第5話 「減らない鉱物」お題・鉱物

 ある洞窟どうくつで、貴重な鉱物こうぶつが複数、採取さいしゅ出来るという。

 しかも、鉱物はなくなるどころか、年々増えているらしい。

 だが洞窟に行って、帰って来た者はいないという話だ。


 男はそのうわさを聞くと装備を整え、早速洞窟に向かった。

 帰還きかんした者がいないということは、気にならなかった。

 自分なら鉱物を採って帰って来ることなど、容易たやすいことだろうという自信もあった。

 何故なら、男はトレジャーハンターだったからだ。


 しかし洞窟は思ったより入り組んでたり、トラップが仕掛けられていて、探索は困難をきわめた。

 だが男は、今までにつちかった知識と経験を活かし、何とか洞窟の最深部まで辿たどりついた。


 ──すると、そこには。


 箱に入ったものや、その周りにも広がる、貴重な鉱物の類が男を待ちかまえていた。

 男は喜びいさんで、鉱物に取りつく。

 ダイヤやクオーツ、セレスタイン。他にも、様々な希少な鉱物があった。

 それらを持ち帰るため、持参した大袋に入れていると、妙なことに気付いた。


 男が手にした量以上の鉱物が、袋に入っていたのだ。

 男は頭をひねり、鉱物をじっくりと観察する。

 すると鉱物に触れた指先から手の平、そして腕と、自分の体がどんどん、鉱物へと成り代わっていってるのに気づいた。

 さけぼうとしたが、間に合わない。

 男の体は、全て鉱物になってしまった。


 やがて、──静寂せいじゃくおとずれる。

 そこにあるのは、男が辿りついたときより量の増えた、物言わぬ鉱物たちだけだった。

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