第14話


カーミラ様と僕が、次に会う日取りや、僕が紹介する店をどのような店にするかということを話していると、フラウさんがカーミラ様に話しかけてきた。


「お嬢様、お話し中に失礼いたします。」


カーミラ様はにこやかに笑って、


「大丈夫よ。フラウ、何かあったかしら?」


カーミラ様がフラウさんに問いかけると、フラウさんは、少し首を傾げて、


「お嬢様が言われているお店紹介は良い案と思いますが、実際にはどのようにして売り出すのでしょうか?ラルフロッド様が一冊づつ書くわけにもいかないでしょう。かといって複数の人数を雇って書き写したとしても大した冊数にはならないかと思います。」


確かに、僕には絵心なんてスキルがあるけど、早描きができないわけではないけど、大量生産には向かない。


カーミラ様はフラウさんの質問にフフっと笑う。


「大丈夫よ。私が王太子妃教育で外国の方と交流した時に、外国の多くの名所や風景、人々の生活を表現した絵を見たの。その絵は私達とは違う画風だったけど、趣きがあって良かったわ。それらの絵は、一枚の絵を基に薄い木の板を彫師という職業の人が彫って、それを基に摺師という職業の人が、何百という数を作ったそうなの。しかも、昔は黒一色だったけど、今では多くの色を使って作成出来るそうよ。その技術があれば多くの人に提供できそうじゃない?」


確かにそんな技術があれば、簡単だろうが、今の僕達にはそんな技術はない。これからその技術を学ぼうとすれば、かなり長い年月がかかると思う。


僕の考えていることが分かったのか、カーミラ様は僕の顔を見てにっこりと笑って話し始めた。


「もちろん、そんな技術は私達にはありませんわ。だけど私は、王太子妃教育の時に、「模倣」というスキルを持っている方と話しをしたことがありました。」


確か、「模倣」スキルは見ている人の技術や動きを完全に模倣をする事ができるといわれている。


しかし、あくまで模倣スキルを持っている人の目の前で動いている人の動作を模倣するだけ、しかも、目の前で自分の動きを模倣されて良い気分になる人は多くない。


そんなわけで模倣スキルも微妙スキルに分類されている。


僕が模倣スキルについて思い出していると、フラウさんも似たようなことを考えていたのか、


「その模倣スキルを持っている人を複数人集めて、その絵を作り出す技術を見ていて、模倣スキルで大量生産するのでしょうか?」


と口にしたが、カーミラ様は首を横に振り、


「その技術を持つ人達を外国から招へいして、その人達に作ってもらえばいいから、「模倣」スキルの人は要らないわ。元々、大量生産に向いた技術だしね。私が考えているのは、ラルフロッド様の紹介本を生産すると同時に、模倣スキル、いや、その他にも微妙スキルと呼ばれているスキルを持つ方々の地位を向上させることよ。」


そこで、カーミラ様は一口、紅茶を飲み、喉を潤してから話しを続ける。


「例えば「剣術」スキルは練習すればするほど、その能力は成長するわ。じゃあ「模倣」スキルはどうなるのかしら?記憶している事でも模倣できるようになるのかしら?それとも、絵に描いてある動きでも模倣できるようになるのかしら?もちろん、直ぐに成長するとは限らないけど、試してみる価値はあるのではないかしら?」


そう言って、カーミラ様は、ぽんっと胸の前で手を叩き、


「さっきも言ったように、私は微妙とされているスキルを授けられた方々の地位を向上したいの。ラルフロッド様の絵心スキルで描いた絵や書いた文章で人々に美味しい物や美しい景色を紹介したら、絵心スキルが微妙スキルなんて言われなくなる。だって、きっと皆がそのお菓子を食べたくなったり、美しい景色を見たがるのよ。そして、東の国から絵を摺る技術者を招へいして、模倣スキルの方々に絵を摺る技術を普通よりも早く身につけさせる。他にも微妙スキルの方々を探し出して活かせる方法を考えるわ。」


カーミラ様は、やるぞーという気持ちを表したのか、手を上に挙げた。


フラウさんをその話しを聞いて、いきなり泣き出した。


カーミラ様は驚いて、フラウさんに声をかける。


「どうしたの?フラウどこか痛いの?」


フラウさんは首を横に振り、


「いえ、私は嬉しいのです。カーミラ様が5年間、王太子妃教育のために王都に行きましたが、それは無駄ではなかったのですね。」


カーミラ様は、泣き出したフラウさんの頭を撫でて、


「私は王太子妃教育の初日に王太后様に教育を受けたの。」


カーミラ様は昔を懐かしく思ったのか遠い目をした。

「王太后様から最初に言われた言葉は『良いかい。カーミラ、人は口から食べた物で、身体が作られ、耳と目から得た事で心が作られ、そして、自分の口から出た言葉で未来が作られるんだ。だからね。教育してくれる人や与えてくれる人に感謝しな。そして自分が得た知識を人のために役立てるんだよ。』だったのよ。だからね。私は得た知識や情報を人々のために活かしたいの。そして・・・、」


そこで、カーミラ様は頬を赤らめて、


「ラルフロッド様と幸せになりたいの。それが今の私の願い。」


その言葉を聞いて僕の頬もカーミラ様のように赤くなっているのだろう。


フラウさんが、僕とカーミラ様を愛おしそうに見ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄現場の横でお菓子を食べている貴族の次男について 鍛冶屋 優雨 @sasuke008

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ