新居にところどころ白い跡があるんだけどなにこれ

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引越しが完了してようやく一息つけるなという頃合いだった。

少し広めのマンションは鉄筋で快適。しかも家賃は相場以下。お得にくつろげる空間を得て大変ハッピーだったわけだが、おかしな点に気がつく。

……なんか、ところどころ白いな。

扉や収納など、一部が白く変色しているのだ。なんだろうと思って触れてみると傷んでいる事が分かった。更に注意深く観察すると、全て太ももあたりの高さ。妙である。

これ、ひょっとすると……

試しに壁を触っていくと案の定クロス越しでもへこんでいると分かる箇所が複数あった。その事実を管理会社に報告したが、返ってくる答えは「分からない」。気になるなら修繕しますよと言われたが生活に支障があるわけでもなし断る。俺が求めているのはそうじゃない。原因の究明だ。こうなったら意地でも解決してやると業者を呼んで検証を試みると、「何かでぶつけたようですね」との結果。家具を運ぶ際に打ち付けてしまったのだろうとの結論。なるほどなぁと思い納得したが、しかしそれにしては各所に分散されている。

違うような気がする。

思い立った俺はマンションの住民に聞き込みを開始。大半が「知らない」と冷たい一瞥をくれる中、唯一、一階に住む主婦から有力な情報が聞けた。

「あの部屋、お母さんが逮捕されてて……シングルマザーだったんだけど……」

話によると、育児と仕事でノイローゼとなった母親が日常的に子供を虐待。頭を壁に打ち付けるなどの暴力行為に及んでいたらしい。なるほどと合点がいく。

俺は主婦に礼を述べて立ち去り、過去の事件を調べてみるとピタリと一致する記事が出てきた。顛末としては、子供は部屋で死んだらしい。

おいおい事故物件じゃないかなにが「分からない」だと管理会社に対して不信感を抱いたが、駅近2k風呂トイレ別独立洗面台あり最上階角部屋で月5万という破格な条件。多少の瑕疵は目を瞑らなければならないだろうと呑み込んだ。

なぁに。名前もしらない子供が死んだだけじゃないか。

そう自分に言い聞かせた俺は酒を買って帰宅し、ソファに腰を落ち着かせた。

否が応でも目に止まる白い跡。子供と母親に起きた悲劇を想像するとかわいそうだなと思う気持ちはあったが、すべて、すべて終わってしまった事である。

俺は、ただ酒に酔う事しかできなかった。