後編『食と蝕』

 ここからは、『食』の体に合う、合わないの話をする。


 例えば、欧米人(と安易に外国人の代表としてあげるのは安直なのだが、敢えてそうしよう)は、腸内の、海藻の細胞壁を分解する消化酵素の数が比較的少ないので、海藻をうまく消化できない場合が多い。その一方で、古来よりわかめや昆布、海苔のりなどの海藻に親しみのある日本人は、比較的容易に、海藻を消化してのける。


 また、摂取するものを変えれば、立場は変わる。


 古くから酪農を営んできた欧米人は、牛乳、バター、チーズなどの乳製品を、料理にふんだんに使う。乳製品特有の糖、乳糖ラクトースなるものがあるのだが、多くの欧米人は、この乳糖ラクトースを分解する、乳糖分解酵素なるものが腸内に多いので、容易に消化できる。その一方で、日本人のの多くは、乳糖分解酵素をあまり持っていないので、乳製品のふんだんに使われた料理を、うまく消化できないのである。


 ちなみに、日本人の『大人』と表現したのには、意味がある。


 実は、日本人にも乳糖分解酵素をたくさん持っている時期が存在する。それは、母親の母乳を飲む乳児期だ。人間の母乳にも、乳糖が含まれているが、乳児期の人間の腸内には乳糖分解酵素が多いので、母乳のせいでお腹を壊すということは一般には起こらない。そして乳離れした後は、日本人の体は乳糖分解酵素の役割は終わったと判断し、デンプン分解酵素が優位になっていくので、大人になってから乳製品をとると、お腹を壊してしまう人が続出するわけである。


 また、ここで敢えて食品名をあげるとするならば、一見体に良さそうなであるヨーグルトも、自身の体に合うのかはしっかり判断するべきである。


 また、詳しくは言及しないが『小麦と米』についても、上記と似たような関係が働き、人によって合う、合わないがある。


 そういった、食べ物と体の相性による不具合が起こるのも、所詮は弱肉強食の自然界における劣等種に過ぎなかった人間が、知能と器用さと、それによる科学をもって成り上がってしまったが故に、何でも支配して何でも食べるようになり、「人間とは雑食であり何でも食べれるのだ」という幻想を抱くようになったからだろう。


 少なくない数の現代人が、その胃腸に抱える大小様々な問題というのは、自身の起源ルーツを知り、認め、最適なかてを選ぶことをおこたっているせいで、自身の胃腸に合わないものを摂取してしまっているという紛れもない事実に、起因している。


(もちろんそうではないのに、胃腸にまつわる苦しい病を抱えている方が世の中にいることは承知しているが、私は今、もっと根源的かつ本質的な話をしているのである)


 ということは、自身の胃腸に合うもの、合わないものを知ることができたなら、胃腸の問題というのは、間違いなく快方に向かうだろう。


 しかしながら、今、人間は、何を飲み食いしているか。



——炎症を促進し血液をドロドロにする植物油を使った、揚げ物。


 揚げ物は、確かに美味い。が、油選びは重要である。酸化しやすい油である『多価不飽和脂肪酸たかふほうわしぼうさん』は、オメガ三脂肪酸(青魚の油、エゴマ油、アマニ油など)と、オメガ六脂肪酸(リノール酸、紅花油、コーン油、サラダ油、キャノーラ油、胡麻油など)の二種に大別される。前者は炎症抑制作用と、血液をサラサラにする作用があるが、後者は逆に、炎症促進作用と血液をドロドロにする作用を持つ。この二種の脂肪酸を、前者より後者がやや多いくらい(一対三とか、一対四とか、言われている)の比率で摂るのが理想とされているが、現代人の多くは後者の摂取量が前者の何十倍にもなっており、バランスが崩壊している。そして、血液と体のためには、前者を今よりも多く摂って『足し算』するのではなく、後者を控えるという『引き算』をするべきであると私は考える。また、これは余談だが、『アイスクリーム』でも『アイスミルク』でも『氷菓』でもない『ラクトアイス』には、植物油の類がとりわけ多く使用されている。さらにもう一つ余談だが、パン・ケーキ・ドーナツなど小麦菓子の多くに使われる『ショートニング』と『マーガリン』と『ファストスプレッド』の三種は、水と油の含有率の違いこそあれど、いずれもオメガ六脂肪酸に分類される植物油を主成分としている場合がほとんどなので、多価不飽和脂肪酸のバランスを考える上では注意するべきだろう。なお、飽和脂肪酸であるマーガリン等を『飽和脂肪酸』などと呼ぶやからがいるが、あれは水素結合により無理やり固めてバターなどの比較的マシな脂肪酸に姿を似せているだけなので、これも注意が必要だろう。



——長期的影響のわからない遺伝子組み換え食品。


 二〇二四年四月から使用され始めた食品表示は、極めて不可解である。現在、大豆由来の食品などは、『分別生産流通管理済み=遺伝子組み換え大豆の意図せざる混入が五パーセント以下の場合の表示』か、『遺伝子組み換えでない=遺伝子組み換え大豆の混入がない、不検出の表示』のいずれかが記載されている。なぜ分けるようになったのか、消費者は考えなければならない。



——誰にも正体がわからない不純物の混入した、化学的に合成された調味料。


 某社のグルタミン酸ナトリウムは「味噌と同じ製法で作られています」などと言われているが、あれは厳密に言えば遺伝子組み換えによりグルタミン産生能力にバフがかかった大腸菌の生み出した『バイオテクノロジー調味料』であるから、安心安全と掲げてしまうのは極めて無責任である。なお、大腸菌は、糖尿病患者を救うインスリンの製造において極めて重要な役割を果たしていたりもするので、それ自体を否定するつもりはない。



 他にも……


——『乳化剤』と称される、界面活性剤中性洗剤のようなもの


——『pH調整剤』と称される、防腐剤。


——柔軟剤や芳香剤と同じ成分の、香料。


 これらを、毎日、大量に、美味そうに、摂取するのだ。


(とはいえ、この文明社会で一般的な暮らしをする上では、どう足掻あがいても避けられない道ではある)


わけのわからないものを体に入れるから、わけのわからない症状が出たり、わけのわからない病気になる。


 そんな姿を見ていると、人間は、自らが選択して築いた文明社会に、自らが生み出した粗悪な食物に、のでは、という気さえしてくる。


 最後に……


 どんなに腕力の強いムキムキマッチョマンも、下痢便と腹痛には勝てない。


 どんなに快活で太陽のような人間でも、大病を打ち負かすことは容易ではない。


 多くの財を抱えようと、


 大きな権力を持とうと、


 人間は所詮、動物の一種に過ぎないのだ。


 人間よ、己の動物たること忘れるなかれ。



————人間よ、人間とは何か、思い出せ。


 

〈完〉


※気になった点がある方は、加賀倉が嘘を言っていないかどうか、ぜひ調べて欲しいです。

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人間よ、己の動物たること忘れる勿れ 加賀倉 創作【書く精】 @sousakukagakura

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