人間よ、己の動物たること忘れる勿れ

加賀倉 創作【書く精】

前編『人とヒト』

——人間。


 地球に蔓延はびこる二足歩行の哺乳類。


 人間は、高度な文明を築いたことで、神になった気でいる。


 そして……


 いつからか、己が動物であることを忘れている。


 人間は、誰のものでもない偉大なる地球の上に、勝手に境界線を引き、領土、領海、経済水域、領空などを定めた。


 花を枯らし、草木を倒し、時に、それらを焼き払う。


 岩を砕き、穴を掘り、時に、山肌を削り取る。


 海に毒を流し、時に、大地だったものでそこを埋める。


 空にもやはり毒を撒き、時に、自慢のガラクタを投棄デブリ化する。


 陸、地底、海、海底、空、宇宙、地球のありとあらゆる場所を占領し、不必要に多く、大きく、薄汚く、破壊的な建物を築き、蔓延はびこる。


 人間以外の種をあらゆる土地から追い出し、絶滅に追いやり、時に飼い慣らして愛玩動物ペットとしたり、見世物小屋動物園鉄檻てつおりに幽閉する。


 野生動物は危険だ、などと言って、身勝手にも、殺しさえする。


 人間は、そんなに偉いのか??


 いや、そんなことはない。


 古来、人間は弱肉強食の自然界において、劣等種であった。


 体格や運動能力で勝る百獣たちに、人間は太刀打ちできなかった。


 そのため、人間の食事の順番は、いつも最後だった。



——今、目の前に、シマウマがいるとする。



 メスのライオンがやってきて、それを狩る。


 首に噛みつき、息の根を止める。


 メスのライオンは、子供たちと、オスのライオンに、シマウマの肉の一番美味いところを、食わせてやる。


 残飯が残る。


 ハイエナたちが寄ってくる。


 彼らは、シマウマの肉の二番目に美味いところを頂戴するのだが、もはや、腐肉となり始めている箇所も多い。


 ハイエナが去ると、ワシなどの猛禽もうきん類が、シマウマの骨の周りの肉をついばむ。


 ワシがそれを放棄すると、ハエが、微細な肉片に寄ってくる。


 そのまま産卵し、ウジが湧く。


 残された、骨。


 そこに、二足歩行の、手先の器用な哺乳類がやってくる。


 人間だ。


 人間は、その器用な手先で、シマウマの骨の髄液ずいえきを一滴残らずしゃぶりつくす。


 『臥薪嘗胆がしんしょうたん』という故事成語がある。


 これは、の上にして、苦いきもを舐める、という意味だが……


 当時、人間は、髄液をすすりながら、何を企んでいたのだろうか。

 

 復讐、か??


 だとすれば、とんだ迷惑、とんだ八つ当たりである。


 今や、成り上がりを果たし、生意気にも自然界の支配者として君臨した人間は、かつてのように骨の髄をしゃぶる必要はなくなり、その貪欲な舌と、脳みその依存心に負けて、毎日のようにありとあらゆるご馳走で腹を膨らませる。


 その末に、胃腸に合わないものを食べて、腹を壊したり、病気になるのだから、もはや救いようがない。


 まさに、自業自得である。


〈後編『食としょく』に続く〉

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