタリウムを作れるのなら、星の配置が違ったりしたら違和感があるわよね?」
「……」
「そう。例えば綺麗な星図に違和感の有る星を繋げると、メッセージやイニシャルになっていたとしたら?そしてその事に気が付けるのは、星座に詳しい人。夏菜さんになるかしら」
夏菜は何か言いたそうだったが、言葉は無い。そしてわたしは続ける。
「プラネタリウムが無くなってからそんなに時間もたっていないし、大方、夏菜さんの鞄の中にでもある事でしょう」
夏菜は諦めたように溜め息をついて、鞄を差し出した。
皆が見ている中、鞄を探すが何もない。そして遂に鞄の中からプラネタリウムは出る事はなかった。
「先生!夏菜ちゃんの鞄には何もないよ!」
「本当に夏菜ちゃんが盗んだの?」
口々に皆が話し出すのを私は慌てて止める。チラリと夏菜を見ると驚いた表情をしていた。
「あれぇ?あると思ったんだけど。ねぇ、プラネタリウムは何処に置いてたの?」
私が改めて聞いてみると、智花が調理台の戸棚の中に置いていたと、その戸を開けた。そして驚いた声が響いた。
「あっ!奥の方に何かある。あぁ~これ美鈴さんのプラネタリウムだ!」
皆が智花を見るとその手にプラネタリウムが握られていた。
「先生~盗まれたじゃなくて、戸棚の奥に転がっていたみたいです」
智花は罰の悪そうな顔をしていたが、思い出したように言葉を続けた。
「だけど先生、夏菜ちゃんの事、犯人扱いして夏菜ちゃんが可哀相です!」
そこから皆の非難が私に降り注ぐ。
「あぁ~夏菜さん。本当に御免なさいね。私の早とちりだったみたい。そして皆さんも、もっとしっかり探してから報告しなさい」
私は素直に夏菜さんに謝罪した。夏菜は何か言いたげに口を開こうとしたが、私はそれを制した。
「まぁ見つかったのなら、問題は無いでしょう!問題なのは私が迷探偵だったことだけ。さぁそれではカーテンを閉めてお月見をしましょう!」
私は有耶無耶に場を納め、皆はなんだかスッキリはしないものの、これ以上プラネタリウムが盗まれたと言う話が出る事はなかった。
結局、美鈴のプラネタリウムには言われて見ればKに見えるアルファベットと、ハートの形に見えなくもない星が一つ有るだけだった。
「ねぇ先生。どうして私の鞄から美鈴のプラネタリウムを元に戻したの?」
夏菜が誰もいないのを見計らって私に話しかけてきた。
「あぁ。私が『夏菜が盗んだ』と言ってその後に違うとなれば、後は誰も貴女が隠したなんて思わないでしょ?それに美鈴さんのプラネタリウムのK。あれは和哉のKじゃないわよ」
「えっ?どういう事ですか?」
「あんな小さなサイン、普通気が付かないわよ。一緒にプラネタリウムを作らない限り。それに貴女もKでしょ?イニシャル」
夏菜はハッとした顔をした。
「貴女がプラネタリウムを盗んだのも、大好きな美鈴さんが
「……そうです」
「あの星のメッセージはね、プラネタリウムを一緒に作った夏菜さんにだけ届くように美鈴さんが贈ったものよ」
私達はそのまま二人揃って、四角い夜空に浮かぶ不器用なプラネタリウムの星を眺めた。
了
盗まれたプラネタリウム ろくろわ @sakiyomiroku
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