第16話


サーシャ視点


再び、アラベスク公爵夫人とお母様が話し込んでしまったので、私はまた少し暇を持て余している。


話の内容はラルフ君とカーミラ様の結婚式の時に、何処其処の貴族を呼ぶか呼ばないかの話がほとんどだったけど、中でも、王太后様は呼びたいけど、その他の王家の人たちには来てもらいたくないと言って、アラベスク公爵が、国王(アラベスク公爵は王族の事をアイツらと呼んでいるらしい)陛下に、


「お前たちの愚息のお陰で、我が娘は最良の伴侶と、私達は最高の義息子が得られた。ありがとう。招待状を送ろうと思ったが、結婚式の場で、お前たちに肩身の狭い思いをさせるのも申し訳ないので、招待をする事はせずにこの知らせだけ送ることとした。あっ、王太后様には別の便で招待状を出しているので気を遣わなくて結構だ。それぐらい気を遣えるなら、お前たちの愚息にもう少し教育をしておいてくれたらよかったのだがな(意訳)」


なんていう手紙を送ろうとしているのを嬉々として公爵夫人に話していたら、公爵夫人から


「王族を招待しないことに反対はしませんけど、手紙の内容として少し大人気ないですよ。」


と窘められたので、しゅんとしていたという話は少し面白かったけど、その他のドレスや宝石などの話は少しつまらなかった。


ラルフ君がいなければ、私はいつも、無表情を通しているし、つまらなそうな気配を出していたわけではないけど、社交界で名を馳せているアラベスク公爵夫人には、悟られていたのか、


「やっぱり、サーシャさんには退屈なお話だったかしら?」


アラベスク公爵夫人はコテンと小首を傾げて、私を見る。

年齢はお母様と同じくらいだけど、若々しく見えるせいか、その少女のような動作も可愛いらしく見える。


「いえ、すみません。決してそのような訳ではないのですが、アラベスク公爵様の招待状の件等はとても楽しいお話でした。」


アラベスク公爵夫人は、クスッと笑い、


「大丈夫よ。貴女がラルフロッド君を大事にしているのは私も知っているし、貴女がその容姿に、似合わず、剣術や格闘術に秀でていて、そちらに興味を持っているのは知っているのよ。息子のサリアンに婚約者がいなければ、あの子と婚約してもらいたいくらい。」


そう言って、にっこり笑い、


「貴女みたいな若い女性が、こうしてお母様と同じ年齢の女性の話を聞くのも退屈なのも、分かるわ。」


そう言うと、アラベスク公爵夫人は、周囲にいるメイド達には聞こえないように少し声を小さくして、


「だって、私がそうだったもの。」


そう、私とお母様にこっそりと話して、いたずらが成功した小さな子供のような笑顔を浮かべた。


「若い女性を退屈させても申し訳ないわ。」


そう言って、周囲にいる中でも年若いメイドを呼んで、


「ミリアム、サーシャさんを庭園や騎士団の訓練場にご案内して。」


アラベスク公爵夫人はにっこり笑って、


「先ず庭園を散策してもらって、庭園にも飽きたら、我がアラベスク公爵家の騎士や兵士を相手に剣術でも披露してもらえるかしら?騎士団長は息子を連れて訓練に参加しているから、貴女と剣術の組手ができないのを残念がっていたわよ。」


私の名前がアラベスク公爵領まで、届いているとは思ってはいなかった。


私がアラベスク公爵夫人の言葉に戸惑っていると、ミリアムと呼ばれた年若いメイドが元気よくお辞儀して


「ハミルトン伯爵令嬢、いえ、サーシャ様、ミリアムと申しまふ・・申します!よろしくお願いします!」


と元気に名乗ったけど、まだアラベスク公爵家に勤め始めたばかりで、慣れていないのか、どことなくぎこちない動きで、時折周囲を確認しながら、私の先導をしてくれている。


小声で、


「えっと、こっちが主賓室の方だから、庭園はこっちだよね・・・。」


などと考えた事をそのまま口に出しているところが、小さい頃のラルフ君みたいで少し可愛いな。


私はミリアムには気付かれないようにフフフと笑いながら後をついていく。


ミリアムが小声で、


「フラウさんからはカーミラ様とラルフロッド様との顔見せを邪魔しないようにって言われていたけど、庭園には・・・、流石にもういないよね・・・。お部屋での話し合いに移っているよね。」


どうやら、フラウさんって人には、私はあまり良い印象は持たれていないみたいね。


まぁ、そうか、カーミラ様から見れば、私は邪魔な存在だもんね。


ラルフ君との結婚や新婚生活をを邪魔するつもりはないから、ラルフ君とは仲の良い姉弟として近い距離に居させてもらいたいなぁ。


私が結婚する時も、ラルフ君も、こんなに思ってくれるだろうか?


先程のお茶会の時と似たような疑問が頭に浮かんでは消えていく。


そんな事を考えながら、ミリアムの後ろを大人しく歩いていると、

ミリアムは急に周囲を確認しだした。


「あれ?そういえば、庭園って言われても、どこらへんに案内すれば、良いんでしょうか?見どころの花が咲いているところ・・・どこ?フラウさんにはちゃんと覚えなさいって言われていたけど、忙しさのあまり忘れていました〜。」


ミリアムは小声で自分の失敗を喋りだした。

うん・・・、この辺はラルフ君とは似てないかな・・・。


まだ若そうだし、来て間もないみたいだからね。


私は少し心配になって、ミリアムに声をかけた。


「どうしたの?慌てなくて良いわよ。ゆっくり案内してね。」


私が声をかけたのが逆に良くなかったのか、ミリアムは更に、はわわと慌てだした。

私は別に怒った顔をしていなかったけど、また無表情だったかしら?


「フラウさん!」


しばらく、歩いているとミリアムが知り合いに気付いたのか、走り寄って行った。


追加か交換をするためなのか、紅茶やお菓子が乗った手押しのワゴンを押して幸せそうな顔をしたメイドが名前を呼ばれて振り向くと以外そうな顔をしてミリアムに問いかける。


「ミリアム、貴女はハミルトン伯爵夫人と令嬢のサーシャ様についていたはず。なぜここにいるのですか?!」


フラウさんと呼ばれたメイドは後ろにいる私に気付いたのか、わなわなと震えて、更にミリアムに問いかける。


「ミリアム、その方はハミルトン伯爵令嬢ではないのですか?」


ミリアムは元気に、


「はい!公爵夫人に庭園の後、騎士団の訓練場にご案内するよう命じられましたけど、私、庭園の花の開花状況を理解していなかった上に、庭園までの通路を忘れてしまったので少し迷っていました!」


ミリアムは元気良くフラウの質問に答えていたけど、フラウが眉間を押さえて絶望的な顔をしていた。


手押しワゴンに乗った紅茶やお菓子の数や種類を見ると若い人向けだと分かるから、ラルフ君とカーミラ様と用のものだと分かるけど、私が後をついて行って邪魔をすると思われているのかな?


うーん。私としては、ラルフ君とカーミラ様の邪魔をするつもりはないからそこまで絶望的な顔をしなくても良いと思うのだけど。


噂から想像されている私だと邪魔をすると思われてもしょうがないかな。


でも、カーミラ様のドレス姿ももっと近くで見てみたいな。

あんなに可愛かったから今日も可愛いのだろう。


「ねぇ。フラウさん。今日もカーミラ様はとても綺麗なドレスなんでしょう。私も見てみたいなぁ。良いでしょ?」


フラウは一瞬、嫌そうな顔をしたけど、流石は公爵家のメイド、事を荒立てる事を嫌ったのか、素直に頭を下げ、


「畏まりました。ご案内いたします。」


私はフラウに案内され、なぜかミリアムをも引き連れて、ラルフ君とカーミラ様の部屋に行くことにした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


私が部屋に入るとラルフ君とカーミラ様が仲良く話していた。

やっぱりとても似合っている。


私は伯爵令嬢らしく楚々としてフラウに案内されて2人が座っているテーブルの側に行った。


カーミラ様は私に気付いたのか、こちらを見て、ちょっと心配そうな顔をしたけど、公爵令嬢らしく毅然とした態度で私に声をかけてくれた。


「サーシャ様、どうされました?ラルフロッド様に何か御用ですか?」


私は首を横に振りつつ、普段、ラルフ君に接しているような態度で、カーミラ様の問いかけに返事をする。


「カーミラ様、やっぱり可愛い!ラルフ君!可愛い方とお知り合いになれてよかったねぇ!」


私はカーミラ様に引っ付き、頬擦りをする。


「ちょっと姉さん!カーミラ様に失礼だし、引っ付き過ぎだよ!」


ラルフ君が止めるけど、私はカーミラ様に更に引っ付く、フラウもミリアムも止めようとするけど、カーミラ様を害するようには見えない伯爵令嬢の私に手を出せずにオロオロしている。


「えー、だってカーミラ様がこんなに可愛いらしいのが悪いわよ。それに、義理の妹になるんでしょ。今から仲良くしておきたいじゃない。」


私の言葉にカーミラ様はハッとして、


「サーシャ様、いえ、義姉様、私で良いんでしょうか?」


カーミラ様は両手で私の両手を握ってきた。


「もちろん!カーミラ様なら大歓迎だよ!」


カーミラ様がとても喜んでくれている。

これで良いんだ。


ラルフ君と安心したように、


「姉さんありがとう。」


と言ってくれた。


ミリアムがよかったですねとフラウに問いかけていたけど、フラウは、


「カーミラ様とラルフロッド様もよかったけど、カーミラ様とサーシャ様も尊い・・・・。」


と鼻を押さえていたのを見たのはミリアムしかいなかった。

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婚約破棄現場の横でお菓子を食べている貴族の次男について 鍛冶屋 優雨 @sasuke008

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