第6話「極めたる者、新たなる世代へ」
「あと、俺の最高の作品が二つある」
「へ?」
「な、なんですか?知らないですよ?そんな作品」
二人は全く心当たりがない。
「何、とぼけてんだ」
そう言うと秋耕は二人の頭をポンと叩き、
「お前らだ、お前ら」
「え?」
秋耕はこの余生で、後継者という最高傑作を生みだしていた。
「あと数年したら、ここの本に匹敵する物が絶対書けるようになる。絶対にな」
『本当に!?』
あの気まぐれ鏑木秋耕が絶対言わなさそうな台詞に、二人は喜びを通りこして困惑する。
「ああ、絶対だ。太鼓判押してやるよ」
「ほ…本当?お爺ちゃん!?」
「そのためにゃ、これまで以上に切磋琢磨が必要だがな~」
尻込みしている二人に視線をやって、発破をかける秋耕。
「やっ…もちろん、やってやりますよ!!」
「わ、私だって負けないわよ!!」
一層、熱が入る二人。肩の荷が降り嘆息する秋耕。
「その意気だ。さーて、もう思い残すことはねえな」
「え?もう死ぬの?」
「じゃあ死ぬ前に、天上軒の塩ラーメンでも食っとかねえとな」
そういうと、草履をぱたぱたと。店を閉める秋耕。
「あ、お前らも食いに行くか?啓二、春香」
『はいッ!!』
そういうと、近所の町中華でラーメンをすする秋耕たち。
良い作品にはたくさんのいい思い出が必要だ。それを熟知している彼らは、想いのまま「人生」を楽しむ。その術を知っているのだ。
数年後、成長した角山啓二と鏑木春香の作品は、業界の巨星として、満を持して登場する。それに触発されて、新たな才能が次々と現れ、文壇は戦国時代に突入する。これも鏑木秋耕の置き土産だろうか。
ちなみに兵主良訓は、文壇から永久追放された。角山倫太郎会長も責任を取って業界を去るが、今では覚えているものはわずかだ。
そして鏑木秋耕こと西山明憲の作品は、その後も珠玉の名作として、人知れず読まれていることだろう。
それが彼の作品であると、見分ける方法。それは「本能が感動する」作品かどうかである。
古書店の鏑木さん はた @HAtA99
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