僕は皆がものまね大会をしている話をした。

「ハルキものまねなんてなんだか馬鹿みたいだわ。私、ものまねする準備なんて全然できてないのよ。変な気分。なんだか後から無理に押し出されちゃったみたいね」

「僕の方はまだ今まで読んできた経験があるからゆっくり準備するよ」

「いいわね。引き出しが多いなんて。皆の作品を読んでみたいわ、私。一度でいいから」

「駄目だよ。君、きっと吹きだすもの」

「本当に吹き出すと思う?」

「賭けてもいいね。僕も読み慣れているけど、時々おかしくて我慢できなくなるんだもの」

 ふと気がついたとき、彼女の話は既に終わっていた。正確に言えば、彼女の話は終わったわけではなかった。どこかでふっと消えてしまったのだ。何かが損われてしまったのだ。あるいはそれを損なったのは、僕かもしれなかった。

 彼女の目から涙がこぼれて頬をつたい、大きな音を立ててレコード・ジャケットの上に落ちた。最初の涙がこぼれてしまうと、後はもうとめどなかった。

『山羊座のプロ意識がすごい……』

 彼女は一瞬、何者かに体を乗っ取られたかのようだった。

 地獄の業火のような燃える目を僕に向け、老婆のしゃがれた声と地鳴りを合わせたような声でそう言った。