第2話

私がその理髪店から家に帰ってみると、異常な空腹が私を襲った。私は耐えきれずキッチンの床に倒れ込んで、何か食べるものがないか探した。冷蔵庫には牛乳と納豆があったから、それら一リットルと三パックをことごとく平らげた。が、空腹はおさまらなかった。私は何かの拍子に大食漢になったのではないかと考えた。しかしこれでは食費が嵩んで、近い将来食費に困窮してしまう。私は重い腹と耐え難い空腹とによろめく足取りのまま、近くの内科病院へ向かった。私は理髪店で寝る間に何かされたのかと疑い始めた。

病院に着いて早速腹の様子を診てもらうと、医者は大変に仰天した。その医者の様子に不安の募る私は恐る恐るその話を聞いた。医者の曰く、私の腹には今、肺と心臓以外の内臓が無いという。私の胃は底なしなのではなく、単にそこに無かったのだ。そして私は医者に斯く問うた。その原因は何で、今後どのようにすれば治癒するのか、と。医者は暫し私の腹の表面を触診したのちにこう答えた。これは、誰かが知らぬ間に慎重に腹を切り開いて内臓を抜き出したようで、その証拠にこの腹には極めて細い切り傷が見える。そして、その残り傷は放っておけば治るが、中の内臓は二度と再生しないから、どうにか買うか取り戻すかして手に入れる必要があるというのだ。私には有り余るほどの金はないから、どうにかして取り戻すことに決めた。

もう犯人の見当はついている。あの散髪屋に違いない。確かにそこには鋏といった刃物が清潔に置かれていた。しかし動機は不明瞭である。そうして私はまたよろめく足で、店主を強いて問いただそうとその散髪屋に向かった。しかし件の建物の三階に上ってみると、その散髪屋はすでに鍵が下りていた。見ると、臨時休業と書かれた紙が窓に貼り付けられていたのだ。中にも人間はいないようである。

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散髪 @niwatori_chicken

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