#16:私がサンタ役をやることになった件(4)~少女からのプレゼント~

いつもと変わらない朝。

少女の件から数日後、私、椎名椎菜しいな・しいなは早朝からの集合に向かっていた。

はぁ~。眠い。でも、今日も夢の工場は稼働しなきゃいけない。


パークに着くと、着替える前にミーティングが待っていた。

本日のスケジュールや注意事項などを皆で確認、共有し、プレゼントの渡し方、イベント中の動きなどをアップデートしていく。


「それでは今日もご安全に♬」


森川さんからのひとことでミーティングが終わる。

これか森の病院へと向かいサンタ衣装を受け取るのだが、部屋の出口へ向かう途中、ふと思い出したように、私は春日部トナカイに声をかける。


「マジックメモリーズは大変らしいですよ。野明ちゃんが言ってました。あと大黒さんが下剋上だとも言ってました。」


春日部トナカイが冷や汗を流す。


野明ちゃんとは私の一つ下の後輩。私の妹分。大黒さんは、春日部さん後輩にあたる女性社員さんである。私の頼れる姉分。本当に下剋上を狙っているらしい。

このメンバーで春日部トナカイのお仕置きは決定事項である。


申し訳なさそうにする森川さん。

「ごめんね。みんなに迷惑かけて」


「森川さんのせいじゃないです。シフトを考えるのが社員の務めですよね?トナカイさん」


またも冷や汗を流す春日部トナカイ。話題を変えようとして、慌てて口を開く。


「そういえば森川さん。例のクリスマスカード...」


強引な話題転換に、私は密かに笑う。


「ト・ナ・カ・イ・さ・ん」


私の静かな声に、春日部さんはビクッと肩を震わせた。


「ごめんね」と言いつつ、森川さんがクリスマスカードを渡してくれる。


「昨日ね、キャッスルに届いていたんだって」


キャッスルとは、パークの本部(バックオフィス)を指す言葉だ。

私はカードの表を見る。宛名は「サンタさんへ」。

どうやらこのカードとは別に、「遊園地のお姉さんへ」と「トナカイさんへ」が届いているらしい。きっと森川さんと春日部さん宛てなのだろう。


私は自分宛てのカードを開き、読み始める。


「サンタさんありがとうございました。サンタさんが、パパとママを仲良くしてくれたので、みんなで楽しく遊べたよ♪メリークリスマス♬」


カードの中から一枚の写真が滑り出る。観覧車をバックに、サンタとトナカイが両サイドを固めた家族写真。いつもカメラマンのお父さんに代わって、森川さんが撮ったものだ。

その一枚には、全員の自然な笑顔が収められている。少女も、父親も、母親も、そしてサンタの私も、トナカイの春日部さんも、みんな心から楽しそうな表情が読み取れる。


私は、そっとその手紙と写真を、服の内ポケットにしまう。

会議室のテーブルに鎮座する、赤い帽子のドリーミーに向かって小さく呟く。


「ドリーミー。私も素敵なクリスマスプレゼントがもらえたよ」


私は、今日もサンタになる。たくさんの笑顔を届けられるように——。写真を胸に、そっと背筋を伸ばした。


私は、ここで働くことが楽しい♪


私の大切な場所の一つだ!!

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椎菜のドクハク~ボーイッシュJKは今日も夢をつくる~ 坂道光 @sakamichikou

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