高度一万メートルの手記

トモフジテツ🏴‍☠️

隔たりあれども、心は傍らに。


 時は令和六年、九月十九日の話です。場所は日本国内、どこかの空港。


「またう日まで」


 そんな言葉が強調され、綺麗きれいみがかれたたずむ小さな物体。


「受話器をとるとガラスの向こう側とおはなしができます」


 続きにしるされた文章で、説明が書きえられていました。


 航空機に乗り込むため保安検査ほあんけんさけた僕は、届いたメッセージにより「それ」の存在を知ることとなります。

 

 先刻せんこくまで共に過ごしていた発着はっちゃくロビーにとどまる恋人が、あついガラスで遮断しゃだんされた搭乗口の僕に通称「別れの窓」を教えてくれたのでした。



 

 白露はくろ、という言葉が存在します。朝露あさつゆから生まれた水滴すいてき草木くさき付着ふちゃくし白く輝くように見える光景を、白露はくろと呼ぶそうです。


 白い受話器をにぎりしめ言葉をわす僕と彼女の姿は、まるで物語の一場面ワンシーンのようで、次第しだいに胸の高鳴りが強まっていきました。


 生まれて初めて目にする「別れの窓」ごしにいとしい顔を見つめ、空いた片手で金属パネルのひやりとした感触を確かめ、そっとえるてのひらいささか上気していることに僕は、気がつきます。


 スカイグレー色をした構造物オブジェクトの表面をでた際に生じる小さな熱の名残なごりつめたさの上にる暖かさは、その一滴ひとしずくは、さながら白露はくろ


 

 大切な旅の記録と記憶です。

 

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高度一万メートルの手記 トモフジテツ🏴‍☠️ @tomofuzitetu

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