第12話 対空
アクトは視聴者とのやり取りを終え、一息つくと次の試合のマッチングを開始した。
「次の相手はどんなプレイヤーか……楽しみだな」
マッチングが完了し、画面に次の対戦相手の姿が映し出される。相手は「鋼の天使 ヴァルキュリア」。機械の翼を持ち、空中戦を得意とする彼女は、術式と精霊魔法を駆使して戦場を支配する技巧派のキャラクターだ。
『バトルスタート!』
開始の合図と共に、ヴァルキュリアは軽やかな動きで距離を詰めてきた。その軌道は直線的ではなく、左右に揺れながら迫るため、単純な迎撃では対応が難しい。彼女の槍が鋭く輝き、攻撃態勢に入るのが見て取れた。
アクトは剣を構え、慎重に彼女の動きを見極める。ヴァルキュリアが斬り込んでくると同時に、アクトは【鋼】の術式を発動。剣が重量を増し、ヴァルキュリアの鋭い一撃を受け止めた。
「ほう……力強いな」
しかし、予想外に重い一撃にアクトは驚きを覚える。なんとか押し返すも、ヴァルキュリアは翼を広げて素早く距離を取ってしまう。
間合いが広がると、ヴァルキュリアの背後から眩い閃光が迸り、アクトの視界を覆う。アクトは目を細めながらも、彼女の動きを視線と体の動きから推測し、即座に後方へ回避した。
「くっ……精霊か」
光の
(なるほど、【鋼】の術式を使っていたのに攻撃が重かったのはそのせいか)
ヴァルキュリアはアクトが回避したのを確認すると、追撃を仕掛けてきた。リーチの長い槍を振るい、さらに精霊のサポートで攻撃の圧を増してくる。アクトは【風】の術式を発動して機動力を上げ、間合いを詰めて反撃を試みるも、ヴァルキュリアはスキル「メタルフェザー」を発動して空中へと舞い上がる。
空中戦に持ち込まれたアクトは鋼鉄の羽が次々と飛んでくるのを剣で弾き返したものの、連続する攻撃に徐々に押され始めた。スキルの効果が切れ、ヴァルキュリアが地上に降りても、状況は変わらない。光の精霊のサポートを受けたヴァルキュリアは槍の長いリーチを活かして的確に攻撃を続け、アクトが距離を詰めると、再びメタルフェザーで間合いを取り直す。
(距離を取られるたびに体力を削られていく……このままでは厳しいな)
体力ゲージの差が徐々に開いていくが、アクトは焦ることなくヴァルキュリアを観察し続けた。自覚した自身の「武器」を使い、視線、動き、スキルを使うタイミング……相手の癖を探るため、集中を切らさない。
:これは厳しいか
:相手の距離感の取り方が上手すぎる
:認定戦初の黒星かな……
:(このコメントは消去されました)
:相手上手いな
:おい、何コメントしたんだw
:空飛ぶとかチ◯トだろって書いたら消された
:チ一トは消すように設定してるんだ
:すり抜けるなw
コメント欄も、一部を除き差の開いた体力ゲージを見て敗戦ムードが漂い始めていた。しかし、アクトの目は相手から決して逸れない。その視線には一切の焦りも戸惑いもなく、ただ冷静さだけが宿っていた。
(そうか……これだ)
その瞬間、アクトの表情にわずかな変化が現れた。
幾度目かのヴァルキュリアのメタルフェザーによって、アクトの体力ゲージがゼロとなる。ヴァルキュリアの羽が最後の一撃を放ち、アンチマギアのアバターが光の粒となって散った。
しかし、フィールドから消えるその瞬間、アクトは確信に満ちた声で呟いた。
「見切ったぞ、ヴァルキュリア」
散るアバターを見送るかのように、ヴァルキュリアのキャラクターが画面中央に立ち尽くしていた。視聴者もその言葉に驚き、コメント欄は再び活気を取り戻し始める。
:えっ、何を見切ったの?
:おい、お前らが漢数字で盛り上がってる間にラウンド落としたぞ
:何か癖を見つけたっぽいな
アクトは深呼吸しながら復活したアバターで戦場に戻ると、次のラウンドに向けて静かに集中を高める。その目には、勝利への強い意志が宿っていた。
バトルロール・アクター ああく不意 @ark_hui
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