4口目

 今日も私は、クラスの中心で楽しそうに喋る幼馴染のことを盗み見る。どこで変わっちゃったのかな、なんて思いながら。


 放課後、みんながだべったり、部活に励んだり、遊びに行ったりしている中で、私は黙々と文化祭用の書類に目を通していた。

 委員長として頼まれた仕事だ、しっかりこなさなければ。

 時々私にかかるクラスメイトからのさよなら、じゃあねといった声に軽く返答しながら、確認を続ける。

 ただ、耳に入ってくる彼女の声がやけに大きく聞こえてくる。

 仕方ない、家で進めるか。そう決めて、帰る準備を進めていると、

「あれ、もう帰っちゃうの?」

 と声がかかる。

「うん、家でやろうと思って。」

「じゃあ私も帰る!」

 え?

 と私が困惑している間に、彼女は友人に別れを告げ、こちらに向かってくる。

「じゃあ行こ!」

 そういって彼女は、私の手を掴んで引っ張る。

 慌てて私は、彼女の友人に挨拶をして、置いていかれないようについていく。


「久しぶりだね、一緒に帰るの。」

「ほんとだね。最近委員長忙しそうだったし。」

「そういえば、あの子達大丈夫なの?」

「へーきヘーき。あの子らも私たちが幼馴染なの知ってるし。」

「どんな理屈よ…。」

「だって、いつも委員長の話してる時めっちゃにこにこして聞いてくれるもん。」

「えっ!?」


 私の話してるんだ。恥ずいな…。


「別に私より、あの子達を優先してくれていいんだよ?」


 会話の中で、そう何気なく口にする。

 雑談の一つとしてとしか思っていなかったのだが、


「何言ってるの?」

「え?」

「そういえば、最近ちょっとよそよそしいなって思ってたけど。なんで?」


 突然彼女の雰囲気が変わる。


「いや、私達も昔に比べて色々変わったからさ、もし無理して昔のままにしようとしてくれてるなら、申し訳ないなって…。」

「無理してるわけないじゃん。」


 そう震えた声で言い切られ、思わず彼女の顔を直視してしまう。

 その頬は赤く染まっており、目は若干湿っているように感じる。


「私が委員長と仲良くしてるのは、今この瞬間も委員長のことが好きだから。無理なんてしてないし、昔と違ってどうこうなんて思ったことない。」

「…」


 言葉が出ない。


「それとも、……委員長が私のこと嫌いになった?」

「そんなことない!」


 思わず私も声が大きくなってしまう。


「私だってあなたのことが好きだし、できればずっと仲良くしたいって思ってるから!」


 そう言い切って、お互いに見つめ合う。

 長いようで短い時間が流れた後、どちらともなく堪えきれなくなって笑い出す。

 そのまま手を繋ぎ直し、一緒に道を歩いていく。

 私も彼女もなかなかなことをいった気がするけど、今は気にしなくていいや。


 その帰り道は、昔と変わっていなかった。

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