闇二抗イシ影ヨ

薄雪姫

第1話

プロローグ
















第一部 邂逅




第一章


 いつもどおり、お日様が優しくにっこりと笑いながら、みんなを見守っている日のことでした。


「ららららら〜🎵」


 あら、あなたには聞こえたかしら? 小鳥さんだって歌うのをやめてうっとりしながら聞き惚れるくらい心地よい清らかな歌声がしますよ。


「ららららららららら〜🎵」


 『美凪みなぎ』というお月様が恥ずかしがって雲の中に隠れてしまうくらい可愛い女の子の透き通った声が歌っているのです。

 美凪の肩まで届く髪の毛は、鮮やかな紫光りの黒です。

 美凪の唇は、ほっぺたが落ちそうなクリームたっぷりのケーキの上にちょこんと座っているいちごのように真っ赤です。


 美凪の手には巫女装束を脱いでおしゃれなお洋服に着替えた美凪が首にかけるとそれはよく似合いそうな首飾りがありました。


「」


 女王様のお城から神社に帰る途中で、森の中を進んでいた美凪は、いつも通りの歩幅の小さいゆっくりとした上品なステップで歩いていましたが、お花からお花まで飛んでは、美味しいお花の蜜を吸う鮮やかなチョウチョのように幸せな気持ちでした。


「」


 美凪は、女王様の『わたくしの愛する国民の皆様が永遠に幸福に暮らせますように』というお願いを神様に叶えてもらうためにお城に招かれていたのです。

 其処は金殿玉楼びっくりするくらい華やかなお城でした。

 白雪姫やシンデレラの王子様が住んでいて、あなたを手招きしてくれそうなお城です。



 女王様は、前からお顔を見ても、後ろ姿を見ても整っていて美しくて立派な姿をしていました。とびっきり豪華絢爛ステキなドレスがよく似合っているし、お肌はおとぎ話の白雪姫のように真っ白で、女の子なら誰でもひと目見ただけでうっとりしちゃうくらいティアラは艶のある長い蒼い髪によく似合っているし、お日様みたいに眩しい頭の上の王冠だって、この女王様のためにあるといってもうそにはなりません。

 女王様の口元は小さく笑っていました。

 女王様の瞳の輝きはまるで宝石のようです。

 そんな女王様が今日のおひさまみたいに微笑んでこう言いました。


『美凪さんはご自分が贈られるより、大切なお友達に何かを贈るほうがお好きでしたね。ならば、この宝石の首飾りを……どうか、貴女のもう一人の大切なお友達に……リサさんに……未来の美女治療術師(ナースさんやお医者さんのことを偉い人はこう呼ぶのです)さんに……さしあげてくださいね……きっと、とても喜んでくださるはずですわ……』


女王様は、声だって美凪に負けないくらい透き通るように綺麗です。


『まぁ、なんて煌びやかな首飾りなのでしょう。リサ様なら……きっと……喜んでくださいますわ……』


美凪は、感激しすぎて涙を浮かべました。


「カワセミの羽のように艷やかな髪の毛と赤い花のように美しい唇をお持ちのリサ様は、世界中で一番慈しみ深いお心の……頑張り屋さんです。

 リサ様は……お月さまもお隠れになるように美人で、いつも患者様のことを考えておられるような……素敵なナースさんになられるお方です。

 神様もそうおっしゃっていました。未来のリサさんのような本当にお美しいナースさんには、最高に美しい首飾りが似合いますわ……」

「ふふっ。美凪さんは、お友達のことを心底から愛しておられるのですね……」

 女王様がまた、破顔一笑しました。

「はい。わたくしこと美凪は、リサ様をとても愛していますわ。わたくしこと美凪は、これまで出会った全ての方々のことを海よりも深く愛しています。無論、とても豊麗でいつもみんなのことを考えてくださるような、得も言われぬ美しさの女王様のことも深く愛しておりますわ……」


美凪はそう言うとそっと女王様の頬にキスをした。


「この口づけはわたくしから、女王様への愛の証ですわ」


女王様はトマトみたいに顔を赤くしました。


「……美凪さんのつややかな唇がわたくし頬を撫でてくれると不思議と心がいつもよりもさらに和らぎますわね……お友達を……わたくしを……此処まで愛してくださる貴女とお別れするのはとても胸が苦しいわ……。それゆえに、わたくしは『さようなら』という言葉が嫌いなのよ」


 そして、女王様は 『さようなら』 の代わりに今の自分の願い事を神様にありったけ言いました。『さようなら』という言葉が嫌いな女王様はいつも、お別れのときには 『さようなら』 の代わりに神様にたくさんお願いするのです。


『これからもわたくしが女王として国民の皆様を御守りすることができますように……』

『国民の皆様に涙の雨が降り注げば、わたくしは傘になれますように……』

『わたくしの愛する国民の皆様が永遠に幸福に暮らせますように……』


 女王様は、自分の国に住んでいる人たちが大好きなので、この他にも国民のためにいっぱいお願い事をしました。そして、時計の針がちょうどお願い事を始めてから三十分の経過を教えてくれたあとで、ようやく自分のことを願いました。


『これからもわたくしが美凪さんのお友達でいられますように……最後にこれより、帰路に就かれる美凪さんのご無事とまたお逢いできる日が訪れることを心より願います』


 その後、女王様に『美凪さんさえよろしければ、馬車の手配をいたしましょう。馬車の中でゆっくりとおやすみください』と勧められましたが、

お散歩が好きな美凪は丁寧に断ったのでした。



「幼気な小鳥さんたちが……綿菓子みたいに美味しそうな雲が……今日もお空を飛びながら、碧瑠璃のようなお空の上から美凪を優しく見守ってくださっていますのね……」


美凪はいつものように空を見上げながら、森の中を歩いていました。



「きゃああああああああああああああああああああああ……ゆ、ゆ、ゆ、幽霊さぁあああああああん」


 絹を裂くような悲鳴が、やまびこのように響きました。


 リサの声でした。リサは、世界一チャーミングで人気者な女の子です。とってもドジで、超がつくくらい泣き虫さんだけど、リサの心は誰よりも優しいの。だから、リサは大抵のオバケや不思議な生き物とも仲良くなっちゃいます。


 リサは赤ちゃんの頃に優しい女の子だから、優しさのご褒美に女神様がリサに人間の子供に絵本を読んであげましょうって地上に降りてきた天使のように美しい声をプレゼントしたのです。


 そんなリサの声が哀哭ないていました。


「魔法少女さぁああああん……」


 可哀想なリサは、卵に少女漫画に出てくる主人公みたいにキラキラした目やお鼻を付けたように色白で可愛らしいお顔をくしゃくしゃにして泣いていました。


「ネッシーさぁあああん、スカイフィッシュさぁあああん、ビッグフッドさぁああん、泳ぐネッシーさんが沈み、飛ぶスカイフィッシュさんを落とすくらい綺麗で……聖女様みたいに優しくて……小鳥さんがうっとりするくらいのソプラノで歌えて……五ツ星レストランのコックさんと同じくらいお料理も得意で……霊力がとびきり高くて……大大大好きなさぁああああん……たすけてくださぁああああああい……私はもっと、ずっと……幽霊さんやUMAのみなさんや美凪さんとおともだちで……いろんな ワクワク や シクシク を……みなさんとシンクしたかったですぅ……ここで刺されて死んじゃうのは嫌なんですぅ」


 オバケやモンスターだってへっちゃらなリサまで、怖がって逃げちゃうなんて……一体、どんなモンスターなのかしら?


「せっかく森にやってきたんだから、ビ、ビッグフットさんに会って……お友達になりたかったですぅううううう……ハチさんは、いつも、リサ特製のはちみつたっぷりケーキを食べさせてあげようとしたら、プンプンしちゃいます!……プンプンしちゃったハチさんは……こわいお話が大好きな私でも臆病風に吹かれちゃうからいやなんですぅうううう。

 嗚呼、怖くて美凪さんに縋りつきたいですぅうう。

お願いですから……刺さないでください。

 ハチさんは一体全体どうしてそんなに、はちみつたっぷりケーキがおきらいなんですか!? 自分の名前が付いてるお菓子なんてほっぺたが落ちちゃうくらい美味しいに決まってるのに!

 と、とりあえず、ハチさんから、逃げながら……深呼吸して気持ちを切り替えなきゃ……スゥー……ハァ……スゥー……ハァ……なんだか苦しくて息が止まりそう……」


 


 

 




(リ……リサ様ッ!? 翡翠の髪状と丹花の唇と翠玉のように輝く瞳をお持ちで、魔物さんとも仲良くしたいと切に願っておられるような……わたくしのかけがえのないお友達である貴女の想いを踏みにじるなんて……キラービーさんは……なんと酷い魔物さんなのでしょう!?  わたくしはキラービーさんをゆるせませんわ! キラービーさん、貴方には一生、リサさんから……離れていただきますわよ……)


美凪は摩利支天様という神様の印を結ぶと、疾風よりも素早く呪文を唱えました。


「オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ」


 あら不思議、信じられないことに……いきなり、世界の輪郭がぼやけ、リサの足元から煙が出てきたかと思うと……それは、忍者だってひっくり返るくらいお見事でした……キラービーの視界から……そう、リサがドロンと消えたのです……。


「…………………………………………!?」


キラービーは、一瞬、空中から落ちてしまいそうになりました。


キラービーは虫の魔物なので目玉はありませんが、もし目玉があれば飛び出していたに違いありません。

 

「今、美凪がお口の中で唱えましたのは、難しい言葉でかっこよく申しますと隠形術の呪文です。シンプルに表しますと、かくれんぼの呪文ですわね。仏教の守護神である摩利支天様にお願いして、怖い思いを取り除いていただいたり、キラービーさんからリサさんを隠していただくことができるんですよ!」


ちなみに、美凪は神社の巫女さんなのに、仏教の神様にお願いする呪文が使えるのは、美凪を見ると、神様なら誰だって頬がほころんで、ついつい美凪ちゃんのお願いを聞きたくなっちゃうからなのです。


「これでもう、キラービーさんはリサ様とおいかけっこできませんわ」













「私、ナースさんになりたいです!。絶対絶対ナースさんになりたいです!。ナースさんになって……病気で苦しい方達や、ココロが痛い方達や、寂しがっている方達を……えっと……その……癒やしてあげたいです!。ルンルン気分で、美味しいデザートを食べたときみたいに、例えば、クリームたっぷりでふわふわのケーキを食べたあとの私みたいに……元気いっぱいにしてあげたいです!。クリームたっぷりでチョコバナナやをたっぷりトッピングしたパフェを食べたあとの私みたいに……ニコニコにしてあげたいです! 私、不幸な方を見ているのは………私が不幸になるよりも、ずっと苦しいんです。私は小さな時から、歩く度に転んだりどぶにハマっちゃったりなんてしょっちゅうでした。今日もビックフッドさんを探しに行ったのに、いつものようにビックフッドさんを見つけられなくて、代わりにキラービーさんに遭って……追いかけられちゃいました……だからいいんです。だけど……だけど……不幸な誰かを助けてあげられないのは本当に嫌なんです」





「」




 その女の子が銀色の雫を流している姿は雨に濡れるお花のようでした。

 その女の子は二重まぶたで、苺よりも柘榴のように紅い瞳孔でした。

 まるで、上手な職人さんに大切に造られたお人形さんのような顔立ちをした女の子でした。

 女の子は美凪やリサやあの女王様に負けないくらい顔立ちが美しく整っているのに、その宝石のような丸い両目には、一切のぬくもりが見られません。

 その女の子は白鳥のように優雅な白いドレスを着ていました。

 まぁ! その女の子は、真っ白な雪の世界のお姫様なのかしら?。



「やっぱり美凪さんのキスがいいですよね。リサが患者さんのほっぺたにキスをしようとしたら、足元がふらふらしちゃって、患者さんの上に倒れちゃいますからね……」


少し眉をひそめ、うつろな眼差しになりながら

リサが苦笑いしました。


「」


 雪を欺くお肌で、上手な職人さんに大切に作られた可愛いお人形さんのような二重まぶたで、苺よりも柘榴のような紅い瞳孔をした……ずっとお顔を眺めていれば、この世のものとは思えないくらい玲瓏な女の子と夢の中で遊んだような気持ちになるような……ミステリアスな女の子のほっぺたを、美凪のいちごのように真っ赤な唇が、子犬にするように撫でてくれました。


(美凪はリサの唇を丹花の唇なんて褒めますけれど、美凪だってリサに負けないくらい唇が紅いんですよ)


つまり、美凪はお人形さんみたいにきれいなお顔の女の子のぼっぺたに優しくて甘いキスをしたのです。


「」


女の子は、2回数える間だけ、お顔に紅葉を照らしました。


「新しいお友達になってくださるかもしれない方とお初にお目にかかることができて、天にも昇る心地です。わたくしは美凪、この近くの神社の巫女です。日々、巫女として私達人間族が亜人種族の皆さんと一緒に笑顔になったり、平和に共存できる幸せな日々が永遠に約束されることを神様にいつもお祈りしております。不束者ですがよろしくお願い致します。」




「はじめまして、可憐で清楚で楚々としたお声で世界で一番キュートな巫女さんこと美凪さんの大親友のリサです。……貴女とも親友になりたいです。将来の夢は、年中無休でみんなのために神様にお祈りし続けている美凪さんみたいに、みんなの痛みを癒してあげられる素敵な看護婦さんになることです。あ、そうだ! 私だって……可憐で清楚で楚々としたお声で世界で一番キュートな巫女さんこと美凪さんみたいに、綺麗なお辞儀ができるんですよ!」


「お初にお目にかかることができてらんらん気分です。わたくしはリサと申します。不束者ですがよろしくお願いしま……は、はわ!?」


「はわわわわわわわわわわわわわわ……」



「私、また、お辞儀をしようとしたら、緊張で目がくらくらしちゃって、後ろに倒れちゃいました……」


「お辞儀をしようとして後ろに倒れちゃうのは、これで120回目です。」










第二章














第三章















第四章













第二部







第五章










第二部










第一章














第二章
















第三章

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