第11話 アクトの武器
両者の必殺技の撃ち合いに観戦していた視聴者たちは画面にくぎ付けとなり、コメント欄には興奮の声が次々と流れ込む。
:よく読んだな
:反応すご
:わっか
アクトは深呼吸して体勢を立て直した。必殺技を使用した事で、マギアゲージが尽き、スペルブレイクを使わずに戦うしかない状況だ。
だが、それは相手も同じ事。更にロキはこれまでの魔法の連続使用で魔力ゲージも尽きており、アンチマギアにとってはむしろ有利な条件だった。
アクトが選んだこのキャラクターは、近距離戦こそが最も得意とするところ。剣士としての本領を発揮できる状況が整ったことに気づき、アクトはわずかに口元を引き締めた。
「次は、俺の番だ」
スキル、魔法、必殺技の全てを封じられたロキは持ち前の技術で戦うしかない。
(やっぱりこのプレイヤー、近接戦闘が得意じゃないな)
わずかな剣戟で、アクトは相手プレイヤーが近接戦闘を得意としていないことを見抜いていた。これまでのキャスリングシャドウからの奇襲や遠距離魔法の連打からも予想はしていたが、その予想が的中した形だ。だからといって、手を抜くアクトでは無い。この有利を活かすべく、攻撃の手を緩めず、更に術式魔法を使用して着実にロキのHPを削っていく。
やがて、ロキのHPがつき、フィールドに「勝利」の文字が浮かび上がったことで、試合はアクトの勝利に終わった。
アクトは剣を収め、静かに深呼吸をした。視聴者の反応を確認しながら、待機部屋へと戻る。
:GG
:ナイス
:三連勝だ!
「うん、GGでした。ちょっと一度休憩を挟みますね」
三戦連続でやった事で疲労が溜まったアクトはマッチングを開始せずにしばらくコメントに目をむけていた。そこで気になるコメントが目にとまった。
:どうやってロキの必殺技読んだんですか?
:あの奇襲、タイミング完璧だったけど
視聴者からの質問は、アクトのロキのシャドウアサルトへの反応に対するものだった。アクトは、さりげなく「大したことじゃない」と答える。
「ロキの視線を読んだんだよ。キャスリングの時は俺の後ろを見てるから、俺を見ながら影に潜ったらアサルトの方が来るかなって。もしかすると、今のプレイヤーの癖かもしれないけど、人読みってやつかな」
アクトが視線について語ると、コメント欄が再び盛り上がり始めた。
:えっなにそれ
:達人の域で草
:視線て、、、
:凄すぎて引くわ
アクトは視聴者の称賛に少し照れつつも、内心では喜びと驚きで満たされていた。それは、誰かに見られることを意識する中で自然と身についた技術であり、いわば役者としての一面が称賛された喜びと、その技術が特異なものだと改めて気づいた驚きであった。
(そうか、この技術は誰にでも出来る事じゃ無いのか)
:視線を読めば全部避けられるって事?
:そんな万能じゃ無いだろ
:あくまでスキルやウルトの使用を読めるってだけだろ。いや、十分強いわ
視聴者の熱気が伝わってくる中、アクトは心の中で強く拳を握りしめていた。
それはなんとなく行なっていた視線を読むという行動が、確かな「技術」として、ただの感覚ではなく、確かな「武器」として昇華した瞬間であった。
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