異世界知事 第4話

「サイトウおじさん、もう一年になるんだね」



「そうだな、エレノア」



 痩せこけていたエレノアは、今では肌がツヤツヤしている。

 背が伸びたわけではないが、体が丸みを帯びてきて体が年齢に追いついてきつつある。

 私はそれを微笑ましい目でみていた。



「おじさんがここに来る前は、どこにいたの?」



「遠い国だ。おそらく帰ることはできない」



「……そうなんだ。奥さんとかいたの?」



「どうだっただろう。いたような気もするが、もうわからんな」



「おじさん……」



「ありがとうエレノア。君に助けてもらってから何が大事なのかわかってきた気がするよ」



「あのね、おじさん。私サイトウおじさんのことが……」



 そこで、けたたましい鐘の音が響いてきた。

 これは、緊急事態が起きたときのためにあらかじめ決めていたパターンの音だ。



◇◇◇



「何があったんだ?」



 斥候の適性を持つ者に聞く。



「遠くに盗賊団が見えたんだ、知事。あれは王様でさえ手を焼いている凶悪なコミュート団だ。なんだってこんな辺境に……」



 目をつけられたか。

 確かにこの村は発展してきてはいるが……。



「土魔法の適性がある者は、村の周りの地面を思いっきり柔らかくするんだ。馬が転べば乗ってる奴らもただでは済まない。それが終わったらできるだけ外壁を作れ。時間がないぞ」



 今までの外敵対策といえば、そこまで強くもない魔物相手だった。

 集団で襲ってくることもないから、こんなことは予想していなかった。

 私が現役の知事だったらもっと備えをしていただろうに、いろいろと鈍っているな。



◇◇◇



 コミュート団は、王都から追われていた。

 本気を出した王国が大規模な掃討作戦を実行し、コミュート団は半壊させられて逃走していた。



 命からがら逃げた者たちは辺境に逃げ込み再起を図ることにした。

 王都ではまだあまり知られていないが、最近裕福になってきているホンニー村というところがあるらしい。

 一団はそこへ向かっていた。

 村を乗っ取ってやろう。



◇◇◇



「来たぞ。迎え撃て。この村を好きにはさせない」



 サイトウの指示に皆が緊張する。



 盗賊団は村の少し手前で陣形が崩れる。

 サイトウの目論見どおり柔らかくなった地面で馬は足が沈み次々と転倒していく。

 徒歩でのこのこやってくるやつらは、狩人の適性がある者たちで狙撃だ。



 最も適性があるエレノアを中心に弓矢で狙い数を減らす。

 急ごしらえの外壁の前では、剣や槍の得意な者が待ち構えて、矢の嵐をくぐり抜けて疲弊している盗賊たちを討ち取っていく。



 やがて、盗賊団はほぼ壊滅した。

 こちらの被害は多少あったが、死者はいない。

 けが人は癒しの適性を持つ者たちが治している。



「ばかな、栄光あるコミュート団が、こんな辺境で! おのれ、せめてあの小娘だけでも! 死ねえぇぇぇ!」



 瀕死の頭目は、防衛隊でもっとも活躍していたエレノアに向けて猛毒付きのナイフを投げた。



「エレノア、危ない!!」



◇◇◇◇◇◇

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