選挙カーと少女 miracle

@ryousipin

第1話 選挙カーと奇跡

時々考えます。もし俺がこの狂った世界の主人公だったら、って。


でも、考えるまでもない。


俺は間違いなくこの世界の主人公だ。そう、3000万円の借金を抱えた、この狂った2027年の主人公なんだ。



いつか、いつものようにレストラン『ミナの涙』で皿洗いをしていると、ドアベルが鳴った。



振り向くと、そこには見たことのない少女が立っていた。


「いらっしゃい…」


言葉が途切れる。少女の瞳に、湖底に沈む何かが映っているような気がした。


「カガミ」


少女は、まるで質問されたかのように答えた。その声は、古い蓄音機から流れる音楽のようなもの。



カガミは窓際の席に座り、メニューも見ずに注文しました。


「この時代の…コーヒーをください」


はぁ?この時代って?


私は、普通のコーヒーを用意しました。


「君は…この町の人じゃないよね?」


「そうですね。私は遠いところから、ここに来ましたからね」


首を傾げる。意味不明だ。


それでも、カガミの言葉には、どこか懐かしい響きがあった。


その時、店の外で騒がしくて聞こえた。選挙カーだ。



「諸君!我々の党は、この国を救う!全ての可能性を、我々の手に!」


「カガミは咲いて笑った。」「面白いわね。数とか時間とか」


「……?」


カガミは微笑んだ。その笑顔はどこか、悲しみというよりも、未知のものを楽しんでいる風だった。


「私は、この町の記憶よ。あらゆる可能性を内包している。観測しないと形にならない」


瞬きする間に、カガミは消えていた。


テーブルには、一杯のコーヒーだけが残されていた。その表面には無数の未来が映っているようだった。


私は窓から外を見た。選挙カーが遠ざかっていく。その音とともに、自分自身もまた観測されることを待っているような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

選挙カーと少女 miracle @ryousipin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る