誤字脱字指摘マンジャスティス

武蔵野純平@蛮族転生!コミカライズ

第1話 誤字脱字を憎む者たち

 ある国では、誤字脱字指摘マンジャスティスが大統領になった。


 誤字脱字指摘マンジャスティスは、誤字脱字が許せない人物だった。

 すぐに大統領令を施行し、誤字脱字を行った者はその場で処刑することになった。


 処刑を執行するのは、誤字脱字指摘マンジャスティス親衛隊である。


 誤字脱字指摘マンジャスティス親衛隊は、新調した制服を着て街へ繰り出した。

 声をそろえて誤字脱字指摘マンジャスティス大統領を讃える。


「ジャスティス! ジャスティス!」


 到着したのは、ウェブ小説家の自宅である。

 中年男性のウェブ小説家は、驚き怯えた。


「な、なんですか!? あなたたちは!?」


 誤字脱字指摘マンジャスティス親衛隊、二十名は声をそろえてウェブ小説家を非難した。


「貴様は誤字脱字のある小説をインターネット上に流布した!」


「貴様! 学校で何を学んだ!」


「この低能のクズめ!」


 ウェブ小説家は、四方八方から非難され目に涙を浮かべた。


「待ってください! どこが誤字なんですか! ATOKも入れてるし、ワードで校閲をかけてます! アップしてから見直してますよ!」


「ここだ! ここは『話し』ではなく、『話』だ! 送り仮名が間違っている!」


「あ……本当だ……」


「こんな初歩的な誤りはあり得ない! 誤字脱字指摘マンジャスティス大統領の大統領令に従って貴様を処刑する!」


「そ、そんな! ちょっと間違えただけじゃないですか!」


 ウェブ小説家は、大声で抗議をした。

 自分は誤字がないように努力をした。

 誰しも間違えることはある。


 すると一人の隊員が前へ進み出た。


「でもね。あなた間違えてますよ」


「いや……、それは、そうなんですが……」


「死刑執行! コイツを吊るせ! 高く吊るせ! 誤字を許すな! 脱字を許すな! 間違いを許すな!」


 隊長の命令でウェブ小説家は、自宅の屋根から吊るされてしまった。

 子供が父親の死を目にして泣き叫んでいた。


 だが、誤字脱字を指摘しウェブ小説家を葬り去った誤字脱字指摘マンジャスティス親衛隊は、晴れやかな気持ちだった。

 声をそろえて町を練り歩く。


「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」


 誤字脱字指摘マンジャスティス親衛隊は、同人BL作家のマンションへ向かった。

 インターフォンを鳴らすが、ドアは開かない。


「突入!」


 隊長の命令でドアが爆破された。

 隊員が同人BL作家の部屋になだれ込んだ。


 同人BL作家は、眼鏡をかけた女性だった。

 突然、ドアが破壊され部屋に男たちが入って来たことに悲鳴を上げた。


「キャア! 何ですか! あなたたちは!」


「誤字脱字指摘マンジャスティス親衛隊だ! 誤字脱字容疑で逮捕する! 大人しくしろ!」


「誤字脱字なんてありません!」


 すると一人の隊員が同人誌を持って進み出た。


「五ページの右上コマ。『抜き挿しならない』は、『抜き差しならない』です。『挿す』と『差す』を間違えています」


「あ……つい変換ミスで……。いや、でも、誰だって変換ミスはあるでしょう? どうしても気に入らないのでしたら返金します! 返品して下さい!」


 同人BL作家は、隊長をにらむ。

 だが、隊長は強い口調で拒否した。


「ダメだ! 誤字であることに変わりはない! 貴様は大統領令によって処刑だ!」


「そんな! 一つ変換ミスがあっただけじゃないですか! 一つのミスで、全てを否定するなんてあんまりよ!」


 すると一人の隊員が前へ進み出た。


「でもね。あなた間違えてますよ」


「いや……、それは、そうなんだけど……」


「死刑執行! こいつの脳みそは腐ってる! 頭をかち割って電気ショックを与えろ!」


 隊長の命令で同人BL作家はむごたらしく処刑された。

 処刑の様子はネットで配信され、誤字脱字は大罪であると国中に周知された。


 誤字脱字指摘マンジャスティス親衛隊は、意気揚々町を練り歩く


「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」



 半年が過ぎた。

 だが、誤字脱字はなくならない。


 誤字脱字指摘マンジャスティス大統領は、もっと厳しく取り締まるように親衛隊に命じた。


 親衛隊長は悩んだ。


「うーん、なぜ誤字脱字がなくならないのだろう……。周知はしているのだが……」


「隊長! ウェブ小説家や同人作家ではなく、有名な作家を処刑してはどうでしょう? 有名な作家をつるし上げれば一罰百戒の効果があるのでは?」


「おお! それは素晴らしいアイデアだ!」


 誤字脱字指摘マンジャスティス親衛隊は、ターゲットを有名作家に変更した。


「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」


 郊外にある有名作家の家を親衛隊は急襲した。

 有名作家は、親衛隊に訴える。


「私の本は校正していますよ! 作家、編集者、校正の三者でチェックしました! 誤字脱字はないと思いますが……」


 隊員が有名作家の本を手に進み出た。

 大賞を受賞した作品である。


「この一ページ目! 春の訪れを描いたシーンなのに、登場人物が薪割りをしている。薪割りは秋や冬を現す言葉ではないのか!」


「えっ!? いや、この作品の舞台は雪深い北の国です。冬は雪に閉じ込められているので、春になりやっと外へ出られる様子を描いたシーンです」


「つまりこの表現は間違いということだな?」


「いえ! ですから! 間違いではなく――」


「間違った表現は認めない! 誤字脱字指摘マンジャスティス大統領の大統領令により、貴様は死刑だ!」


 有名作家は見せしめとして家族もろとも処刑されてしまった。

 誤字脱字指摘マンジャスティス親衛隊は、次の作家の家へ向かった。


 次の作家はノーベル文学賞を受賞した作家である。

 ファンが多い作家で、親衛隊隊員の中にファンがいた。

 ファンの隊員は、隊長に訴える。


「この先生を処刑するのは、国の損失ですよ!」


「だが、ノーベル文学賞作家であろうと、誤字は誤字だ!」


「いや、この先生の作品は全て読みましたが、誤字はありません!」


「それは出版された本だろう? 元の原稿には誤字があるはずだ!」


「いや、それはそうかもしれませんが……。でも、出版された本に誤字がなければ良いでしょう?」


 すると一人の隊員が前へ進み出た。


「でもね。きっと間違えてますよ」


「こいつは裏切り者だ!」


 隊長の命令で、ノーベル文学賞作家のファンだった隊員は、処刑されてしまった。

 家族どころか遠い親族まで、見せしめとして処刑された。


「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」


 国中に誤字脱字指摘マンジャスティス親衛隊が溢れた。


 作家は次々に処刑された。

 実力を持って抵抗する作家もいた。


「剣! 殺!」


 だが、悲しいかな数の暴力には敵わない。

 抵抗した作家は、ヨットハーバーに沈められた。


 ついに辞書を作る出版社も襲われた。

 辞書の編集者は最後の抵抗をした。


「言葉は変化するものです! 正しいか間違っているかをジャッジするのは、私の仕事ではありません!」


「貴様は処刑だ! 誤字脱字指摘マンジャスティス大統領は正しい! 辞書が間違っているのだ!」


 辞書を作る人間はいなくなり、辞書は焼かれてしまった。


「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」

「ジャスティス! ジャスティス!」



 ――二十年後。

 全ての記録は動画で残されるようになり、文章を書く人間はいなくなった。

 誤字脱字指摘マンジャスティス大統領は、誤字脱字が根絶されたことに満足した。

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