第37話
俺の言葉に相当驚いている様子の彼女はゆっくりとスローモーションのように目を大きく見開きながら俺の方に向いた。
「あんたまさか……」
彼女もまた日本語で答える。俺が誰なのか分かったような口ぶりで、もしかしたら前から何かを感じていたのかもしれない。
「晴彦……君?」
やはり彼女は分かっていた。それが何故かは分からないけど俺が頷くと彼女は「どうして……」と言ってただ黙って俺を見ていた。
「本当にごめん……俺のせいなんだ……君がここに来たのは……」
「訳を説明して……」
俺は彼女に話した。俺が死んだ時何故かこの世界に赤ちゃんとして誕生した事、病院で妄想していた事が現実となっていた事を……そして彼女と来世で再会することを妄想してしまったという事もだ。
「だから謝ってるのね……」
「俺が変な妄想をしてなかったら手術は成功していたかもしれないんだ……頑張ってなんて言っておきながら来世で会う妄想をするなんて最低だよね……」
俺は彼女の顔を見れなかった。全てを話した今、彼女は何を思っているのだろうか。
「でも、それを先に言ったのは私よ? だからあんたがそこまで謝る必要はないわ」
「だけど……」
「私ね……この世界に来てから考えてたの。あの時手術が成功してたらどうなってたんだろう……この世界の私とどっちが幸せなんだろうってね。でも、よく考えたら手術が成功したとしてもすぐに退院して元気に学校に通うなんてできるはずがないんだって思った。いつものように病院で過ごす日々が続くんだろうなって……」
俺は彼女を見る。そして目が合うと彼女は微笑んだ。
「だから今はここに来て良かったって思ってるわ。それをあんたが妄想だとしても願ってくれていたんだとしたら逆にお礼を言いたいくらいよ。健康な身体で人生をやり直せたんだから」
「……そう言ってくれると助かるよ。君をこの世界に呼んだからにはちゃんと責任は取るから」
彼女の言葉に救われた俺はこれからは彼女をこの世界に呼んだ責任を取るという使命感が湧き上がった。
「ふふ、別にそこまで思いつめなくてもいいわよ。それより……」
彼女は少し微笑むと俺に詰め寄るように近寄ってきて俺の顔をマジマジと見てきた。
「なんで女の子になって生まれてんのよ? しかもメチャクチャ可愛いしちょっと不公平じゃない?」
俺が女になっている事が気になっているようだった。
「実は今回は男だったから来世は女がいいなって妄想していたんだ。でも、それはあくまで来世の話で記憶がない前提だよ」
「そうなんだ! それはしくったわね!」
にひひと笑う彼女の顔はミサの顔に見えた。
「はは、そうだね」
「にしても本当に奇跡ってあんのね〜」
「俺もまさかこんな事になるなんて思ってなかったよ」
俺達はあの時に戻ったような会話をしている。それに口調もあの時に戻っていた。
「ねえ……訊いてもいい?」
何か彼女の顔が少し赤く見えるのは気のせいだろうか……
「何?」
「あのさ……私と来世で会うって妄想したって言ったじゃない……?」
「うん」
「それってどうゆう出会いなの? ただ出会うんじゃなくて妄想してんだから何かストーリーがあるんでしょ?」
「え⁉︎ い、いや……」
いきなりきた答え辛い質問で動揺する俺を問い詰めるように彼女は探るような目で迫ってきた。
「ねえ教えてよ。私達はどういう出会いをするの?」
「言いたくないんだけど……」
「ふん! 教えてくれなかったらもう口を聞いてあげないから!」
意地悪そうな顔に俺は顔を真っ赤にしながら白状した。
「……来世ではふたりが……こ、恋人になって……幸せに暮らしていくんだ」
それを聞いた彼女は自分から訊いてきたくせに顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
「そ、それって私のことが好きだったってこと?」
恥ずかしそうに顔を手で隠しながら彼女が小さい声で訊いてきた。
「あの時は君と話すのが凄く楽しくて一緒にいるのが心地良かったから多分好きだったと思う……だからそういう妄想をしちゃったんだ」
俺は恥ずかしさが頂点に達していた。これはもはや彼女に告白をしているようなものだ。
「ふ、ふーん! そうなんだ! 私の事が好きなんだ!」
彼女は恥ずかしながらも嬉しそうに頷いている。俺は恥ずかしさに耐えられずに下を向いていた。
「じゃあ今の私は?」
「え……それってこの世界の君って事?」
「そうよ。今は顔も違うしどうなのかなって……」
「す、好きだよ……一緒にいて楽しいし。でも今考えると妄想がそうさせているのかなとか思っちゃって……少し揺らいでるけど」
また告白してしまった……俺って度胸あるなと自分を褒めてあげたい気分だ。
「……あんたが正直に言ってくれたから私も言うわ。あんたが病院で意識を失ったって聞いた時凄く悲しくて辛かった……もう話せない、もう笑い合えないと思ったら泣いちゃった……そう思った時私はあんたが好きだって気付いたの……」
彼女からの告白に心が熱くなった。まさかあの時彼女がそんなにも俺の事をと思うと嬉しかった。
「あんたの妄想で今私があんたを好きになっているとしても前の世界で好きだったんだし、もうそんなのどうでもいい。今の気持ちは本当だと信じてるから」
彼女はハッキリと心の内を打ち明けてくれたのだ。
「俺も……今の君も好きだ。体は女でもそれは変わらないよ」
俺も今の自分が感じている事を素直に伝えた。
「ふふ、これであんたの妄想通りふたりは恋人同士になったわね」
「そうだとしても妄想イコール願望だから叶って俺は嬉しいよ」
初めての彼女ができたことで俺は今最高に幸せな気分だ。
「これからふたりの時はこんな感じで話せたらいいわね」
「うん、そうしよう。それに色々話したい事もあるから」
アークリーのこととかね。
「そうそう! あんたには聞きたい事が沢山あるんだから! ちゃんと話してよね!」
俺は分かったよと返事をすると立ち上がった。
「じゃあ行こうか。明日帰る予定だから今日のうちに作っておきたいものがあるんだ」
俺はまだ座っている彼女に手を差し出した。
「うん……」
なんだろう……彼女が何か恥ずかしそうにモジモジしているぞ?
「ねえ……して」
「え? 何?」
「だからぁ〜 キスしてっていってんの!」
「えー‼︎」
いきなりハードルの高い要求に思わず大きな声を出してしまった。
「好きな証拠をみせてよ……」
今まで彼女がいなかった俺からしたらどうしたらいいか分からず、すぐに体が動かなかった。
「そういうのは良い雰囲気でしたほうが……」
「ダメ、今して」
逃げ場はなさそうだと俺は腹を括る事にした。
「じゃあするね……」
彼女の両手を握ると温かくてすぐ近くに見る綺麗な顔にドキドキと胸が高鳴った。
「ん……」
彼女が目を閉じた時俺は彼女の薄い唇に吸い込まれるように口を合わせた。
「キスは初めて?」
キスをした後彼女から言われた言葉に俺は頷いて答えた。
「私は2回目よ」
「そうなんだ……」
少しモヤっとする。一人目がいたのかと高揚感が落ちていくとその様子を見ていた彼女が笑った。
「1回目もあんたよ。知らないと思うけど」
「何それ?」
「あんたが意識のなかった時にね。しちゃった」
彼女の笑う顔が愛おしく抱きしめたい。まさかそんな事があったなんて知らなかった。
「全く……もう」
俺は愛おしい彼女を抱きしめると囁いた。
「この世界に来てくれてありがとう……絶対に幸せにするからね」
「うん……」
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