第20話 コウモリの地獄
ヒロトたちがトゥリア領へ向かう二日前。アーク村の広場には大勢の人が集まっていた。
「きょ、巨神様の作った畑は俺たちに権利が配られるだって!?」
「し、信じられない。本当に巨神様は我々を助けて下さるのか!?」
都市の人間たちはヒロトが現れたことに歓喜していた。
この世界では巨大な
だが実際に巨神がこの世界に現れたことはなく、一部の国ではまさに神様のように思われていた。
そんな神が実際に姿を現して、恐ろしい巨人帝国の兵士たちを退治してくれたのだ。むしろ喜ばない方がおかしいだろう。
「しかし奇跡が起きたとはこのことだな。西に山賊、東に巨人帝国でアーク領も終わったと思ったのに」
「商人とか鍛冶師とか、他の場所で生きる術を持つ奴はみんな出て行ったからな」
「ありがたや、ありがたや……!」
アーク領民はバカではない。
自分たちがいかに絶望的な状況に陥っていたかは理解している。それを救ってくれたヒロトにはひたすらに感謝していた。
「でもユーリカちゃんとアリアナちゃんはボキュのものなんだな! 巨神なんかよりボキュの方が大きいんだな!」
「流石に無理があるだろ……どこに大きい要素があるんだよ」
「器が大きいんだな!」
「「「「…………」」」」
などと言う男がいないわけではなかったが、ヒロトはみんなに受け入れられていた。
ウエスギが来たことで全員が救われて、損した者などまったくいなかった。
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「お、おのれぇ!? なんで巨神なんてのが現れるのだ!?」
隣領トゥリアの領主屋敷では、トゥリア男爵が悲鳴をあげている。
近くにいた執事はそんな彼に紅茶の入ったカップを渡した。
「落ち着いてください、旦那様」
「これが落ち着いていられるかっ!? 私は脅されたのだぞ!? 恐喝されたのだぞ!? 逆らえばこの都市の住人はあのグラスの山賊のようになるとな!?」
トゥリア男爵はユーリカたちとの話し合いの後、ひたすらにヒロトに対して怯えている。
あの話し合いは彼にとって地獄だった。
「バレていたのだ! 私が今までやってきたことが、アーク男爵を我が手中に収めるためだったことが!?」
今までユーリカを奴隷にするために仕組んだ策が全てバレていて、その上で巨神の力を背景に脅された。
トゥリア男爵にとって盗賊を捕まえた木のグラスは、トゥリア城塞都市の暗喩に見えた。
もし自分たちに危害を加えれば、お前たちもこの盗賊のようになるぞと。
「あの巨神の大きさならば、この城塞都市すら踏みつぶされるぞ!? なんであんな化け物がどうなっている!? どこから出て来た!?」
「分かりません。ただひとつだけ言えるのは、あの巨神は極めて危険な存在ということで……」
「そんなもの一目瞭然だろうが!? あんなデカい奴が弱いわけないだろうが!?」
相手と自分の強さを比べる場合、もっとも分かりやすいのは身体の大きさだ。
武術や魔法の達人ならば見た目では強さが分からないこともある。だが遥かに巨大な存在が弱いわけがない。
トゥリア男爵は確信していた。戦ったら確実に負けるどころか、そもそも勝負にすらならないと。
「どうして巨神が現れたのだ!? 何故だ!? 私が何をした!? ただちょっとアーク男爵とその妹を、娼婦か性奴隷として囲おうとしただけだぞ!? ぐっ……胃が痛い……っ」
「現れた以上は対応するしかないでしょう。どうしますか? 本国はすでにアーク領を見捨てるのを決めていて、アーク男爵もそれは承知しているでしょう。巨人帝国と繋がってることもバレているやも」
「巨人帝国とのつながりはともかく、本国に見捨てられたのは気づいてるだろうな……俺の策を知っているということは、見捨てられることも承知しているはずだ」
「そうなりますと我々はアーク領と巨人帝国のどちらにつくのですか? 下手を撃てばこの領地が滅びますよ」
トゥリア男爵領は一日にして絶体絶命に追い込まれていた。本来ならアーク領が滅ぶのを待っていればよかったのだが、よりにもよって巨神が現れてしまったのだ。
すでに本国は隣国と約定を結んで、アーク領を放棄するのが決定している。
それに逆らってトゥリア男爵がアーク領を支援したら、命令を無視したとして廃絶される可能性が高い。
だがアーク領に協力しなければ物理的に踏みつぶされかねない。本国を説得しようにもすでに巨人帝国と密約を結んでしまったため不可能。
そんな中でどの勢力につくのか。そんな恐ろしい二択に対してトゥリア男爵が選ぶ答えは、
「ぐ、ぎぎ…………両方だ」
「両方?」
「そうだ! 両方だ! トゥリア領は本国の命令に従ってアーク領との関わりをなくして、かつアーク領を支援して仲良くするのだ! さらに巨人帝国に物資を流す!」
「えっと。それは矛盾していると思われるのですが」
「矛盾だろうがやるしかない! そうしなければ私は破滅だ!? それと隣国にも使者を出せ! アーク領が滅ぼされたら次は我々の可能性もあるからな!?」
トゥリア男爵は腹を手で抑えながら悲鳴をあげた。
この日より彼は各方面にいい顔をするコウモリとして生きていくことになる。
「畜生!? なんでアーク領に巨神なんて現れるんだ!? 私の計画が全て壊れてしまったではないかっ!? ぐっ……おのれアーク男爵!? よくもあんな切り札を隠していたな!?」
なおアーク男爵ことユーリカは、トゥリア男爵の思惑も本国の決定も気づいておらず。
「くしゅん! ……なんか噂されてる気がする!」
「姉さま、風邪ですか?」
「たぶん違うわ。自慢じゃないけど私は風邪を引いたことないもの。ところでトゥリア男爵にお礼の手紙を送りましょう。奴隷を高く買い取って頂いたわけだし。今後とも是非よろしくお願いしますって」
のんきにくしゃみをしながら、追い打ちをかけるのだった。
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小人世界に転移したので、巨人として悪人を踏み潰して成り上がる! ~俺がチビだと? 元の大きさに戻ったらお前らアリ程度だけど?~ 純クロン @clon
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