第2話


悠久ゆうきゅうの昔、人類種ヒトは世界を灯す本来の『光』を喪ってしまった。

 人類種ヒトが自らの手で掴み取った蒼き希望の光。

 他者を尊び、天真爛漫てんしんらんまんなエルフ族や獣人族から貰った桃色に輝く優しさの光。

 其の気性は高潔にして豪放磊落ごうほうらいらくな弱者を護る"真の武人"たる鬼族や天狗族から受け継いだ紅に輝く正義の光。

 世界を創造せし女神によって与えられた美しき愛情の光。

 友情という高貴な情愛は紫色に輝く"友情の光"。

 人類種と他種族の共存共栄きょうぞんきょうえいと友好を願う藍色の"未来の光"。

 これら七色の『光』は人類種ヒトの手の平から零れ落ち、誰かを照らすことも叶わないまま歴史の闇に飲まれ、世界は"偽りの光"によって哀しみへと導かれた。

 <超科学>と名乗る蛇の誘惑に負けた人類種ヒトは、禁断の果実を口にし、一族を繁栄させた。

 最初に人類種ヒトは、平面世界から旅立ち、世界樹を捨て去り、宇宙や惑星という仮定上の概念を発明した。

 宇宙ステーション。

 宇宙飛行士。

 軌道エレベーター。

 宇宙船。

 エイリアンとの友好条約の締結・戦争又はエイリアンからの技術提供によるテクノロジーのさらなる進化。

 テラフォーミング。

 世界の始まりをビッグバン。

 生命の始まりをアメーバ。

 そして、世界を球体と錯覚する思想 といったこの世界に存在しえない事象や世界観を命の有無は問わず生みだし、自在に操るのだ。

 次に人類種ヒトは、選ばれし能力を宿す救世主・超越者が世界を救済する為にのみ召喚する権限を得る四大元素 炎、水、風、土 を大きな危険を招くと知りながら老若男女問わず発生させる手段を発明した。

 紀元前の時点で使用さえすれば、赤ん坊さえも意図して大小問わず火を起こし敵を焼却。寒さを凌ぐこともできる兵器や道具が生まれていた。

 90年代には巨大な津波を引き起こし、敵を一瞬にして滅ぼす兵器が量産された。

 2000年代には風は疎か竜巻さえも己の手中にする技術を各国が奪い合った。

 2050年に至っては地響きという自然現象を人類種ヒトの意思のみで意図的に発生させるとんでもない装置が生まれた。

 人類種ヒトは、詳述は避けるがこの他にも多くの発明をした。発明それらが光に満ち溢れた楽園を閉ざしてしまったとも知らずに……。

 そう、人類種ヒトは高度な技術力を発達させる過程において、いつしか嘗て自分達と愛し合い、触れ合った他種族の乙女達とのかけがえのない日々を忘却の彼方へと追いやってしまったのだ。

 人類種と離れ離れになってしまった多くの親愛なる隣人達の例を上げよう。

 食いしん坊でお人好しで泣き虫でぽっこりお腹がキュートなコックさんやお菓子屋さんの種族であった"猫耳族"。

 天真爛漫で人懐っこくとても友好的な"兎科亜人種"。

 天を衝く巨躯に比例する凄まじい怪力を誇る屈強な戦士であり、豪胆さと弱者への慈しみは戦神にも匹敵するという、気は優しくて力持ちを地で行く鬼族。

 河童族。

 天狗族。

 ハーピィ族。

 エルフ族。

 ドワーフ族。

 ケンタウロス族。

 ラミア族と人類種ヒトは別れてしまったのである。


 人類種ヒトは世界で最も孤独な生き物になってしまうという不幸に襲われた。

 猫耳族や兎科亜人種に癒やされ優しさを知り豪快で陽気な鬼族に護られなくなった弊害が大きく現れたのだ

 けがれを知らない無垢な少年達が、野卑やひな女に暴行される事件が多発した。

 ギリシャ神話に登場する女英雄アキレウスが愛用した盾 よりも更に頑強な肉体を誇る鬼族の女戦士たちがいれば、そのような不浄な輩をノックアウトしていたであろう。

 子供の姿を借りた化物共に仲間はずれにされる無垢な子供が海辺の砂の数のように増えた。

 そんな悪ガキは女神よりも情け深い兎科亜人種の激高を招き、時空の狭間へと封印されて然るべきである。

 『どうか、わたくしに愛をください』と嘆く乙女達の涙の雨が大地に流れた。その涙の雨は決して大地を肥やさず、ただ微かな、甘い哀傷的情緒ばかりが、矢継ぎ早に《あいついで》生まれた。

 乙女達が猫耳族や兎科亜人種に再び心を癒やされる日を、世界の秘密を識る賢者は待ち望んだ。

 世界の秘密を識らないものの敬虔な聖職者は民のため、女神へ祈りを捧げた。 

 民の幸福を願う善良な王族は王冠と権力を奪われ、"総理大臣" や "大統領" と呼ばれる得体の知れない人々が国を統治するようになった。

 地球球体説や進化論といった荒唐無稽こうとうむけいな学問が広まり、一部の例外はあるものの民衆による女神への信仰が随分と廃れた。事実20世紀には人が女神の失敗作なのか、女神が人の失敗作なのか"と苦悩する哲学者が人類史に現れたのである。

 そのような哲学者が現れたことからもわかる通り、人類は堕落の一途を辿っていた。我が子を傷つける卑劣な外道は児童虐待を愉しみ、 盗賊ギルド・強盗団は欲望のままに暴れまわる。 

 スペインで

 イタリアで

 フランスで

 アメリカで

 オーストラリアで

 メキシコで

 チリで

 トルコで

 インドネシアで

 台湾で

 日本で

 世界中で 女神の御心に叶う人達に悲劇が降り注いだ。



なら天国

なら地獄


それはこういうことだ。



 そして遂に運命の日が訪れた。


 全世界が暗闇に包まれ、荒野になったのだ。


 世界は荒廃したまま、時間だけが果てしなく残酷に流れていった。


第一章














第二章













第三章








第四章


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闇二抗イシ影ヨ 薄雪姫 @KAGE345

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