第20話 この扇子を貴女に預けますわ
完全に意識を失った糺ノ川を横目に、拾ってきたジョセの柄を蓮歌にはめられたお嬢様封じの首輪に突き立てる。首輪とジョセの柄が共に砕けた。
「ありがとう、ジョセフィーヌ……」
うちは半生を共にした愛刀の欠片を握りしめる。ありがとう、ジョセフィーヌ。ありがとう、見子ばあ。
その様子を見ていた蓮歌が胸元からレースの付いた豪奢な扇子を取り出した。蓮歌と初めて会ったあのトイレでも持っていたものだ。
「春瑠子さん、手をお出しになって」
蓮歌が扇子をうちの掌にそっと置いた。
「これって……」
「この扇子を貴女に預けますわ」
「!」
「わたくしの大切な扇子ですわ。いつかきっと、立派なお嬢様になる時まで持っていてください。今の貴女なら扱えるはずです。」
うちは扇子を広げた。うちのお嬢様力が端まで通っていくのを感じる。それはジョセを握った時の感覚に似ていて手に馴染んだ。
「ありがとう、蓮歌。うち、絶対に立派なお嬢様になりますわ」
ふと、扇子の奥底に蓮歌のお嬢様力の残滓を感じた。
「そっか、もう蓮歌にお嬢様力を分けてもらわんくてもようなったんやな」
「あら、ずいぶん寂しそうな声ですわね」
「やかましわ!」
蓮歌は楽しそうにカラカラと笑い、すぐに神妙な顔になった。
「……白状しますとね、実はお嬢様力の譲渡は嘘ですの。他人のお嬢様力を留めておけるのはせいぜい数十秒ですわ」
「え!? どういうこと!?」
「お嬢様力は初めから貴女の中にありましたの。ただ扱い方に無自覚だっただけ。ジョセフィーヌを介した時は、お上手に扱えておりましたけどね」
うちは頭を抱えた。
「……じゃあなんで譲渡なんて言いだしたん?」
「だってわたくし、春瑠子さんとお手手をつなぎたかったんですもの……」
蓮歌はそう言い可愛らしい舌をチロリと出した。
……なんだ、お嬢様の譲渡を『手を繋ぐためのいい口実になるな』なんて思っていたのは、うちだけじゃなかったんだ。
「これからもお手手繋いじゃ、ダメかしら? たまにでいいの、わたくしのワガママを叶えて下さい」
蓮歌が大きな瞳をウルウルとさせてこちらを見つめる。うちはこの表情が好きだ。
「しょうがないなあ、じゃあうちもワガママ言わせてもらいますわ」
「はい」
「たまにじゃいやや」
蓮歌がパッと笑顔になる。うちはこの表情がもっと好きだ。
うちと蓮歌はおでこをコツンとくっつけて、クスクスと笑った。
ですわんぴーす 大川黒目 @daimegurogawa
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