第5話解決

鳥井はエントランスホールへエレベーターで下り、帰宅しようとした。

すると、若い警察官が「いけません」

と、言った。

「何だ、貴様!どう事だ!」

すると、若い刑事の川崎が、

「鳥井さん、黒井川警部がお呼びです」

黒井川は、鳥井の楽屋の裏の階段に立っていた。

「まだ、ここにいらして良かったです」

「あんたは、何が何でも私を帰宅させない気だね?早く犯人を逮捕してくれよ!」

鳥井はタバコに火をつけた。

「まぁ、犯人はあなたです。鳥井さん、あなた」

黒井川は詰め寄る。

「私はね、あんたの事を信用して捜査に協力していたんだ。だがね、今の言葉は納得出来ないね」


「まぁ、前置きは置いといて、このドアが壊れているから修理を頼んだそうですね」

「あぁ〜、そうだよ。カギ閉まらなかったんだ」

「この非常階段の表はあなたの楽屋です。カギが空いていては、防犯上良くない。犯人が開けっ放しにしたんです」

「私じゃないよ!」

「では、非常階段の下にヒントがあるので、これ、ガードマンさんからマスターキーを借りて来ました。鳥井さん、お願いです。非常扉を開いてもらいませんか?私は暗証番号が分からないので」

黒井川は鳥井にカギを渡した。


「もう、回りくどいマネはよしましょう。私が犯人と言う証拠があるなら見せてみろ!潔く、認めてやるよ」

「では、暗証番号を」


鳥井は、暗証番号を5671と押してからマスターキーで解錠した。

「鳥井さん、下にヒントがあるのでドアを閉めて下さい。防犯上、危険です」

鳥井は暗証番号を打ち込み、カギを回したが施錠されなかった。

「何やってんだ!あの馬鹿ガードマンが!」

「どうされました?」

「カギが壊れているから、施錠出来ないんだ」


「そこなんです。事故死に見せかけるなら、施錠して置くべきでした。野崎さんが開けたのであれば、直ぐに扉は閉じます。あなた、勘違いされている。この扉、壊れてないんです。コツがあるんです」

「何だと?」

「解錠する時は、暗証番号を打ち込みあなたがしたようにマスターキーで開きます。しかし、施錠する時は、一度解除ボタンを押してから暗証番号を打ち込み、施錠するのです」


「だが、証拠が無い」

「いいえ。それは違うと思います。関係者以外なら暗証番号は知りません。保安関係者なら、開け方も閉め方も知っています。しかし、開け方は知っていても、閉じ方を知らない人間が一人だけいます。それは、ミッドナイトニュースの打ち合わせに行く際に、ガードマンさんが解錠するところを見ています。しかし、扉の向こうで施錠している姿は見ていません。その頃は、打ち合わせの最中です。ですから、ミッドナイトニュースのキャスターしかいないのです。如何ですか?」

鳥井は伏し目勝ちに、

「もう、いい。私の負けだ。殺したのは私だ。そして、ひき逃げしたのも……」

「残念です」

「あんた、始めっから私を疑っていましたよね?」

「はい」

「何故?」

「あなたとばったり出会った時に、あなたはこう言いました。「どこから、転んだの?」と。私は後頭部の打撲しか言っていないのに、あなたは自信を持って、そう言いました。喋り過ぎましたね」

「ま、私は、元ニュースキャスターだから。さっ、行こう」

「おいっ」

と、黒井川は川崎巡査に声を掛けた。鳥井に手錠が掛けられた。

その後、ひき逃げ事件でも再逮捕された。


こうして、幕は下りたのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キャスターの虚無の栄光(黒井川警部シリーズ12) 羽弦トリス @September-0919

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画