第18話 会長

 ゾンビによる包囲網は完成した。殲滅戦ならあとは待つだけだ。だけどここからが作戦の本番なのだ。


「煙で熊の巣を燻せば、必ず熊は穴から出てくる」


 俺たちは市役所の入り口のちょうど反対側に回り込みビルの影に隠れていた。


「あら。出てきましたわね」


 黒い和服を着たスキンヘッドのおっさんと、その護衛とみられるヤクザ数名が、二階からゾンビの少ないところに飛び降りてきた。そのままゾンビたちを撃ち殺してバリケードの入り口を内側から開けて、外へと出てきた。彼らは港の方へと走っていく。だけどそうは問屋が卸さない。


「狙え。撃て」


 俺は先輩とコンセプシオンにそう指示して自分もMP7を発砲する。それらの銃弾は黒い和服の会長と派手なスーツの男を残して全員倒れた。


「動くな!動いたら殺す」


 俺たちはヤクザたちの前に姿を現す。銃を向けて慎重に近づく。


「五百旗頭。パソコンがあるぞ。あれを確保すれば」


「ああ。あれさえあればヤクザどものサーバーにリモート接続できる」


 先輩は斃れているヤクザの傍からノートpcを拾い上げてリックに仕舞う。作戦目標である子供たちを脅迫している動画の削除はこれで達成できる。


「お前たちがこの騒ぎの犯人か。驚いたぞ。まだ子供じゃないか。大したもんだ。がははは」


 黒い和服を着たスキンヘッドのおっさんは豪快に笑う。銃を向けられているのに、手も上げない。それは隣にいる派手なスーツのヤクザも同じだった。


「名はなんという?ん?気に入ったぞ若造。直接盃を交わしてもいいぞ。お主ならいい極道になれる」


「去勢を張るなヤクザめ。お前はもう逃げられない。大人しく投降しろ」


「いい目だ小僧。お前戦争に慣れているな。この時代に相応しい修羅だ。どうだ?俺の後継者になって組を率いる気はないか?」


 ヤクザのおっさんは笑みを浮かべている。話が通じない。こいつ本気で言っている。この状況をどうにかできる自信があるようだ。俺は逡巡した。このまま撃っていいのか悩む。隠し持っている何かを見定めるまではまずいと勘が囁いている。


「会長。こんなやつらに構う必要なんてありゃしません。あっしにお任せを」


 そう言って派手なスーツのヤクザが刀を抜いて、会長を庇うように立った。


「極道の極意はチャカじゃね。熱いドスにやどるんさ」


 派手なスーツの男はその場で派手に剣を振り回し始める。それは見事な剣舞だった。なるほどこれほどの腕ならば銃を持った相手でもCQBで戦える可能性がある。


「五百旗頭。あいつ手練れだ。もしかしたら私よりも剣の腕は上かも知れない」


 先輩は腰の刀に手をつけていつでも抜刀できる準備を整えている。先輩すら恐れる腕前。これは苦戦必至か。


「くくく。遊びはここまでだ餓鬼ども。ほんもんの極道の怖さをその身に刻……っぐぅ」


 俺の隣からサイレンサーごしの発砲音が聞こえた。コンセプシオンがグロックを抜いて派手なスーツの男の頭を撃った。


「他愛ないですわね」


 派手なスーツの男は頭から血を流して絶命した。


「ええ?!今のって戦う場面じゃね?!撃っちゃったの?!お前撃っちゃったの?!」


「だってめんどくさいんですもの。つらつらと口上述べられても面白くもありませんし」


 コンセプシオンには男の美学は通じないらしい。先輩もしらーとした目でコンセプシオンを見ている。


「ああ。まあいいや。おっさん。もうあんただけだ。投降しろ。あんたが会長さんなんだろ?」


 生け捕りにすれば交渉材料になると思う。それを狙ってのことだったが。


「ふん。男なら自分で捕まえてみせろ」


 会長はちっとも動じてない。部下も一人も残されていないのに、ちっとも動揺が見られない。なにか勘が囁く。生け捕りは難しそうな気がする。


「全員発砲!フルオート!」


 俺たちはいっせいにMP7を会長に向かってフルオートで撃った。これで会長は死ぬ。そう思った。だが。


「ぬるいのう。かゆくて仕方ない!憤!」


 俺たちがマガジンの弾を前段撃ち尽くしても会長はまだ立っていた。服はボロボロになっていたが、傷一つ見られない。


「一張羅が台無しだ。よき。じつにいい。最近はゾンビ共ばかりで力が使えんかったが、お主らにはちょうど良い」


 会長はボロボロの服を自分の手で剝いで行く。そして褌一丁になった俱利伽羅紋々が全身を覆っている。だがそれ以上に見事なまでに鍛え上げられた肉体だった。


「筋肉鍛えたって銃弾は止められねぇよ。あんた何やったんだ?」


「儂は日々鍛錬を繰り返し繰り返し道を究めるに至った。真の極道。それはチャカもドスも受け付けない鋼の肉体を与えてくれる」


「気功だ!五百旗頭!あれは気功だ!だがこのレベルは初めて見た!あれでは銃も刀も通らない!」


 気功。聞いたことはあるがやっぱり実在してたか。やっかいだ。まさかここで異能者との戦闘になるとは。


「悔しいがゾンビ相手には通じんが、お主ら相手には十分だろう。かかってこい小僧ども。この豪狼会会長、百鬼ひゃっき天久あまひさが極道の真の力を見せてやろう」


 百鬼は構える。その姿には一部の隙もない。一瞬にして形勢は混沌へと突入した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゾンビだらけのアポカリプスな世界になったけど、頑張って生き延びようと思います! 万和彁了 @muteki_succubus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ