影、満つる
第8話
「そうか、キミは敗けたんだね……」
暗闇の中でそう呟くのは一人の男性。温厚そうな顔立ちであり、虫一匹も殺せそうにない。
彼は顔の周りで飛び回る虫を一瞥し、口角を吊り上げた。
その瞬間、羽虫は見えない何かによって粉々に砕け散った。まるであらゆる方向から負荷をかけられ、圧し潰されたかのようだ。
誰かに語りかけるような口調で男性は言葉を紡いでいく。
「意外だったよ。キミほどの強者がいち風の精霊魔術師如きに敗けるなんて……手でも抜いてやったのかい?」
返事はない。当然だ、そこには男性の姿以外何もない。
人も、獣も、草も、虫も、
光を食い尽くす勢いで広がる闇。天と地の境界線すら曖昧な空間。圧倒的な暗闇、それだけがその場所には存在していた。
「それは有り得ないね。キミ程の負けず嫌いが手加減なんて愚かしい真似をする筈がない。となると……完全無欠に実力で敗けたのか」
男性はゆっくりと腰を屈め、地に掌をつける。目を伏せ、吐息を吐く様は何処か色気があった。
掌から伝わる大地の脈動。地面に落つる石飛礫一つ見逃さない精度によってそこに刻まれし記憶を読み取り、何があったのかを詳らかに読み解いていく。
人間の一生の記憶を幾つ抱えていても壊れることのない頭脳でもって彼は理解した。
「そうか、そういうことか……ふっ」
友のようなものでもあり、恋人のようでもあり、先輩のようでもあり、後輩のようなものであり、主人のようなものでもあり、対等な関係を築き上げていた存在でもある
そのあまりにも陳腐で単純な理由を。
「クックックッ、アハハハハハッ!
男性は興奮のあまり己が声を辺りへ響かせる。腹を抱え、笑い転げそうな勢いだった。周りには誰もおらず何もないが、空気が彼の声によって侵され、死に絶えていく。
毒々しく辺り一帯が染められていき、地上を舐め上げた。
黒さえも塗り潰すそれは、"毒舌"の異名に相応しい力だった。
「風鬼青嵐────現代唯一の風神との契約者」
男性はゾッとするほど美しい微笑みを湛え、舌舐めずりをする。長い舌が唇を割って飛び出す姿は毒蛇を彷彿とさせた。
「キミは私達の築き上げる楽園には邪魔だ」
彼は菩薩も認めるような満面の笑みで明確な敵意を風鬼青嵐へと定めた。
風の道標ー現代最強の精霊魔術師ー たれぞー @ptra
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