【地球神と太陽神】掌編小説

統失2級

1話完結

その男はアホな男だった。だから、何度生まれ変わっても簡単に捕まる重罪を犯しては、その都度死刑になっていたし、その都度50年間にも及ぶ業火地獄も体験していた。地球神は転生待機所で何度も何度も「もう、人は殺すなよ、絶対に殺すなよ」とその男に言い聞かせて、その男を地上に送り出していた。しかし、実は地球神も心の奥底ではその男に期待はしておらず、(こんなアホな男を地獄に落とすのは確かに可哀想だが、この男が地上で重罪を犯すのは目に見えている。一層の事、この男は輪廻転生のレールから外してやり、その霊魂は消滅させてやる事が、何よりもこの男の為になるのではないのか?)と考えていた。だが、太陽神からの命令で地球神も仕方なくその男を地上に送り出していたのだった。この話はその男の3327回目の人生の話である。


1984年の5月にその男は日本の川守家に産まれ、母親から哲樹という名を授かっていた。それから、季節は巡り22年後、哲樹はバイク事故で頭を強打し昏睡状態に陥る事となる。医者は哲樹の母親に「目覚める可能性は極めて低くく、安楽死という選択肢も考慮に入れて下さい」と提案していたが、一人息子の哲樹を溺愛していた母親はその提案を拒絶し、息子の回復を神に祈った。


2013年、29歳になっていた哲樹は突如、目覚める。目を開き口を動かしている哲樹を見付けた巡回中の看護師が哲樹の口に耳を近付けて哲樹の微かな声を聞いた。「僕にはやるべき事がある。早く元気にして下さい」その後、5ヶ月のリハビリを経て、哲樹は自らの足で歩いて病院を退院した。


事故前の哲樹のIQは92だったが、退院後のIQは284にまで上昇していた。頭を強打して知能が上昇するという症例は人類史上唯一の症例だった。哲樹は少年時代、酷いイジメに遭っており、そのせいで社会全体を強烈に憎んでいた。(人類社会に大復讐をしてやる、その為には何よりも知識が必要だ)そう考えた哲樹は猛勉強を開始した。結果として10年も経つと、哲樹はウィルス学の世界的権威にまで登り詰める事となっていた。そして、哲樹は密かにとあるウィルスを開発した。それは人類だけが罹患する潜伏期間が長めの致死率100%のウィルスだった。哲樹はそのウィルスを鳥そっくりのロボットを使いアメリカと中国とロシアとブラジルとケニアとイラクと南アフリカとドイツとイギリスとアルゼンチンとエジプトとインドとオーストラリアと日本でばら撒いた。その結果、人類は7年4ヶ月後にはワクチンを接種していた哲樹1人を除いて絶滅してしまうのだった。哲樹の母親もウィルスによって命を落としたが、哲樹に悲しむ様子は無かった。自分以外の人類が皆、死に絶えた事を見届けて哲樹は首を吊り自らの人生も終わらせた。


地球神は太陽神に報告した。「悲しい事ですが、川守哲樹のせいで、人類が滅んでしまいました」すると太陽神はこう答える「人類の滅亡は何も悲しい事では無い。私は最近、人類に愛想が尽きていたので、彼等が滅んだ事は大変に喜ばしい事だ。私は人類を滅亡させる為に川守の知能を上昇させてやった。川守は良く働いてくれたが、川守も所詮は人類だ。だから、川守の霊魂は永遠の地獄に落とせ、その他の人類の霊魂も天国に居る人類の霊魂も一つ残らず永遠の地獄に落とせ。分かったな」地球神はその命令には大いに理不尽さを感じたが、太陽神に逆らう訳にもいかず、大人しく「分かりました」と返答するしかなかった。「2億年後の地球では進化した兎が、人類の文明を遥かに凌駕する文明を築く。兎は人類より温厚な動物であるので、地球は愛と平和と希望に満ち溢れた究極の理想郷と呼ぶに相応しい奇跡の惑星になる事だろう」と太陽神は地球神に言うのでした。

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