暗闇に押しつぶされてしまえば

 夜に溶けた部屋の中では人工的な光は眩しくて、何度か瞬きを繰り返す。そうすることで、少しでも早くに目を光に慣れさせた。

 深夜零時。夜がこれから深くなる時間。私の感覚が鋭くなる時間。孤独が深まる時間。

 窓を締め切っているから空気が停滞していた。自室の空気が濁っているように感じられて、まだそんな季節じゃないのに秋冬の間埃を被りっぱなしだった扇風機を回した。埃が舞い上がって濁った空気が循環し始める。

 ひまだった。理由は特にない。ゲームや本という娯楽は飽きてしまった。決まっているテキストを追いかけるのが疲れてしまうからだ。決まり切ったストーリーを追いかけて、決まっているエンディングまで行って何が楽しいんだ。少しくらいイレギュラーな事が起こったっていいだろう。

 手のひらからぽとりとスマホが落ちる。数日前も同じような事があってスマホの画面にヒビが入ってしまった。ヒビが入ってしまったからもう画面の綺麗さとかそんなものに執着しなくなってしまった。割れる前まではクラスメイトに見られたら恥ずかしいとかそんなことを思っていた。でもいざ割れてみると特にそんなことを思われたりはしなかったように思える。私の話し方もあると思うけど、しっかりネタとして消化されたはずだ。

 私は高校生が好きだ。そういう肩書が好きだ。若さの象徴みたいに思えるし、何してもいいような無敵感があるから。でもそれと同時に高校生は嫌いだ。だって流されても許される。流れに身を任せるのが許されてしまう。流れに身を任せるっていうのは私の嫌いな本やゲームと同じみたいなものだ。私の意見なんてない。神様かそれ以上のものが私達高校生を動かしている。

 スマホを取る。私が持ち上げたことを認識して人工的な光が私を照らす。自然の暗闇に慣れていた私にはその人工的な光は眩しすぎた。

一通のメールが届いていた。部活の部長からだった。それも二時間前に。

 部長は寝てるんだろうなと勝手に想像しながら、私はメールに返信する。

 なんとなくメールを整理していると、無性に誰かの声が聞きたくなってしまった。決められた文面なんかよりももっと温度のあるものに触れたくなった。

 この時間でも起きているだろう人物を見繕い、なんとなく電話をかける。直ぐに電話が繋がって彼女の声が聞こえた。

「もしもし」

なにかに気を取られているような、ふわふわとした声だった。

「いっや、ごめんね。こんな夜遅くにさ」

 私はいつものように明るく振る舞う。彼女に心配をかけないように。彼女に気取られないように。この寂しさを、この冷え切った心を。

 私は舌なめずりをする。彼女の声で冷え切った心を暖めるために。暗闇に心が押しつぶされないために。暗闇で足掻く足を止めないように、私は温かさを求めた。

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押しつぶされてしまえば。 宵町いつか @itsuka6012

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