パラレル・パラソル
酔生夢死
最初で最後だよ
「わー、すげー。」
窓にべったり居座る液体。今日は台風直撃デーだ。といっても、実際は掠ってるだけなんだけど。でもおかげで学校早く終わってラッキー。ずっとぼんやり過ごしてるだけだもんね。って、今は電車に乗ってるから悠長に構えていられるけど、この雨の中を後で通らないといけないんだよね、どうしよ
とか言ってる間に最寄り着いちゃった……。そーっとホームに降りる。
「うわああ、これはひどい。」
空の青々しさはどこかに消えて、完全に黒く塗り潰されていた。雨粒は目に見えるほど大きく、痛々しい速度で降っていた。そして何より風があああ強いよおお。風のせいで屋根のあるホームにも結構雨が入りまくっている。なんだよちょっと濡れるじゃねぇか。
ふっ……でも今日の私は激強の神の傘を持ってきたんだ。傘さえさせてればそうそう雨には濡れないだろう。じりじりと出口に歩く____ちょっとまって?なんか前に傘持ってないアホ……二人組がいるんだけど。何してんの!?ホームはまだ斜めの雨だけですんでるけど、外出た時どうすんのよ!!優しい私はその二人に駆け寄った。
「ちょっと!大丈夫ですか!?傘なんでないんですか!」
「あっ、すみません、ありがとうございます!それが……。」
びゅおおおおお
「あっ、あなた……!!!」
「えっ……?…………っ!?!?!」
綺麗な人の肩部分の服の生地が、なくなっていた。目で追うと、黒いドロドロとした何かがその人の服を溶かしているようだった。視界に入った雨は、さっきまでのものとは違う粘性のある黒い雨になっていた。何これ、おかしいって
「あぁっ…………。」
綺麗な人がショックで気を失ってしまった。は!?こんな時に!?
「お姉ちゃん!!!」
ピンク髪の人が支えてなんとか持ち堪えた。この2人は姉妹らしい。
「とりあえず、ビルかなんか何階もある建物に行こう!」
「えっ、ちょ、わかりました?!」
ピンクの人に言われて急いで階段を駆け上がって改札を通った。
「高いとこといえば駅出てまっすぐ行けば大きいのがあるはず、」
「わかった。」
何が何だかわからないまま感覚だけでとにかく走る。傘についてる雨をはらって、傘をビニール袋に入れて建物に入った。
「はぁ、ぁ、疲れた……。」
意味分からんけどとりあえず着いたから一安心だ。
「よっ、と」
ピンクの人はその人の姉を抱っこしてたらしく、降ろしてゆっくり寝かせてあげていた。 え?抱っこ???重くね??????おんぶとかでもなく?????
「近いところにこういう建物があってよかったー!教えてくれてありがとう!」
「あぁ、いえ……じゃなくて!!なんなんですかこれ!?なんでこんなとこ来なきゃいけなかったんですか!?!?」
「あ〜、やっぱ、知らないか。さっきの雨、見たよね?」
「え、はい……。」
「あの雨は、何か物についた瞬間それを溶かしてくるの。服も、家も、人も。」
「ひ、人も……?」
「うん。さっきのお姉ちゃんのはちっちゃい雨粒だったから服だけですんでたけど、ずっと雨に触れ続けると人も溶けちゃうの。多分、ここに来る途中も溶けてる人、いっぱいいたと思うよ。」
正直走るのに夢中で周りなんて全く見れなかったから分からない。でも確かに、地面がガタガタしていた気がする。地面も溶けるってことだよね……。
「な、なんでそんなものが……?てか、なんで知ってるんですか?!」
「それが今んところ誰にも分かってないんだよねぇ〜。雨のことを知ってる理由は〜すでに私達が住んでるところに、降ってきてるから。急にその黒い雨が降ってきて、逃げても逃げてもやんでは降ってるから、もっと大胆に遠いところに行こう!ってなって。傘もほぼ使い捨てになるからいっぱい持ってきてた。でも行く道中で全部溶けちゃって、無くなっちゃった。それで電車から降りて困ってたら、あなたが来てくれたんだよね!」
「そ、そうだったんですね。でも、ニュースとかで放映されなかったのかなぁ、そんなことが起きてるなんて……。」
「私達の地域のテレビ局は、みーんな溶けちゃったんじゃないかなぁ。」
自分の頬に冷たい風が通った気がした。きっと境遇はあまり変わらない、ただの同世代の人なんだろうけど、こんなことになって一瞬で諦めを覚えざるを得なくなった。そういう顔をしていた。
「あー、台風の進路のやつは流れてたんじゃない?予測不可能みたいな。」
「確かに、昼にこっちに台風が来るっていうのは言われてましたけど、朝はもっと変なところだった気がします。」
「だよね……。ここにも黒い雨が降るなら、もう何処に逃げればいいんだろう。」
「……どうすればいいのか分かんないですけど、一緒に頑張りましょう。」
「うん、ありがとう!3人だと心強いよ!」
「んぅ、うぅ……。」
「あ、お姉ちゃん起きた?今ねー2人で現状把握してたところ。」
「あ、そうなんだ、ごめんね、また気失っちゃって……。」
「全然いいよぉ、お姉ちゃんは体弱いしショックにも弱いけど、私はそんなお姉ちゃんを守るために強くなったからね!お姉さちゃんを守り、世界を平和にするために私は生まれたのだー!」
確かにさっきの抱っこは衝撃的な強さだった。でも規模がかなりデカい気がする。
「世界を平和にって、なんでそんな堂々と言い切れるんですか?ヒーローになりたいの?」
「わかんない!ヒーローになりたいとかじゃないけど、本当にそう思うんだもん!」
「あぁ……そうなんですね。」
「本当にありがとうね……、あの、すみません、はじめましてなのにお見苦しい姿をお見せして。」
「いいですよぉ全然。特になんとも思ってないですよ!」
「そうですか、それはよかったです。」
「あ、そういえば自己紹介がまだだったねぇー!こほん、私はRGって言いますっ!これからよろしくね!」
「え、芸名ですか?」
「違うよ!これが本名なの!あと、タメ口でいいよ〜同世代でしょ?」
「あ、確かに、それじゃあよろしくね。」
「ゆきと申します。これからよろしくお願いします。」
「あ、そっちは普通の名前なんですね。よろしくお願いします。私は、真実って書いて、まみ……って言います。よろしくね。」
「じゃあそっちはRe:Rちゃんだね!」
「り、あーるちゃん???」
急に何言ってんだ。まともな人かと思ったらこれか……。
「うん、だって、可愛くない?こっちのほうが。真実はリアルでしょ?だからりあるちゃん!」
「えぇ……。」
「これからよろしくね!りあるちゃん!」
「よろしくお願いします、るーさん。」
「るー……!?ま、まぁ、よろしくね。」
「その、すみません、一個聞きたいんですけど……。」
「あ、なんですか?」
「その傘って、なんで溶けてないんですか……?」
「え?」
さっき私がビニール袋に入れた……って言ってもその袋は無くなってるけど。その最強神傘は確かに無傷でしれっと佇んでいた。
「うわ、ほんとだ!!!!なんで溶けてないの!?!?ねぇそれどこで買ったの????」
「えっと……あれ、なんでこれ持ってるんだっけ。」
「あーわかんないかぁ、でもすごすぎる!!!し、むしろ怖い!!!これがあればどこでもしのげるじゃん!!!最強!!!!!」
「でも、しのいで結局どうなるの……?私達以外全部溶けて、何も無くなっちゃったら、どうすればいいの?」
「……そうなんだよねー、とりあえず逃げるしかないけど、どうすればいいのかな。」
「私達の近所に物知りな機械直しの人がいるんですよね、その人と一回話したら何か、できるかもしれません……。」
「そうだね!連絡してみよっか。」
ふと、エレベーターの音が鳴った。ずっと占領してたから知らん人にでくわしたら気まずい……。後ろを振り向く。
「ぁ、わたし゛、いま、ぃきてる?」
「 」
エレベーターから出てきた人は、頭が二つに割れ、眼球から黒い涙を流して、世界と一体化しながらこちらに助けを求めてきた。
「傘さして。逃げるよ。」
「あっ、うん、!」
外を見るとさっきまでは気づかなかったことに嫌でも気づいてしまう。一応少し都会なほうだから高層ビルもある程度建っていたはずなのに、ほとんど溶けて低層になっている。人もほとんどいなくなり、地面がどんどんガタガタになって何回も転びそうになった。どうすればいいかわからないけど、とりあえず黒から逃げた。逃げて逃げて逃げた。
「りあるちゃん、雨やんだみたい。」
言われて気づいた。誰もいない道路のど真ん中で立ち止まって傘を閉じた。
「あぁ、よかった……。あ!!!!」
「え、なに!?」
知り合いを見つけたから走ってしまった。
「神様からの使徒、神谷じゃないかー!」
「うん違うよ、あっちから来てる2人は?」
「RGとゆきって言うんだって!で、私はりあるちゃんなんだって。」
「どういうことだよ……。」
「はあー、心配してなかったけど、よかった、生きてて……。」
「まぁ……神だし。」
「さっすが〜!」
「はぁ、ちょっと、急すぎますよ……!」
「あっ、ごめんごめん。こいつは神谷!神からの使徒なんだー!」
「適当に言うな。まぁ、よろしく、RGとゆき。」
「え、なんで名前知ってるの!?神だから!?」
「さっき教えてもらったんだよ」
「よろしくお願いします、神谷さん」
「よろしくぅ!神からの使徒ちゃあーん!」
「……おう。」
「あ、そういえば連絡してない!ごめんね、ちょっと今やらせてもらうね。」
「さっき言ってた物知りな人?」
「うん!せんせー!」
「……。」
「あわわっ、電話きた。」
通話が始まった。
『RG、聞こえる?』
「うん、聞こえるよ。」
『私、1人で考えたんだけど……この今私達が巻き込まれてる、この謎の台風は、神が私達の存在を消そうとしてきてるから、あるんだと思う。』
急にファンタジーみたいな……って思ったけどこの状況すでにファンタジーみたいだな。
「え……?ちょちょちょ、どういうこと?私、あとで傘の話したくてっ、雨で溶けない雨が見つかったの!」
「その神の話、私もそう思う。」
『うおっ、だ、誰だい?』
「唐突に話し始めて申し訳ない、神谷と申す。今ゆきたちと一緒に居させてもらってる。」
『そうなんだ、よろしくね。賛同してくれて嬉しいよ。主の話も聞きたい、けどこれだけは喋らせてほしい……ここは、神からしたら本来あってはならない世界。本当は神が気にいってる世界があると思うんだけど、ここはその世界のパラレルワールドなんじゃないかな。』
『RGさ、自分のことをどう思ってる?』
「きゅ、急に難しいなぁ。うーん、世界を平和にするために生まれた元気な女の子、って感じ?」
『RGは、サイボーグなの。』
「はえ……?」
『ある事故があって重傷を負ったRGは人間のままじゃ生きることが難しかった。だから私が、RGの体を機械と合体させたの。』
「えっ……。」
「っ、……。」
またゆきが気絶して倒れかけたけど神谷が支えてくれた。
『いま、ゆき気失った?』
「う、うん……最近多いんだ。」
『多分、事故がゆきにとっては、トラウマなんだと思う。だから誰かが傷つきそうなところを見ると、そうザアアアアアアアアアアアアアア……』
電話越しに激しい雨が降っている音が聞こえ始めた。
「え、ねぇ、大丈夫!?」
『ごめん、大丈夫じゃないかも。』
「電話はいいから早く逃げて!!!」
『いや、もういいんだ。』
「え……?」
『RG達がここを出た後も、何回も雨が降って今私がいるところ以外はもう、ほとんど溶けてなくなってるんだ。この地域に逃げる場所なんて無いよ。』
「そんな、まだ、どこかあるって!!!」
『説明しようと思ってたこと、まだあるけどその神谷って人に教えてもらいな。まぁ、私の話は仮説にしかすぎないけど……。』
「いやだ、ねぇ、やめてよ、ねぇ先生!!!」
『しょうがない、私達には逆らえない事象ってもんがあるんだよ、RG。あぁ、雨で溶けない傘だよね、それがあったら絶対神に逆らえると思う。あ、天井が……。』
雨の降る音がクリアに聞こえる。ついに天井にまで穴が空いてしまったのだろう。
「そんな……。」
ぼちゃ、ぼちゃ、と恐らく人肌にあの黒い雨が落ちている音。もう溶け始めてしまう。
『所詮、私はいらないものだったってこと。でも、私が延命したRG。もう、少し、長い、き……して ね…………。』
ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
やがて、音がこもり始め、
ピロン
スマホさえ溶かしてしまったのか、静かに電話が切れた。
RGの顔は暗い。あの、いつもの元気は黒い雨に吸い取られてしまったのか。
「……RG、あの人が言いたかったことを説明する。」
「………………神谷、」
「おう……、あんた、自分の体は機械だと思うか?」
「今まで、思って、なかったけど、さっき先生に言われたから……。」
「……だよな、多分な、今のこの状況
問題は、あんた。」
「……。」
RGを指差す。
「言い方が悪かったが、お前も、原因の一つってことだ。」
「えっ、ねぇ神谷、なんでRGが原因に……?」
「さっきの先生にサイボーグと言われていたにも関わらず、本人はそうは思っていない。というか、実際に体を見てみても機械の要素はない。」
「まだ、内臓とかに機械を使ったとか、そういう可能性はあるじゃん」
「それだけをサイボーグっていうか?一部の内臓を手術した人は人間だろ。だけど、先生はサイボーグって言った。ってことは、どこかこの世界が狂ってるんだ。
なんでかは分からないけど、きっとRG以外にもおかしなねじれが発生しまくってる。そのせいで多分、神はめんどくさくなったんだ。だから、もう壊れる前にこの世界ごと消す気なんだよ。」
「そん、な……。」
「なんで、神谷もさっきの人もそんなこと知ってるの?本当に神谷、私がふざけてたみたいに、神からの使徒なの?」
「……分からない。なんで自分がこう思えるのかも分からないけど、もしかしたら自分もあんたの言葉で設定がねじれたのかもしれない。」
「設定って……。」
「ついでに教えておく。あんた、神が気に入ってる世界では、この世の希望のアンドロイドなの。全てにおいてトップで、世界を平和にするために先生につくられて生まれた、らしい。それのパラレルだと思うと、確かにサイボーグは納得がいく。」
「…………そうなんだ。」
「RG……。」
「ごめん、私ちょっといろいろ、考えてくる。」
走って少し高めの建物に入って行った。意味がわからないし、混乱するのも当たり前か……。私も意味が分かっていない。
「っはぁ……!」
「あっ、ゆき……。」
ゆきが飛び起きた。ゆきも、RGを失う怖さでこうなってるってさっきの人言ってたな……きっとみんな苦しいんだろう。
「……RGは?」
「ちょっと考えてくるって。」
「……そうですか。さっきの先生の話、聞きましたよね?」
「あ、う、うん……、RGのことだよね?」
「そうです……先生に手術してもらった記憶は、確かにあるんです。でも、今の今まで、忘れていたんです。私にとって、辛い出来事だったからっていうのは分かるんですけど、サイボーグだなんて、微塵も思っていませんでした。記憶がおかしいんです。どうすれば、いいんでしょう……。パラレルワールドだからって、記憶すらまともに扱われないのですか?もう私達溶けるしかないのでしょうか……。」
「そんな、きっと、何かあるはずだよ……!!」
励ましがうまくいかない。やっぱり、あの元気なRGじゃないと……。
「ちょっとごめん、RGの様子、みてくるね。」
「えっ、は、はい……。」
とりあえず神谷、ゆきを任せたーっ。
RGは階段の踊り場で、窓の外を見ているようだった。
「えっとー、RG?」
「あ、りあるちゃん。」
顔は元気そうなふりをしているが、どことなく普段と違う雰囲気がする。
「ねぇ、りあるちゃんはさ……これって私だと思う?」
指差されたところを見てみると、綺麗な指が静かに落ちていた。その指差しに使っていた手は小指だけかけていた。
「ひぃっ……あ、RG!?」
「この子のことも私って言えるのかな?私さー、今までずっと人間として生きてきたんだ。なのにさ?先生からああ言われて、もう分かんなくなっちゃった。指を切っても、血一滴も垂れないんだぁ。ねぇ、私ってなんだと思う?」
どこか頭のネジが外れているような、不気味さ。目の玉がぐりぐりと動いていてこわい、恐ろしい。
「RG、一旦……落ち着いてくれない?」
「なんでぇ?落ち着いてるよ、」
相手を落ち着かせるために、まず自分を落ち着かせよう。ふー、と深呼吸をする。
「……血、本当に出てないねぇ。でも前まではこうじゃなかったんだよね?」
「うん、こんなの今日がはじめてだよぉ。」
「なんでかな、神谷も私がふざけてたら設定が変わったし、もしかしたら言葉でどんどん設定が変わるのかもしれない。」
「あ……確かにね。」
これ言っただけでだいぶ落ち着いてくれた。言葉でそんなすぐ変わるとは思えない……けどこの状況だから受け入れざるを得ない。
「RGさ、ずっと世界を平和にするために生まれたって言ってたじゃん。」
「うん。」
「パラレルワールドのRGもそのために生まれたらしいじゃん?こっちがパラレルワールドで他の世界が正しい世界なのかもしれないけど。」
うまくまとまらない、変にがんばって勇気づけようとすると、下手くそになるよな。
「パラレルワールドなんてある時点で、もう本当の自分とか意味分かんないじゃん?だけどさ……RGの場合は、世界を平和にするためっていう立派なアイデンティティがあるじゃん。それがあるなら、もうどんな姿でもRGはRGって胸張って言えるよ!」
本当にこんなんでよかったのかな、でもなんとかまとめられた。
「……そうだね、私は世界を平和にするために生まれた、最強の生き物RG!!ありがと、りあるちゃん、おかげで元気になれたよ。」
「うんっ、!よかった!元気なRGが一番いいよ。でも本当に、言葉に左右され過ぎじゃない私達……?」
「多分、世界を今までの当たり前のように維持できなくなったから、すぐ変わっちゃうんだろうな。」
「えっ、神谷とゆき。」
「帰ってこないし話聞こうかなって。まぁもう終わってたけど。」
「そうだったの?なんか、ごめんね、頭ごちゃごちゃになっちゃって……。」
「でも、そのおかげでだいぶヒントは掴めました。」
「ヒントって、なんのヒント?」
「この世界の救い方のヒント。」
「えっ、本当に!?!?!?」
流石世界を平和にするために生まれたRG、食いつきが違う。
「言葉によってこの世界は左右される。そこで大事になってくるのがその傘だ。」
「あっ、私の?」
黒い雨に溶けない最強神傘だ。
「そう、先生も、それがあれば神に反抗できるっておっしゃってましたしね。」
「その傘はきっと、りあるが最強だと言いまくった結果生まれたチート傘だと思うんだ。相当な世界のバグだが……これをありがたく使わせてもらう。」
「そうなんだ、でもこれ防げるだけじゃん?これでどうするの?」
「神はかったるいからこの世界を壊そうとしてる。だから、これを止めるには、神をとっちめるしかない。」
「あ、思ってたよりも物理で殴るんだ。」
「私達にはこのねじれを直すまで力はないので……。」
「……そろそろ、また黒い雨が降る。神はねじれがあるところを重点的に潰したくなるはず。だから、私が神のオーラを、感じ取る。それで一気に神を潰す。」
「……えっ?wオーラ?ど、どうやって?」
「まぁ、神はちょっと光ってるから、そこを見極める。それで、神を傘でブッ刺してやりな。」
「正直、意味分かんないんだけど……。」
「まぁ、なんとかなる。そのバグった傘で世界の内側から神を突けばびっくりして雨はやむよ。」
「えぇ……まぁ、神からの使徒だもんね、神谷?」
「おう。あー、まぁ、自分を強く持ってさしなよ。いくら世界全体がバグってるとはいえ、神に歯向かうんだからそれに負けない心の強さが必要だよ。」
「えぇーーっ、そういう大事なことは先言ってよ!!」
「まぁまぁ、りあるちゃんなら大丈夫でしょ!」
「そうですね。でも、神ってどこに来るんですか?歩いてるんですか?オーラって言ってるってことは姿はないんでしょうけど。」
「空から来る。あの、雲の上にいるから雲の隙間からさすんだ。」
空は俄然黒いままだ。てか、今気づいたけど雲が近すぎる。確かにこの近さならめちゃ頑張ればさせるのかもしれない。いやでも……本当にできんの?意味わからんままだけど……。じっと空を見つめ続ける……。
「あぇ……?空、ひび割れてね?」
「え? わ、ほんとだ!!」
「いよいよ、この世の終わりって感じですね……。」
「本当にギリギリだな……。高いところの方が近いから、なるべくそこからさしたい。この建物の屋上が一番高いかな。だから溶ける前に、短期決戦で行くぞ。」
「うん……。」
少しずつ階段を登り始める。
自分をしっかり持つ……?今まで私、何も考えずに、まさに量産型の人間として生きていきた。学校に行くのがめんどくさかったけど、行かないといけないから、っていう理由だけで行っていた。RGとかの方が、絶対自分を持ってると思うけどぉ〜。私って何だろう。私って……。
「! 来る。」
神谷が静かに叫んだ後、雨の音が聞こえ出した。神谷、はっきりした物言いでリーダーっぽい。いつもふざけ合ってるだけだけど、こういうことになると本当頼りになる。
「みんな傘の中入って走るんだよ!!」
「私はちょっとぐらい溶けても大丈夫だから、みんな先に入って!」
RG、もうサイボーグとして振る舞ってる。吹っ切れるの早いなぁ、でも、世界を平和にするのがRGの目標だもんね。
「すいません、ありがとうございます……!」
ゆきは喋り方が丁寧。体が弱いから、その分気を遣ってるんだろうな。でも、しょうがないよね、自分の妹が大怪我したところを見たら誰でも嫌になるよ。それでも立ち上がれてるのが、一番すごい。
私、私は……。みんなと比べると、やっぱり何にもないのかも。だけど確か、公共で哲学の話されたな。からっぽの状態だからこそ、世界のいろんなものが入ってくる。からっぽだと世界と繋がれる。世界と同じになれるってことは、世界にあるもの何にでもなれるって。最初に聞いた感想は『暴論過ぎる』だった。でも確かに、いろんなことが今日はいっぱいあった。それは私がからっぽで、なんにもなかったから受け止められたのかな。そっか、何者でもないのが、私なのかな?何にでもなれるって、思ってる自分が、私なんだ。
屋上のドアをギャっと開けた。神谷が指差したところはうっすらと光っていて他の雲たちとは違った。雨で見づらいがそこはちょうど大きな空のひび割れができているところだ。私はそこを目掛けて助走をつけだす。ギリギリみんな(というかゆき)が傘の中を入れるぐらいで。
「私って、何者でもない。だけど、何者でもないから、なんにでもなれる。」
たっ、たっ、たっ ダッ!!!大きくジャンプ。
「わたしは……!何にでもなれるのが私だ!!!!!!!!!」
傘を閉じて、神に反抗として、大きくさした。
傘を空の割れ目に突きさした瞬間、全体的に黒く覆われていた空は光りだし、希望を私達に与えてくれた。でも、ここは、ギリギリ屋上を飛び出した空中だ。やべえ、死ぬ。
「傘開いてしがみついてろ!!!」
言われた通りにしたら、RGもゆきも私にしがみついてきた。うぉおって思ったけどそんな重くない。これもバグか。傘がふわふわ浮かんで二次元の世界みたいだ。まぁなんでもなれるしな。これだと地面に降りる時に捻挫とかで済みそう。
「わぁ…………!?」
さっきまでの禍々しさを孕んだ雨が透明になり、逆行して降って(?)いる。光を反射していてすごく綺麗だ。あぁ、だんだん光が強くなって………………。
『速報です、サイボーグの少女が完全に修理されまし____』
「行ってきまーす!」
今日も元気に学校へGO!昨日まで台風の予報が出てたの今日一瞬でなくなっちゃったなぁ〜、あ!
「お!神様の使徒、神谷ではないかー!」
「はーい、神谷だよー。」
「前まで時々しか来なかったのにこれからずっと来てくれるようになってうれしいー!」
「なんかお前面白いし、来てみた。」
「わーい!えーっと、1時間目ってなんだっけ?」
「公共じゃない?」
「えーそうなの!楽しみ〜。」
自分が何かっていうことを、じっくり考えられるから……!
パラレル・パラソル 酔生夢死 @Th1nkS0Laia
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます