異世界知事 第5話

 瀕死の頭目は、防衛隊でもっとも活躍していたエレノアに向けて猛毒付きのナイフを投げた。



 初めての対人相手の防衛戦での勝利でみなが油断していたとき、サイトウだけは気を抜いておらず、死んだと思っていた頭目の動きに気がついた。



「エレノア、危ない!!」



 エレノアをかばうサイトウの背中にナイフが刺さった。



「グフッ……」



「え、うそ、おじさぁぁぁぁぁぁん!!」



 状況を理解したエレノアの絶叫。

 すぐさま頭目はとどめを刺され、治癒魔法が使える者が即座にサイトウを治しにかかった。



◇◇◇



「サイトウおじさん、なんでこんなことに……!」



 泣き叫ぶエレノア。

 シスターライラも悲痛な顔をしている。

 彼女は猛毒が回りきってもうどうしようもないサイトウの状況を理解していた。



「俺は知事だぞ……。恩人を守るくらい、できなくてどうする」



「いやあぁぁぁぁぁぁ!! 死なないでぇ!!」



「エレノア、最期に一つだけ、聞いて欲しい」



「いやだ、最期なんて言わないで、何でもいうことを、いくらでも聞いてあげるからぁぁ……!」



「私の手を、握ってくれ」



 エレノアは泣きながらサイトウの手を握った。

 サイトウから光が発せられ、その光はエレノアに吸収されていった。



「サイトウおじさん、これは……?」



「【知事】スキル最後の技、『引継ぎ』だ。これから後のホンニー村を、頼むぞ……」



 エレノアの絶叫が響き渡る。

 防衛戦勝利の余韻に浸る者はいなかった。



◇◇◇



 その後、ホンニー村は【知事】を引き継いだエレノアによりますます発展した。

 街になり、都市になり、国になった。

 名前をサイトウ国に変え、以後この国トップは王ではなく常に知事を名乗り続けることになる。



◇◇◇



「ここは……?」



 西藤は目を覚ました。

 白い天井に、清潔な部屋。

 柔らかい布団。



 なんだったのだ。アレは、夢だったのか。



「気がついたのね、あなた」



 妻が私の顔を覗き込んだ。



「覚えてる? あなたは逆恨みした元職員に刺されて死にそうだったのよ。三日も生死の境をさまよっていたの」



 妻を見る。

 グラビアアイドルの妻。

 彼女の適性は、人を惹きつけること。

 適正と職業があっている。

 幸運な女性なんだな、と思った。



「あなたを刺した男は捕まったわよ」



「……そうか。そんなことよりこれからのことだな。体が治ったら一から下積みだ。支持者の方々にも謝らなければならない」



「そうね。私もつきあうわ」



「ありがとう」



◇◇◇



 西藤は国会議員の秘書からやり直した。

 彼のアドバイスを素直に聞いた者はなぜか仕事が全てうまくいった。

 


 みなは彼が別人になったようだと評する。



 相変わらずSNSでは過去の行状について掘り起こされるも、西藤はそれも受け入れ支持者とともに前に進んでいく。



 そうして四年後、彼は90%の投票率のなかで99%の得票率を記録し、圧倒的な支持を得て再び知事に返り咲いたのであった。



◇◇◇◇◇◇


 終わりです。お読みいただきありがとうございます。

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異世界知事 気まぐれ @kimagureru

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