恋愛強化法とひとりの男子生徒の選択

すしやのからあげ

プロローグ

20XX年、日本。


急速に進行する少子高齢化と、若者の性への関心がいちじる しく低下していることが、国の未来を深刻に揺るがしていた。出生率の低下は社会保障制度 しゃかいほしょうせいど圧迫 あっぱくし、次世代の にない手が減少していく中、国は崩壊 ほうかいの危機に立たされていた。政府は幾度 いくども対策を試みたが効果は見られず、最終的に劇的な政策転換 せいさくてんかんが求められるようになった。


そして、政府はついに「国民恋愛活動強化推進法 こくみんれんあいかつどうきょうかすいしんほう」の制定に踏み切った。この法律は、15歳以上の若者に対して恋愛を奨励 しょうれいするもので、国民の恋愛活動を積極的に推進することを目指している。若者たちに自然な交際の機会を与えるため、高校のカリキュラムには「恋愛」という新たな科目が組み込まれ、恋愛経験が進学や就職において有利に働くシステムが導入された。


その一環として、全国の学校には「恋愛育成倫理部 れんあいいくせいりんりぶ(通称:ラブ部)」が設置され、生徒たちに恋愛に関するシミュレーションを行う機会が提供されるようになった。この「ラブ部」は、生徒が実際の恋愛状況を模擬体験する場であり、恋愛のスキルや理解を深めることを目的としている。


しかし、この政策の背後には、恋愛の自由とプライバシーが管理されるというもう一つの側面があった。恋愛活動は厳格 げんかくに監視され、恋愛経験はすべてデータとして蓄積 ちくせきされる。恋愛は中学卒業後に初めて解禁され、それ以前に恋愛を行った者には罰則 ばっそくが科せられるという徹底した管理体制が敷かれていた。恋愛のプライバシーはもはや個人の手の中にない。若者たちは、自分たちの感情や行動が政府の基準によって測られ、記録されるという現実を受け入れなければならなかったのだ。


この政策が発表された時、世論は賛否両論 さんぴりょうろんれた。政府は、出生率 しゅっせいりつを回復させるためには若者の恋愛活動を促進することが必要不可欠だと主張した。特に、都市部で恋愛に消極的な傾向を持つ若者層に焦点を当てた政策だったため、支持者の中には、これが現代の若者の孤立を解消する手段であると歓迎する声もあった。しかし一方で、多くの国民は恋愛という個人的な感情の管理に強い反発を示し、特に若者たちの間では「恋愛は自由であるべきだ」という抗議の声が上がった。個々の恋愛経験が可視化され、数値化されることに対しては、プライバシー侵害や精神的な圧力を感じる者も少なくなかった。


法律の施行から数年が経過したが、若者たちの中には「恋愛」の授業への参加を避ける者もいれば、逆に社会的に有利な立場を得ようと積極的に授業に参加する者も現れた。そうした中で、高校生たちは、それぞれが抱える感情や欲望、そして社会の期待にどう向き合うのかを問われることになった。

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恋愛強化法とひとりの男子生徒の選択 すしやのからあげ @susiyanokaraage

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