サルの王様

驢垂 葉榕

サルの王様

 むかしむかし、というには少しだけ最近の話。あるところにサルの王様がいました。王様は最初から王様だったわけではありません。お金持ちの家に生まれはしましたがたくさん頑張ってきました。ある時は海の向こうまで厳しい逆風の中、勉強をしに行きました。ある時は暮らしていた街を乱暴者に追い出されてジャングルに家来と逃げ込まなくてはいけなくもなりました。それでも王様はあきらめません。理想があったからです。海の向こうで優しくしてくれた人たちと誓い合った夢があったからです。

 やがて逆風続きだった王様にも追い風が吹きます。王様と家来を町から追い出した乱暴者、その乱暴者たちが二つに分かれて仲間割れを始めたのです。一つの勢力は昔からいる灰牛コープレイたちでした。彼らは力が強く、別の乱暴者からみんなを守ったことがあったのでもともとリーダーでした。もう一つの集団は近くでとても強い鷲の友達の鳶たちでした。この隙に王様もジャングルを出て訴えます。どちらもひどい乱暴者でリーダーじゃないと。でも結局、次のリーダーは勝った方です、鷲の友達の鳶たちになりました。

 でも今度の動乱はそれでは終わりませんでした。鳶たちは灰牛コープレイ完全に倒したわけではなかったからです。鳶たちは灰牛コープレイの方がよかったと叫んだ人たちを殺しました。王様は鳶たちを攻撃します。ジャングルで知り合い一緒に鷲の悪口を言い合った虎たちや灰牛コープレイたちの残党、鳶側に鷲たちも参戦します。戦争がはじまりました。

 いろいろな勢力が参戦しましたが突き詰めればリーダーを決める戦いです。サルは灰牛コープレイたちや虎たちと一緒に鳶たちを攻めます。この最初の攻勢は決着寸前まで鳶たちを追い詰めました。しかしそこに鷲たちが現れます。鷲たちは空から一方的にサルたち連合を攻撃します。押し返されたサルたちはジャングルに隠れて機会をうかがうことになります。鷲の猛攻を正面から耐えられたのは虎たちだけでした。リーダーを決める戦争の行方は部外者の鷲と虎の戦いが握ることになりました。

 三年の月日が流れました。鷲と虎の戦いは部隊がジャングルだったこともあって虎の粘り勝ちに終わり、鷲たちは傷だらけで巣へと帰っていきました。目障りな鷲たちはいなくなり、虎たちも故郷のジャングルに戻っていきました。やっとリーダーを決める時です。もともと鳶たちは鷲ありきの集団でしたから鷲たちがいなくなった今、勝利は時間の問題でした。押し返された戦線をさらに二年かけて再び押し戻し、サルたちと灰牛コープレイたちの連合軍は鳶たちに勝利しました。多くの人が殺され鷲たちの攻撃のせいで田畑は荒れ果てていました。サルも灰牛コープレイたちもそれ以外の人々も戦争などコリゴリでした。

 リーダーになったサルたちがなによりやらなければならないことはもう二度と戦争を起こさないこと、荒れた田畑を耕し食べ物を作ること、その食べ物を売っていろいろなものを手に入れることでした。そのためには乱暴者のシンパを抑えつつみんなで協力して農業に励む必要があります。灰牛コープレイたちとの権力争いを素早く終わらせてみんなのリーダーになった王様は統治を始めました。

 まず王様は街の人たちを田舎に返して農業を行わせました。たくさんの食べ物を作るためにはたくさんの農業をやる人が必要なはずで、街には食べ物を作らないのに食べる人たちがたくさんいたからです。もちろん乱暴者の対策もしなければなりません。王様は乱暴者が生まれる原因を取り除くことにしました。つまりお金、不平等、贔屓です。理想の国を作る為頑張ります。

 王様はお金を廃止しました。すべての食べ物は平等に分け合えばいいからです。

 王様は市場を廃止しました。お金を使う場所などもう必要ないからです。

 王様は財産を廃止しました。不平等と贔屓を防ぐためです。

 王様は宗教を廃止しました。理想の国では祈る必要などないからです。

 王様は恋愛を廃止しました。特別な人を作るのは不平等だからです。

 王様は休日を廃止しました。理想の国では皆喜んで働くからです。

 こうして次の年になりました。国中で頑張ったはずなのに食べ物はそんなに多くありません。家来に理由を問いただすと乱暴者のシンパが悪さをしているからだと言います。せっかくみんな頑張っているのに許せません。王様はできた食べ物と交換で武器を手に入れます。食べ物が少ないせいでおなかをすかせて死んでいる人もいます。王様は一刻も早く乱暴者のいない理想の国にするため頑張ります。

 王様は海外で勉強していた人たちを呼び戻して殺しました。勉強せずに頑張って農業をしている人もいるのに不平等だからです。

 王様は医者と薬剤師を殺しました。そういった仕事ができるのは頭のいい人たちで頭のいい人たちは不平等と乱暴者の原因だからです。

 王様は歌手を歌わせて殺しました。乱暴者たちがリーダーだったころに活躍していた乱暴者のシンパにちがいないからです。

 王様は美男美女を殺しました。容姿の綺麗な人たちはそれだけで人気者で不平等の原因になるからです。

 王様は手がきれいな人たちを殺しました。手がきれいな人たちは毎日頑張って農業をしていない乱暴者のシンパだからです。

 王様は文字が読める人たちを殺しました。文字が読めるということは過去の乱暴者たちのことを勉強できる不平等と乱暴者の原因だからです。

 王様は眼鏡をかけている人たちを殺しました。眼鏡をかけているのは目が悪くなるほど勉強した人たちで不平等と乱暴者の原因だからです。

 王様は子供を叱った人たちを殺しました。自分の子供だけを叱るということは自分のこともを特別に扱う不平等だからです。

 王様は家族でご飯を食べた人たちを殺しました。自分の家族をそれ以外の人たちを分けて扱うのは不平等だからです。

 そうして王様は国にいた大人たちをあらかた殺してしまいました。でも仕方ありません。あの大人たちは純粋な子供たちと違って乱暴者がリーダーだった時に生きていた人たちだからです。乱暴者のシンパだからです。

 こうして乱暴者を殺しているうちに次の年になりました。しかし不思議なことが起きます。食べ物の収穫量が増えるどころか減っているのです。王様は首をかしげます。みんなの邪魔をする乱暴者たちを頑張って殺してまわったのになぜ食べ物が減るのだろう。ずいぶん考えて考えてやっと王様は気づきます。そうか、子供たちの中にも乱暴者がいるのかと。そうして本当に信頼できる家来とその味方以外全員殺してしまう計画を立てます。この計画を実行すれば乱暴者のいない理想の国になるだろう。やっと見えた理想の国実現、王様は晴れやかな気持ちでした。

 計画がまとまったその時、サルの王様の後ろで物音がしました。サルは出来上がった計画を家来に伝えようと振り返ります。しかしそこにいたのは家来ではなく、かつて一緒に鷲や鳶と戦ったジャングルの虎たちでした。虎たちの足元には家来たちの死体が転がっていました。虎たちはサルに言います。お前は殺しすぎたと。ジャングルからサルのいる街まではずいぶん離れていましたが、誰も虎たちが近づいてきたことを報告していませんでした。報告するような人たちはすでにサルと家来たちが殺していたからです。サルと鷲に勝った虎たち、戦いにはなりませんでした。サルの王様の統治は戦争の半分ほどの期間でしたが死んだ人は戦争の倍以上だったそうです。政治の可能性を信じ理想の国を作ろうとしたサルの死体は、結局ごみと一緒に燃やされてしまったそうです。おしまい。

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