半端者 エピソード5
羨ましかったんだ。俺は。
ロクザンという存在が。
いつも、心にはどこか羨望の渦があった。それは今もきっと変わってない。
でも羨ましいだけで、なりたいわけじゃない。
都合よく言えば、今の姿のまま魔法が使えるようになったらな、なんて。
まぁヴォイドになったおかげで、ロクザンの使う聖なる魔法と反対の、『呪いの力』
なんてのを使えるようにはなったわけだけど。
「さ、遊びはこの辺で。そろそろ行きますよ」
「はーい」
「えー!!もういくのー!?」
「しょうがないよギビヤ。ボクたちはいつまでこっちの世界にいられる分かんないんだから。遊ぶのも楽しいけど、ウェルトたちに加勢してあげないと」
「ベルトはアソんでないのー?」
「ギビヤ、何回も言ってるでしょ。ベルトじゃないよ、ウェルトね」
「ウェルさんはー…遊んでないんじゃない?騎士団に喧嘩ふっかけてボコボコにされてそう」
「ありそう。それならボクたちだけでもこの世界を壊してやらないと」
「そうだねー!!!コワすのもタノしいし、まぁいっかー!!!」
「そうですねぇ」
この双子は普通に物騒なことを言う。
壊してやる、壊すのが楽しい、それはヴォイドとしては一般的な考えだけど…。
前に言われた言葉が突っかかる。
『ボクたちはロクザンの味方でもヴォイドの味方でもない。リゼンの味方だ』と。
たぶん二人は、ヴォイドだから壊してやる、とかじゃなくて、俺が壊すから自分たちも、って考えなんだと思う。
俺が壊すのをやめれば二人も壊さないだろうし、俺がロクザンの味方をすれば二人もそうするだろう。
俺に絶大な信頼を置くのは、俺のことを命の恩人だとでも思ってるからなんだろうか。
「ねーリゼン。ツギこっちにこれるのいつー?あとモドされるまでどれくらいー?」
「さぁ。それは俺にも分かんないですよ」
何百年もの間、人間を攫ってはロクザンへ変える実験は繰り返されて、その度に失敗して、世の中にはたくさんのヴォイドが生まれた。
人間やロクザンに恨みを持つヴォイドが量産されたおかげで紛争や事件が絶えず、やがて俺たちはもう一つの世界…『ユメ』に閉じ込められることになった。
まぁこの世界の奴らがカケラを生み出してくれるおかげで数十年に一度、世界の境界線が曖昧になるために、俺たちはこっちの世界に来れるんだけど。
こっちにいられる時間はその時代の相手の強さによるからなんとも言えない。
主に俺たちに戦いをふっかけてくるのは騎士団の連中だ。今回、騎士団が強ければそう長くはいられないだろうけど、騎士団が弱ければ俺たちは人間どもを狂わせて襲い合わせて、世界を好き放題壊せる。それだけ長くいられる。
「一回ウェルトたちを探そう。壊すのは合流してからにしようよ」
「そうだね。ウェルさんたちに会ってからにしましょーか」
「ベルトみつけたらさっきツクったスナのおしろみせたい!ジマンするー!」
「いいね。自慢してやろう」
「はは、じゃあ騎士さんたちが降参するくらい、人間もロクザンも狂わせて壊した後ね」
「「はーい!!」」
俺たちの復讐はまだ続く。絶対に許さない連中だ。
派手にやってやろうか。でも、いくら世界を壊しても、この海だけは綺麗なままで…なんて。
俺たちは笑い合って、かつて三つの命が煌めいた海に背を向けた。
ローグ・スペラーレが叶うとき 緋川ミカゲ @akagawamikage
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