第38話

 かくして俺とフェルナは恋人同士となり、それが俺の妄想通りという事もあって最初は悩んだが、彼女の今の気持ちを信じているという言葉を俺も信じてみようと思った。よく考えれば前の世界でも好きだったんだから悩む必要はないんだけどね。


 あの後ふたりで山を降りながら薬草を採取すると畑の肥料やカリスさんに持っていく回復薬を作りながら昔に戻ったみたいなたわいのない会話を楽しんでいた。それはこの世界のセイナとフェルナという仮の姿じゃなく、晴彦と美沙という本来の姿だった。


 でも、この世界で俺が生まれたのも事実で、それを否定するつもりはない。この世界では俺はセイナであり、美沙はフェルナなのだ。だからふたりの時だけは晴彦と美沙でいようと彼女と約束した。


「む〜」


 なんだか美沙の様子がおかしい……


 口をぷくっと膨らまして俺を睨むように見ているが俺には可愛いとしか思えない。これが恋人補正か?


「もう、何で女になるかなー 私達女同士だから人前でいちゃつけないのが嫌だわ」


 フェルナは不満の原因を自ら説明してくれた。


「ああ……こんな事になるなら変な妄想しなきゃよかったよ……あれって確か一番最初にした妄想でさ」


 もしも男だったら今よりも嬉しかったに違いない。


「ねえ、いつまで経っても結婚しなかったら親が心配するかな?」


 フェルナの言葉が更に追い打ちをかける。


「この世界って結婚が早いからね……」


 項垂れる俺の耳に美沙の声で「そうだ!」と言い、何かを閃いたのか、パン! と手を叩いた音が聞こえた。


「あんまりうるさかったらふたりで何処か遠くで暮そうよ!」


 それはいいかもしれない。何の気兼ねもなく暮らせたらどんなに楽で楽しいだろうか。想像するだけでニヤけてしまいそうだ。


「まあ、その時になったらね。まだ14歳なんだから今を楽しもうよ」


「でも、よく考えたら私達って前の世界と年を足したら28歳になるんだよね〜 なのに全然変わらないのが不思議」


「まあ赤ちゃんからやり直しって意味では同じような道を歩いてるようなものだからね」


「それにしては波瀾万丈な人生だったけどね」


「美沙の方は大変だったよね……もしかしたら運命的な出会いって妄想が原因かも……ごめん」


「ほらまたすぐ謝る! あんたの悪い癖よ、私は全然気にしてないからね」


 ルンルン気分で再び作業に戻るフェルナが微笑ましく、ふたりだから作業も捗る。


「あ、そうだ! 紹介したい人がいるんだった!」


 俺は紹介しなければいけない人(?)を思い出した。


「え? 誰?」


 ポカンとするフェルナをよそに俺はアークリーを呼び出す事にした。


「アークリー!」


(おお! 久しぶりに呼びおったな? 随分寝ていた気がするぞ?)


 マズイと思った。何かアークリーの事を便利な道具のように扱っている自分を反省して考えを改めようと思った。今まで散々お世話になっていたし、まだお孫さんにも会わせていない。


「ごめんね。今度から毎日呼ぶからさ」


(まあ反省しとるようじゃから許すとしよう。その代わり前の世界の話を沢山するんじゃぞ?)


「分かったよ。ほんとごめんねアークリー」


「ねえ……誰と話してるの?」


 俺が独り言を言っている姿にフェルナは少し不審な人を見る目で俺を見ている。


「えっと……話すと長くなるんだけど」


 俺はアークリーとの出会いから話すと今までどれだけ助けられたかを熱心に説明した。


「……というわけでアークリーのおかげで沢山の知識を教えてもらっていたんだ」


「なるほどね。あんたが何であんなに薬の知識があったのか凄く気になっていたのよね。もしかしてそれも妄想してたの?」


「うん。細かく言えば世界の事を何でも分かるような能力があったらいいなって」


「何そのメチャクチャな能力は……他にはどんな妄想をしてたのよ!」


「え? どんなって……空飛んだり、自然の力を操ったり、バリアを展開したり、怪我がすぐ治ったり?」


「な、な、何なのそれ! それ全部出来んの⁉︎」


「うん……まあね」


「あんた世界でも救いに行くつもり?」


「やだなぁ〜 年頃の男の子はヒーローに憧れるだろ?」


「それにしてもやり過ぎよ……それを叶えた誰かさんもだけど」


「ほんと誰なんだろうね? 俺達を呼んだ人って」


「私は会えたらお礼を言いたいかな」


「うん、俺も」


「ねえ、そのあんたの中にいるアークリーって人は私の言葉が聞こえるの?」


「うん、俺の見ているものとか全部ね」


「アークリーさん宜しくね」


(そうか、このおなごもお主と同じ世界から来たのか……これはいい話が聞けそうじゃな!)


 アークリーは嬉しそうに話すと宜しくと言っといてくれと俺に頼んできた。


「アークリーが宜しくだって。もし何か分からない事があったらアークリーに訊くといいよ。今まで俺が訊いたことで知らないって言った事が無いんだ」


「それは心強いわね。私この世界の事をもっと知りたいの」


 アークリーはそれを快く引き受けると代わりに前の世界の事を教えて欲しいと言ってきた。それをフェルナに伝えるとフェルナは喜んで頷いた。


「アークリーを少しの間でもいいから外に出してあげられたらな〜」


 それは俺の体から出ていってくれということではなく、幻影でもいいからそれで他の人と話せたらフェルナも話しやすいと思ったのだ。


(うーむ。そうできるならわしも助かるのう……ふむ……)


 しばらく沈黙が流れる。


「ん? 何か方法があるの?」


 返事が返ってこない。


(そうじゃ! あれを試してみるか!)


 何かが閃いたようだ。

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難病からあの世に旅立ったと思ったら妄想していたチート設定で生まれ変わったので、たとえ性別が違っても異世界で幸せに暮らします 尚太郎 @sz9999g

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