第19話 買い付け交渉


 俺は右手のひらの上にいるユーリカさんたちに案内されて、隣領トゥリアの城塞都市に向かっていた。


 ちなみに左手には山賊たちが入ったワイングラスを持っている。彼らはこの後に売り飛ばす予定だからな。


 ちなみに向かう先の城塞都市はトゥリアという名前らしい。この国では領地で一番大きい都市には、その領地名がつくルールだそうだ。


 埼玉県さいたま市みたいな感じだろうか? 


 そんなことを考えていると、太ももくらいの高さの山があったので横を通り過ぎる。


 すると遠くに信じられないモノが見えた。


「……は? なんであんなモノがこんなところに?」


 俺は慌てて走り出して見えたモノに近づいていく。見間違いの可能性も考慮したが間違いない。


「……な、なんで自動車があるんだ?」


 俺の膝下程度の城壁の城塞都市の側には、自動車が置いてあるのだ。


 かなり土などで汚れているのもあって、なんとも昔の雰囲気を感じてしまう。


 そもそもここは異世界であって自動車があるのがおかしい。ましてやアリ程度の大きさの小人たちの世界である。


 俺が乗るサイズの自動車なんて、存在するのはあり得ないはずだ。


 ひたすらに困惑していると、手のひらの上からユーリカさんの声が聞こえる。


神の落とし物ロストアイテムですよ! ほら前に言いましたよね!」


 ……そういえばそうだ。日本のモノがこの世界に落ちて来ることがあるって聞いてたな。


 小さな小さな城塞都市の側に、普通の自動車があるのはあまりにも違和感ありすぎだが。


 するとアリアナちゃんの声が聞こえてくる。


「あれは巨神の箱と言われてましてこの世界にいくつかあります。巨神の箱は鉄を筆頭に豊富な資源になりますので、鉱山として運用されているのです」


 ……じ、自動車を鉱山の代わりに? なんともスケールの小さい話だな。


 さっき鉱山のない鉱山都市と言っていたが、これはそういうことだったのか。確かに小人からすれば自動車はあまりに巨大で、そこらの山よりもよほど大きい。


 なら鉄とかを削っていけばそれだけでも資源になると。


 思わず感心しているとユーリカさんが叫んでいる。


「ヒロト殿! 先ほど『自動車』と言ってましたが、やはり巨神様の世界からやってきたモノなんですか!」

「そうですね。そこらを走り回ってるやつです」

「えっ!? あれ動くんですか!? 嘘ですよね!? あんなの動いたら都市なんてぺちゃんこにされますよ!?」


 この世界で自動車を動かしたら大量破壊兵器になりそうだな……。


 城塞都市くらいなら軽くひき潰せるだろうし、普通に走るだけで危険過ぎる。


 なんとなく自動車の後ろに回ってみると、バックナンバーには『品川』と書いてあった。どうやら東京からやってきたようだ。


 ……たぶんこの自動車がなくなって困った人がいそうだな。


 本来なら持ち主に返すべきかもしれない。ただ明らかに古い自動車だから何年前にこの世界に来たのかも不明だし、そもそも日本に持って帰る方法もない。


 よし、考えないことにしよう。下手に数十年前の自動車を発見しても、事件性とかを疑われそうな気がするし。


 そんなことを考えていると足元の城塞都市から声が聞こえて来た。


「きょ、巨神だ……!? 巨神だぁ!?」

「で、でかすぎるだろ!?」


 そういえば俺はこの都市に塩を買いに来たんだった。自動車のインパクトが強すぎて忘れていた。


「アーク男爵、どうしましょうか。俺は小さくなって城塞都市に入ればいいですかね?」

「まず私たちを城壁の上に降ろしてください! さっきも連絡したので大丈夫だと思いますけど、念のため!」

「さっきの連絡に大丈夫な要素はありました?」 


 まあいいや。俺は城壁の上に手をつけて、ユーリカさんとアリアナちゃんを降ろす。すると彼女らに向けて近づいてくる小人がいて、しばらく彼女らは話した後に。


「ヒロト殿! 小さくなってこちらに来てください! 今から隣領と交渉をします!」

 

 とユーリカさんの声が聞こえたので、俺は近くの地面に木のグラスを置く。そして城壁を指で触って小さくなる。


 俺が小さくなった後の位置は、自分の身体があった場所ならどこでも自由だ。なので指でピンポイントな場所を指定して小さくなれる。


 すると四十歳くらいの温和そうな男性が、俺の元へと走って来た。少しリッチそうな服を着ている。


「お、おお!? 貴方が巨神様ですか!? わ、私はこの地の領主であるローク・トゥリア男爵でございます!」


 トゥリア男爵は片膝を床につけて頭を下げて来る。


 弱ったな、俺は礼儀作法を知らないからどうすればいいか分からない。とりあえず頭を下げておこう


「これはご丁寧にありがとうございます。私はヒロト・ウエスギと申します」


 この世界風に名前を伝えると、トゥリア男爵は立ち上がった。


「本日はようこそいらっしゃいました!? すぐに食事の用意を致しますのでこちらへ!?」


 俺たちはトゥリア男爵に案内されて、城壁を階段で降りて都市に入った。そして屋敷の応接間へと通される。


 あまりこういうことは比べるものではないのだが、案内された屋敷はユーリカさんたちのよりも数倍豪華だ。


 この屋敷の方が大きい上に、家具なども明らかにお高そうなものが並んでいる。


 経済状況に格差があるのは一目瞭然だろう。アーク領がズタボロなのもあるし、トゥリア領は自動車鉱山のおかげで潤ってるのかもしれない。


 俺たちは案内された席に座って、テーブルを挟んでトゥリア男爵と話を進めることになった。


「あ、アーク男爵。巨神様まで連れていきなりやってくるとは……事前にちゃんと連絡して頂きたかったのですが!?」

「えっ? 事前に連絡はしておいたはずですが?」


 ユーリカさんは「はて?」と言うような顔だが、あの連絡では伝わらなくて当然だと思う。


「い、いや確かにしてはいますが……ああ、いえなんでもありません。それで本日はなんの御用でしょうか?」


 トゥリア男爵は真剣な表情でユーリカさんに問いかけた。ただたまに俺を睨んでくる。


 当然だろうが明らかに警戒されている。そんな中でユーリカさんはニッコリと笑うと。


「奴隷を売りに来ました。うちで暴れていた盗賊たちを、鉱山奴隷として買い取って頂きたいのです」


 俺は足元に置いていた虫かごを机の上に置く。実は虫かごを外すのを忘れて小人化したところ、中の盗賊ごと小さくなっていたのだ。


 まあ俺が小さくなるの自体が縮小魔法だから当然なのだが。それでそのまま持ってきたわけだ。


 トゥリア男爵は虫かごの中の人を見つめた後に。


「……ええと。縮小魔法で人間を小さくしたのですか」

「その通りです。元盗賊なので活きのいい鉱山奴隷になると思いますよ! たぶん丈夫で死ににくいかと!」


 ユーリカさんが元気よく返事をするが、活きのいいって長生きって意味じゃないと思う。


 トゥリア男爵はチラチラと俺を見ながら、


「この盗賊を捕まえたのもそこの巨神様が?」

「そうです! ともかくちゃんと大きく戻せますので、高値で買い取ってもらえると嬉しいです!」

「な、なるほど。しかし何故、我が領地に?」

「トゥリア男爵にはとお世話になってますし! ほら先日も贈り物を頂きましたし、いざとなればこの領地に逃げてくれとまで仰って頂いて!」


 ユーリカさんがニコニコと告げると、トゥリア男爵の顔が一気に青ざめた。体調でも悪いのだろうか?


「は、ははは。ちょうど奴隷が欲しかったのですよ。高値で買い取らせていただきます」


 トゥリア男爵が震えた声を出すと、ユーリカさんは彼の手を握った。


「ありがとうございます! 助かります!」


 ……なんかトゥリア男爵は怯えている様子だな。奴隷は買い取ってもらえるのでいいのだろうか?


 こうして話し合いは終了したので、俺たちは都市トゥリアを出て帰路についている。もちろん俺は元の姿に戻っていて、ユーリカさんたちを手のひらに乗せた上でだ。


「ユーリカさん。トゥリア男爵になにかしたんですか?」

「え? なにもしてませんよ? あの人はお優しい人なんですよ。いつも私たちの支援をしてくださっていて、いざとなったら守ってくださるとまで……本当にいい人なんです!」 


 その割には妙に怯えてたような…………あ、俺が原因か?


 もしかしなくても俺がこの姿で城塞都市に近づいたら、恫喝交渉になってるよな。


「ヒロト様、お気になさらず。あの領主は私たちを嵌めようとしていたので」


 するとアリアナちゃんの声が聞こえてくる。


「……そうなの?」

「はい。あの男は姉さまやボクを狙っています。もし今日、ヒロト様がいなければ捕縛されていた可能性もあったでしょう」

「アリアナちゃん! トゥリア男爵を悪く言ったらダメでしょう! あの人はいつも支援して下さっていて、私たちにお菓子なども送ってくださる人ですよ!」

「姉さまは警戒心がなさすぎます」


 ……どちらの言うことが正しいのか分からない。まあトゥリア男爵は少し注意すべき人物と思っておこう。



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タイトルかなり変えました(小声

やってるの基本的にざまぁなので、こちらの方がふさわしいかなと。

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