ヒトゴロシ
謎崎実
プロローグ
大晦日の今夜、渋谷駅を爆破する。
——それから31年。未だ爆弾は起爆することなく二度の改元を経た。
事件当時、警察はもちろん、公安や救急隊も管轄を跨いで爆弾を抱えた渋谷駅へと集結した。
警察は各班に分かれて一般市民の避難誘導。公安は爆弾とその犯人の行方を追った。
しかし、犯人や爆弾は見つからず、結局渋谷駅は爆発することなく事なきを得た。
ただし、それは渋谷駅で起こらなかっただけに過ぎなかった。
大勢の警官が駅構内で避難誘導をするなか、突然遠くの方から大きな重たい音が街中を駆け巡って響いた。
空に浮かぶ雲が赤く反射している。
それを目の当たりにした警察や消防はサイレンを鳴らして音がした方向へと急いで車を走らせた。
渋谷駅から四キロほど離れた現場へ到着すると、早速彼らの目に飛び込んできたのは、割れた窓から白煙が吹き出て燃え上がる新宿駅の無惨な姿だった。
テロリストによる陽動作戦は虚しくも成功し、負傷者401名、死者56名と多くの尊い命を理不尽に奪った。
そしてその翌年、警察は首謀者である深山庸介を逮捕。だが、その後留置所で首吊り自殺を図り死亡。
事件は腑に落ちない形で幕を閉じた。
しかし、爆破現場の痕跡から不可解な点がいくつか残った。
まずは爆破テロなのにも関わらず爆弾の破片が一つも見つからなかったことである。
駅ビルに直径七メートルほどの穴がいくつも空くほどの大規模爆発だったため、跡形もなく消し飛んだ可能性も考えられなくはないが、それでもひとつも残らないというのはどこか腑に落ちない。
そして、何より不可解なことは駅を爆破させた実行犯が未だに見つかっていないことだ。
自爆テロであるならば身体が木っ端微塵に吹き飛ぶため、見つからないのも無理はないが、そもそも爆弾の破片すら見つかっていない。
警察の発表によれば実行犯は自爆して死亡とされていたが、実際はどうなのだろうか。
この不可解な観点から私たちはこう予想した。
実行犯は特別な力を持った、特殊能力者ではないのかと!!
ヒトゴロシ 謎崎実 @Nazosaki
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