第2話
教室の外で雨が降っている。
こんな風な言い方をすれば、川田は笑ってくれるだろうか。「廊下でってことかな」真面目な顔でそう言って、俺の顔を見て、少しずつ口の端を釣り上げていって。
やめた。どうせ自分からは話しかけることなんかできそうにないんだから、川田が話しかけてくれたって、それがむず痒くてすぐに逃げてしまうんだから、台詞を考えたって空虚な妄想にしかならない。
なんでこんなことになってるんだろう。俺は川田のことが好きなのに、どうして。自分の心の中のことが何重にも屈折して、いや違う、させてしまって表に発散させるから、そんな俺を見て、根暗だとか、意気地なしだとか、そんなふうに川田は言う。
わかってるよ、そんなの、言われなくたって。だから出来の悪い頭に必死こいていろんなことを詰め込んで少し背伸びした高校になんとか逃げてきたんじゃないか。俺のことを知ってる奴がいない所なら少し気が楽になるんじゃないかって思ってそうしたんじゃないか。友達が一人もできなくたってって、そう思ったんじゃないか。初めから自然体でいればって、そう思ったんじゃないか。
でも、入学式の日、同じ教室で川田を見つけて、少し嬉しくなってしまった。その緩んだ表情を、ほんの数秒だけど、本人にみられてしまったのが良くなかったかもしれない。あるいは、そこでそのまま素直になれていたなら……。
あれから二ヶ月半、結局、中学生の頃から変わったのは川田に対する態度だけだった。それが一番だめだって、わかっていてもどうにもできなかった。たった一言でいいんだ。自分の好意を伝えるだけで、どう転んだって少しは楽になれるんだ。わかってる、でもそれができないから、俺は根暗なんだ、そんなこと、よくわかってる。思春期なんてみっともないだけだ。
やるなら今日だ。どうせ川田はお昼一緒にどう?なんて誘ってくる。いつもならさっさと中庭に逃げるけれど、今日は。雨空にあじさいがよく映えている今日しかないんだ。そのつもりだ。
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