第3話 対面


 黒い制服姿の男性、彼は刑務官と思われた。何も無い田舎の地で幼少期を過ごした少年は、何も知らず、いきなり牢獄へと連れ込まれた。


 朝、昼、晩に食事が届けられて、ただ……何も無い場所で時間を過ごすだけの日々を既に3日送っていた。


 「で……僕をどうする気?」


 先程数名居た男性達は、彼の姿をしばらく見たかと思うと、牢獄の前にある部屋を出て行った。残った体格の良い刑務官の男性に少年は語り掛ける。


 「それは……これからのお前次第だ。上層部からの指示で明日、お前の取り調べを行う。それが終わり次第、お前をどうするかが決まる」


 鉄格子の前の椅子に腰を降ろし、机で分厚い本を見ている男性は少年の問いに答えた。彼は、それ以上何も答えなかった。


 彼の事が気になった少年は、チラッと本を除いた。細かい字がびっしりと書きまれた本を見て、「うわぁ……」と、怪訝そうな表情をする。


 「よくもまあ、そんな訳の分からない本読めるね、見ただけで頭が変になりそう……。そっか、そんな難しい本を読んでいるから、そんな気難しそうな顔になるんだね」


 少年の言葉に不満を感じた男性は無言で席を立ち、本を持って部屋を出て行く。


 「ちょ……ちょっと、機嫌悪くしたなら謝るよ!おーい、戻って来てー」


 しばらくして、別の刑務官の男性が現れた。今度は若い男性で少し身体が細い男性だった。彼は無言のまま牢獄の前の椅子に座った。彼等の間に長い沈黙が訪れた。


 翌日……


 早朝、昨日部屋から出て行った体格の良い刑務官が再び現れた。


 「直ぐに釈放って訳には行かん、少し調べさせて貰うぞ」


 男性の言葉に、彼は素直に従う。

 薄暗い地下牢の中に男性は灯りを灯し、少年の体を調べた。


 「ふむ……翼の骨格に異常は無いな。羽根人の骨と筋肉が人間よりも強いのか?」

 「さあね……?」


 少年は素っ気なく答えるが、その態度を見た男は少しムッとした表情を見せる。


 「まあ良い、お前の名前は?」

 「ロディウォンス……」

 「なるほど……で、ロディウォンス君、君は年齢は幾つ位だ?」

 「暦通りなら、多分15歳くらいだと思う……」

 「思うか……」


 少年は少し申し訳無さそうな表情で答える。男性は大きく溜息を吐きながら彼の身体を調べるのを止め、鉄格子の向こう側に立つ男達に合図を送り退室を促した。

 2人の男が部屋に残ったが、彼等は無言で少年を監視をする様に佇む。


 「あのー……ちょっと良いかな?僕って……何時までここに居れば良いの?」


 少年がそう質問すると、男性は答えた。


 「さあ、我々も上からの命令で動いて居るからね」


 その時、部屋の扉が開き別の刑務官が近寄り耳元で何か小声で話し掛ける。


 「何、まさか……それは本当か!?」


 そう言うと、別の刑務官は黙って頷く。彼は戸惑った表情で目の前のロディウォンスを無言の表情で見た。何が起きたのか分からない、彼は不思議そうな表情で相手を見る。


 「私からの取り調べは終わりだ。しばらく、自由にしていると良い……」


 彼は少し言葉を詰まらせた様な言い方をして、そのまま部屋から出て行く。


 ロディウォンスは、突然の出来事に戸惑って居る様子だった。しばらく椅子に座って居たが、待てど……何も起きないので室内を見て回る。窓から陽射しが入り、硝子制の窓を開けると外の景色が見えたが、窓にも鉄格子が掛けられて居て、抜け出せそうに無かった。


 「何時まで、ここに居るんだろう?」


 そう言っていると、部屋の扉が開き刑務官と一緒に1人の年若い少女が入って来た。


 長い赤毛の髪を垂らし、異国の衣装に身を包み、白い柔肌に、整った顔立ちをした少女は数冊の厚い本を左手に、右手には荷物を持って彼の前の席に腰を降ろす。


 「今から君の取り調べを行う人だ。名前はサティナだ」

 「え……この人が?」

 「女性だからと言って油断するなよ、文武両道で、彼女を襲おうと近付いた男性は、ことごとく病院送りされているんだ」

 「へえ……凄いね」


ロディウォンスの言葉に彼女は咳払いして、刑務官を睨みつける。


「そろそろ始めたいので、ご退席を願いますか」

「はいはい」


 刑務官は、そう返事をして部屋を出て行く、それを見た彼女は扉の鍵を閉めると席へと向かい、椅子に腰掛ける


 「どうぞ、座って下さい」


 サティナがロディウォンスに、向かい側の席に座るよう手を差し伸べる。


 「は……はい」

 「では……初めまして、ロディウォンス君ですね、よろしくお願いします」

 「は……はい、よろしくお願いします」


 彼女は、軽く微笑むと、荷物の中からコップと水の入った容器を取り出し、容器に入った水を注いで彼に差し出す。


 「待ちくたびれたでしょ?良かったら飲んで下さい」

 「はい」


 ロディウォンスは、向かい側の席に腰を降ろして少女が注いでくれた水を飲み干した。彼女は彼が水を飲むのを見て、クスッと軽く笑みを浮かべた。


 彼女は刑務官の取り調べ内容を「ふうん、なるほどね……」と、頷きながら彼に関する内容を数分で読み終えると、改めてロディウォンスを見た。


 「貴方……ここへ連れて来られた理由は分かって居るかしら?」

 「首都上空を飛行したからですよね?」

 「ええ……それに関する罰則はどうなるか知ってますか?」

 「知りませんが……」

 「極刑です」


 突然の言葉に彼は愕然とした。


 「な……極刑!」

 「ええ……ただし、それを無くす事もあります」

 「それは何ですか?」

 「今後、私の指示に従って頂きます」

 「はい?」


 突然の言葉に彼は首を傾げた。


 「どう言う事ですか、それは……?」

 「貴方は羽根人ですよね……自由に大空を飛び回れる者、私には、どうしても成し遂げたい事があります。その目的の為、是非とも貴女には強力して頂きたいのです。勿論……それに伴う謝礼金は出します。如何ですか?強力して頂ければ、私の権限でここから出しますが……」


 「まあ……悪くは無いですが、もし……僕が戻らなかった場合、どうするのですか?」

 「大丈夫、貴方は私には逆らえないわ。私が戻れと言えば……貴方はファーラルの反対側からでも、私の元に戻って来るのよ」

 「どう言う事だよ……それは?」

 「もう、貴方は私からは逃れられない運命にあるのよ」


 サティナは微笑みながら言う。


 「はあ?何言っているんだ?」

 「まあ……口で言っても分からない様だから、試しに私を殴り飛ばして見なさい、貴方が私を殴る事が出来れば、今直ぐにでも外に出してあげますよ」

 「分かったよ、じゃあ……そうさせて貰うから!」


 ロディウォンスは席を立って、彼女に向かって拳を振り落そうとした。


 しかし……彼女の手前で、腕が止まってしまう。腕に力を込めても、腕が見えない何かに抑えられて動かない。


 「出来ない、何故だ?」


 その時、彼は右手の掌に紋様の様な物が浮かび上がって居る事に気付く。


 「これは?」

 「先程飲んだ水の中に、ちょっとした魔法薬を混入させて置いたのよ。どう……私の言葉少しは分かってくれたかしら?」


 サティナは笑みを浮かべながら言う。彼女の顔を見て、この少女を一瞬でも美しいなどと思った自分が悔しく感じた。


 「貴女と言う人は……!」


 彼は目の前の少女を睨み付ける。


 「状況が分かったなら、席に座って下さい。話しを続けたいので……」

 「納得出来ないけど……まあ、話は聞きますよ。で……目的とはなんですか?」

 「天雅剣に関する話しです」

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天雅剣の伝説 じゅんとく @ay19730514

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