1 乃羽

燈を追いかけて人間界に降りることに迷いはなかった。しかし燈はいくら探してもみつからず、五百年ほど彷徨った。初めて訪れた国で目にしたのはボルードーが従える魔物軍からの侵略に苦しむ民だった。


 彼らを見た途端、湧き上がる怒りとともに決意した。ボルードーと配下の魔物たちを滅ぼそう、と。


「光をもってして、我の力を。」




その小国「月瑠(ユエルー)」にとって、乃羽は無論、英雄だ。神だから、当然崇め奉られる。乃羽の決意を知った、当時の長であった菱京(りょうきょう)という名のその女性は乃羽の腹心となり、協力を約束した。





「乃羽様」


「…最後の一人?」


「はい。ようやく五人そろいました。今よりその五人を貴方様の護衛とします。」


「ええ…。最後の人はどんな方?」


「私も、霖櫻(りんえい)様も、驚きました。まだたった十五歳の女の子でございます。しかし武術に非常に長けており、実技試験の成績は、従来の騎士よりも優れているほどでございます。今連れてまいりましょうか?」


「ええ、お願い」


 菱京は頭がすごくいい。侵略の心配がなくなると、その能力を発揮させ、数カ月で月瑠を発展させた。特に強い五人の武人を集めて、護衛にしましょうと進言したのも彼女だ。その最後の一人が決まったという。


 


「初めまして、乃羽様。」


 ――ビリッと、全身に電気が走ったような衝撃を受けた。この声。清廉で澄み切った、でもどこかひんやりとした、人間の温かさを持たない声。


「この度、乃羽様の護衛を務めることとなりました。」


期待を込めて振り返る。五百年前と変わらない煌々とした目が乃羽を見上げる。


「燈、と申します」

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姉妹相愛 早瀬ちづる @HayaTidu

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