第15話
フラウ視点
私はカーミラ様とラルフロッド様が、仲良く今後のことをお話しているところを少し離れた場所で見ている。
カーミラ様はとても幸せそうなお顔をされている。
ラルフロッド様もカーミラ様を見て幸せそうなお顔をされている。
お二人共とてもお似合いだ。
旦那様や奥様もお認めになるでしょう。
ヨーゼフ様も生涯ついていくと公言しておられる。
ラルフロッド様には女遊びをするような悪い噂はない。
カーミラ様とラルフロッド様の間には、私と仲が良いリンダお姉さんに起きたような事は起きないだろう。
私はリンダお姉さんに起きた出来事を思い出す。
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リンダは息を切らしながら必死に走っている。
愛していた男のために履いていた靴はとっくに抜げて今は裸足だ。
さっきから左足が痛むのは小石を踏んで足を切っているからだろう。
だけど、今は止まるわけにはいかない。
なぜなら、後ろから3人の男達が、笑いながら
「逃げなくていいよ!優しくするからよ。」
だの、
「怖くないから逃げんなよ。これから良いとこに連れて行ってやるからよ!」
その内、1人はリンダの恋人だった男だ。
後ろを振り向く余裕はないけど、口ぶりから男達が下品な笑顔を浮かべながら、話しかけているのは分かる。
息も切れて足が痛くて休みたいけど、今、休んでしまったら男達に捕まり、口では言えないよう酷いことをされてしまうだろう。
これもリンダが、母の忠告を聞かずに、街で声をかけてきた男に恋をし、こっそりと会うようになってしまったからだ。
はじめは優しい人だった。乱暴なところもなく、おかしな言動もない普通の男性に見えた。
しかし、会うたびに、少しづつ絵のモデルをしてくれと言ってきたり、お金を貸してくれなどと言ってくるようになり、ある時、男は父親が借金をしたから街を抜け出し、2人で離れた所で生活をするように言ってきた。
その頃にはリンダは男の事が好きになっており、別の街で結婚をして生活をする気になっていたのだが、出発前日に恋人が、ガラの悪い男と話していたのを聞いたのだ。
それは、リンダを金持ちのお爺さんに売りつける話しで、リンダには高値をつけるという話だった。
リンダはそれまで魅力的に見えていた男の笑顔がその時には悪魔のように歪んで嫌らしく見え、慌てて逃げ出したのだ。
しかし、逃げる時に物音を立ててしまい、男に気付かれてしまったので必死に走って逃げ出したのだ。
しかし、リンダは気づいてはいないが、男達が上手く誘導しており、人のいない所にリンダを追いやっていたのだ。
リンダは疲れた頭で、もう少し母の言葉を聞けば良かった、もう少し相手を見てから恋をすれば良かったと激しく後悔した。
リンダが気づいたら男達が直ぐ後ろまで迫っており、リンダが更に焦ってしまい足が縺れて倒れてしまった。
「あうっ!」
リンダは立ち上がろうとするが、背中をブーツを履いた男が踏みつける。
「おいおい、リンダよ!逃げるこたぁねぇだろ!せっかく恋人の俺がお前を何不自由ない生活を送らせてやろうとしたのによ!」
そう言って、恋人だった男はリンダの髪を掴み、顔を睨みつける。
「まぁよ。お前みたいな田舎娘をいただくのを趣味にしている変態爺がいてよ。ソイツと一夜を共にしてくれたら、他の所よりも3倍の値段を払ってくれるって言ってくれたんだ。できるだけ傷をつけるわけにはいかねからよ。大人しくしてくれよな。」
そう言って、恋人だった男は下品な笑顔を浮かべる。
恋人だった男の後ろにはガラの悪いスキンヘッドの男と髭面の男がいて、スキンヘッドの男がナイフを持ち出してニヤニヤと笑っている。
「でもよ。相手の爺からすると足は動かなくても問題ないって言っていたからよ。足の腱を切って大人しくしてもらった方が良くないか?」
そう言って、スキンヘッド男がリンダの足に向かってナイフを振り上げる。
リンダは怖くなり目を瞑って痛みがくる事を覚悟した。
「お母さんごめんなさい。」
リンダが小さく呟くと、
「母親はよ。娘が無事で、悪事を働いていないなら、どんな事があっても許すさ。」
女性の声がリンダの耳に届いた。
「何だ!テメェ!痛え!離しやがれ!」
リンダが見ると大柄で全身鎧を着た人物がスキンヘッド男の手をナイフごと掴んでおり、掴まれた男の手が変な形に歪んでいる。
「おいおい、お前みたいな下品な男が私みたいな素敵なレディと手を繋げているんだ。もう少し泣いて喜べよ。」
リンダは再度、声を聞いたら、全身鎧の人物がわかった。
「フラウのお母さん?」
リンダの声に応じて、全身鎧の騎士がバシネットヘルムを外すとニヤリと笑うはっきりとした顔立ちの女性が顔を見せる。
「リンダ、お前の両親やフラウが心配していたぞ。怪我をしているようだけど、とりあえずは無事そうだな。直ぐに帰って両親やフラウを安心させてやろうぜ!」
フラウの母親がそう言うと男の手からベキベキという変な音がして男が悲鳴をあげる。
「何だ。私達の再会がそんなに大声で泣くほど感動的だったのか?」
フラウの母親は手を砕いたスキンヘッド男の首を片手で掴むと、
「でも、まぁ少し五月蝿いから黙っていろ。」
そう言ってスキンヘッド男を片手で持ち上げて近くの木に投げつける。
スキンヘッド男は壊れた人形のように飛んでいき、木に打ち付けられて言葉を発することなく気絶する。
「何だ!テメェは!」
リンダの恋人だった男は血相を変えてフラウの母親に怒鳴りつける。
「お前らみてぇなゲス野郎どもに名乗る名前は持ってないね。」
そう言って、フラウの母親がニヤリと笑う。そして彼女の右手が動いたと思うと、握っていた棍棒がリンダの恋人だった男の後ろで睨みを効かせていた髭面男の顔にめり込んだ。
「おいおい、か弱いレディをそんな顔で睨むな。罰があたって目がつぶれるぞ。」
大柄な女性が棍棒を引くと、顔を突かれた男が無言で倒れる。
「わりぃな。潰れたのは目じゃなくて鼻だったか?さて、後はお前だけだな。お前には一つ聞きたい事があってな。さっき得意気に喋っていた変態爺のこと、もっと詳しく話してくれないか?」
そう言って、フラウの母親は獰猛な笑みを浮かべながら、腰を抜かしたリンダの元恋人に近付いて行った。
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リンダを無事に連れ帰ってきた母親は私の頭を撫でながら、こう言いました。
「良いかいフラウ。男女はお互いに真剣に愛する事が重要なんだ。遊びで女を抱く男にはそれなりの代償を払ってもらうのが当たり前だ。女はね。遊びで女を抱こうとする男の本性を見抜かなければならないよ。一時の感情だけで運命の人と思い込むのはだめだ。」
そう言った後、母はニヤリと笑って、
「まぁ、だけど世の中には、下らない男もいるけど、良い男も多くいるんだよ。お前の父さんとかね。お前やお前が仕えている主人がそんな男に出会えるのを楽しみにしているよ。」
母親の声が聞こえたのか、こちらに背中を向けて料理を作っていた父親の背中が少し照れくさそうにしていた。
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ラルフロッド様は大丈夫だろう。
私はカーミラ様の話を真剣に聞いてくれているラルフロッド様を見て安心している。
でも、そろそろ我慢ができなくなったサーシャ様がこちらに来るかもしれないから、お二人の仲睦まじい様子を目に焼き付けておかないと!
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