ある夏の夕暮れ

J・バウアー

 

 古い工場にはエアコンなんかなく、何台かのスポットクーラーがあるだけ。

 時折そこから流れ出る冷気で体を癒しながら、与えられた作業をこなす。

 最近ずっと残業続きで、終業後の帰宅途中にある定食屋で夕食を摂ったら、家でシャワーを浴び、週末にディスカウントストアで購入した缶ビールを1本あおって寝る生活。

 シーケンス論理で動く機械のようだ。

 だが、今日はなぜか仕事が少ないようで、珍しく定時で仕事が終わった。

 作業着を脱いで鞄にしまい、ふと外を見やると、いつもの夜空ではなく、夕焼けが広がっていた。

 まだ、一日が終わっていない。

「まだまだこれからだぞ」

 赤く染まってきた太陽が、無機質な心に囁きかけてきたような気がした。

 自然と足は、帰り道とは違う方向へと向いていた。真新しい世界が潤いを与えてくれることを夢見て。

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ある夏の夕暮れ J・バウアー @hamza_woodin

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