半端者 エピソード4
今から千年前。
この世界で初めてヴォイドが生まれた。
名はリゼンバート・アーデンハイム。俺のことだ。
イカれた研究者に見込まれて、初めての人体実験の被験者にさせられた。
なぜ俺が選ばれたのか。
それは、俺が人間からロクザンになったから。
……いや、人々にそう『見えた』からだ。
俺の母親は人間で、父親はロクザンだった。俺は人間とロクザンの混血として生まれた。
小さい頃はまだ耳も尖ってなくて、周りからも人間だと思われていた。
でも成長するにつれ、どんどん耳が尖っていって、俺を混血だと知らない連中は、人間がロクザンに変異したと考えた。
噂は広まって、もう俺一人じゃ正せないほどになった。
それを聞きつけた研究者が俺の元にやってきて、人間からロクザンになれるのか、仕組みを研究させろ、と言って無理やり俺を連れ去った。
でも俺は、ロクザンの血が流れているくせに魔法が使えなかった。
それを知った研究者はひどく笑って、君を完璧なロクザンにしてあげよう、なんてほざいて実験を開始した。
で、生み出されたのがこのヴォイドなんていう失敗作。
寿命が百年前後の人間、五百年のロクザン、三百年のヴォイド、全てが混ざり合ってこんがらがった結果、俺の命の長さは曖昧になった。
もう千年ほど生きているけれど、自分の命の終わりは感じられない。
「ボクたちがいなくなったら寂しいだろ、リゼン」
「ナいちゃうかもー!!」
「ボクたちが死んだ時、すぐに目覚めさせてくれるくらいだもんね」
クスッと笑う双子は、俺の本心を見透かすような瞳をしていた。
全く、子供というものは恐ろしい。
「別に。あれは双子さんが報われないと思ったからですよ」
「ウッソだぁー!!!!」
「嘘だね。あの時のリゼンの顔、見せてやりたいよ。酷く焦った表情だった」
「ちょっと…。ダサい昔話はやめてほしーんですけど」
「ていうか、それこそリゼンだってあるんじゃないの?ロクザンになりたいって願望」
「え?」
「タシかにー!!リゼン、ニンゲンとロクザンがマザッてるんだもんねー!!」
「いや、俺は…」
ロクザンの血。
確かに俺にはロクザンの血が流れてる。
でも…俺は魔法が使えなかった。
いくらロクザンと同じ見た目でも、魔法が使えなければ意味はない。
人間と同じように虐げられる日々の中を生きてきた。
人間だろうと混血だろうと、きっと全員が魔法を使えるならば、この世界は平等なはずだ。
魔法が全ての世界。ロクザンだから、人間だから。そういう意味での差別社会じゃない。
それは分かっていても…。
「いや…。はは、確かに」
何度この体を呪ったことだろう。
見た目はロクザンと変わらないのに、魔法が使えないだけで周りからの態度が変わる。
魔法が使えたら。
完璧なロクザンだったら。
きっと楽して、幸せで、楽しい人生だっただろう。
「でも俺、ロクザンになりたいって思ったことはないかなあ」
「へぇ。ないんだ」
「イガイー!!ナンデ?ナンデ?」
あんな、不思議の力一つで人の上に立った気になって威張り散らす奴らと同じになりたいなんて願ったことは一度もない。
それにきっと、俺がロクザンだったら、ちゃんと家があって、食べ物があって、寝る場所があって…そんな良い生活をしていただろう。
当然真夜中の海で双子さんと出会うことはない。
「…良い景色が良い出会いの全てじゃないと思うんで。俺は俺でよかったですよ」
「ふぅん」
「なにそれカッコイー!!」
そう、俺は俺のままでよかった。
ロクザンになんてなりたくもない。ギルスの言う通り、仲間になんて死んでもごめんだ。
ただ、ただ。
俺は…
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